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クアンチの退役軍人が最大17億ドンを断って残した沈香樹2,000本

ベトナム中部クアンチ省キムディエン社トゥアンホア集落で、退役軍人ディン・ティエン・フオン(Đinh Tiến Phương)氏が2.6ヘクタールの林を手放さなかった。仲買2人が林ごと買いたいと持ちかけた額は12億〜17億ドン。9月22日付のNông nghiệp và Môi trường(農業環境紙)が伝えた話で、この林には2,000本を超える trầm dó(チャム・ゾー)が立っている。

日本の原料調達の側から読むとき、この記事の値打ちは「買える産地が見つかった」ことではない。ベトナム中部の山地に、個人が世代をまたいで維持してきた香木の林が現に存在し、地元の仲買がそれに値をつけている——その事実関係のほうにある。

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仲買2人が林全体に示した額は12億〜17億ドン

提示額は、1円=約164ドン(2026年9月24日時点)で換算すると約730万〜1,035万円にあたる。原文は「tới 1,7 tỷ đồng」、つまり17億ドンを上限とする幅で書いている。ベトナム語の tỷ は10億を指すので、1,7 tỷ は1億7,000万ドンではない。

フオン氏は額を検討したうえで売らなかった。理由は本人の言葉として残っている。「子や孫のために残しておく。私にとって trầm dó は経済的な価値だけでなく、祖父母が残した木でもある。子孫にも trầm dó を植え増やして、将来の収入源を増やすよう勧めている」。先祖の遺産として囲い込むという話ではなく、本人は将来の収入源という位置づけも同時に語っている。原文の節見出しも「まだ売っていない」という書き方で、林の処分そのものを閉じたとは伝えていない。

林の規模は次のとおり。

項目 記事の表記 円換算(1円=約164ドン)
林の面積 2.6 ha —
trầm dó の本数 2,000本超 —
幹の直径が30〜70cmの木 100本超 —
樹齢 30〜50年の木が多数 —
最高齢の木 100年超(弟に分与) —
仲買2人が林全体に示した額 12億〜17億ドン 約730万〜1,035万円
父の墓を建てるために売った1本 1億ドン 約61万円
孤児となった孫を支えるために売った1本 7,500万ドン 約46万円
キムディエン社で trầm dó を育てる世帯 3世帯 —

高さ数十メートルまで伸びた樹冠が隣り合って並ぶ。

曾祖父が丘の祠のそばに植えた1本から、キムディエン社の3世帯へ

2,000本の起点は1本の木だ。フオン氏の曾祖父が森から持ち帰り、家の裏手のチャン(Chàn)という丘に植えた。100年以上前、この丘には古い祠があり、周囲には大きな木が立っていた。そこに植えた trầm dó はよく育ち、多くの種を落とした。

祖父のディン・クアン・チャウ(Đinh Quảng Châu)氏がその種を採って植え足し、4本がよく育って再び種をつけた。最初の1本は枯れたが、そこから増やした木は家族が残し続けた。当時の動機を、フオン氏はこう語っている。「昔は住民も trầm dó の経済的な価値をよく知らなかった。祖父母は、木に香りがあり、丘の古い祠と結びついていたから残しただけだ」。

キムディエン社という地名は新しい。2025年の社再編で、旧ミンホア県(旧クアンビン省)のホアソン社とホアホップ社が統合して発足した。クアンビン省とクアンチ省が一つのクアンチ省になったのも2025年で、記事に出てくるホアソン森林警備ステーションのホアソンは統合前の社名だ。

林ごとは断ったが単木は1億ドンと7,500万ドンで売られている

「売らなかった」だけを取り出すと、この林の実態を外す。家族は、必要が生じたときに単木を売ってきた。約40年前の320ドンは、家計が苦しくなったときに父親が老木1本を手放した額で、当時の額面のまま記す。

父親の死後は、フオン氏が墓を建てるために1本を1億ドン(約61万円)で売った。別の1本は7,500万ドン(約46万円)で売り、孤児となった孫の暮らしを立て直す費用に充てた。庭にはいまも100年を超える1本が残っており、これは弟に分けている。

断ったのは林全体の一括売却であって、単木の取引ではない。提示額は2.6ヘクタールの土地を含む林ごとの値で、内訳も樹齢別の本数も示されていない。1本あたりの単価として読み替えることはできない。

30〜50年伐らない林は、その間どうやって稼ぐのか

フオン氏は trầm dó を育てにくい木とは見ていない。母樹から採った種を乾かして地面にまく。2年目に密生した株を間引き、周囲の下草(thực bì)を刈って生育空間をつくる。苗が小さいうちは柵で囲って守り、大きくなれば手間は大きく減る。

「木が2年目になったら間引いて、周りの下草を刈り払う。大きくなれば手入れの手間が減るので、樹冠の下で牛を飼って収入を足している」とフオン氏は話す。頭数も金額も出てこない。

林床をどう使うかは、ベトナムの林業で収益を足す手として各地で動いている。首相決定で承認された618ヘクタールのハイテク林業区は、太く育てた大径材の下で薬用・香料植物を育てる構想だが、区画整備と種苗センターの立ち上げが先行する計画段階にある。キムディエンの2.6ヘクタールでは、すでに立っている林の下で牛が飼われている。同じ「林床の活用」でも、一方は制度側が承認した計画の中の将来品目、もう一方は個人の林で現に動いている放牧だ。

伐期の取り方も対照的だ。フエ市フーバイ地区でアカシアだけを40年続けてきた農家は、植栽から4年で伐り、8ヘクタールを毎年およそ2ヘクタールずつ収穫して現金収入を平準化している。台風で倒される危険を避け、単価の高い大径材まで育てない判断だ。キムディエンの trầm dó は30〜50年生を立てたまま置いている。回収までの年数が一桁違う林が、同じベトナム中部にある。

ホアソン森林警備ステーション長のディン・フー・ビン(Đinh Phú Bình)氏は、trầm dó を経済的な価値がある在来種で、生育期間の長い樹種だと説明する。長く残した木には、土と水を保ち、種苗の供給源になる働きもあるという。

附属書IIの注釈#14はウッドチップと数珠を除外から外している

日本語の「沈香」は、木に樹脂が沈着した木材そのものを指す。記事が扱っているのは trầm dó という立木のほうだ。ベトナム語の trầm dó は Aquilaria 属(ジンチョウゲ科)の現地通称で、dó bầu、trầm hương も同じ属を指すとされる。

ベトナム国内の扱いから確かめたい。政令84/2021/NĐ-CPは、政令06/2019/NĐ-CPの危急・希少な森林動植物リストを差し替えた。その附属書Iを開くと、植物はグループIAが21種、グループIIAが53種で、どちらにもジンチョウゲ科もAquilariaも入っていない。同じ政令はCITESの国内実施も担い、第20条は附属書II・IIIの植物標本の輸出を「第18条にもとづき番号を付与された栽培施設から」のものと定め、第22条はCITES許可書をベトナムCITES管理当局が署名・押印して発給すると定める。国内の希少種指定ではなく、栽培施設の登録番号とCITES許可書の側で線が引かれている。

そのCITES側を見る。Aquilaria spp. は附属書IIに掲載され、2023年2月23日発効のCoP19注釈#14が付く。#14は種子・花粉、無菌容器で運ぶin vitro苗と組織培養、果実、葉、枯渇沈香粉末(圧縮粉末を含む)、小売用に包装された完成品を規制対象から除く。ただし最後の除外は、ウッドチップ・ビーズ・数珠・彫刻には適用されない。沈香の主力商材がここで除外の外に置かれているため、品目を決める前に現行の注釈本文を当たる。

日本側では、経済産業省が、輸出国のCITES管理当局が発行する「CITES輸出許可書等」を取得したうえで輸出国と日本の税関で手続きを行う必要があると示している。附属書II該当貨物は、生きている動物かどうか、特定国原産かどうかで「事前確認」と「通関時確認」に分かれる。木材として扱うなら、2025年4月1日施行の改正クリーンウッド法が第1種木材関連事業者に課す原材料情報の収集・整理と合法性の確認も重なる。

書類の側から組み立てている産地はすでにある。ランソン省でランソン雪ホアンダンの苗を各種3万本規模で出荷する事業者は、省の森林保護支局と農業環境局から商業目的の栽培地コードを取り付けている。2025年初の地元紙報道では、接ぎ木した沈香苗5,000本超の併営も伝えられた。

樹脂が沈着しているか、学名は何か、栽培登録があるか——調達判断に必要なこの3点は、いずれも今回の報道では分からない。ベトナム中部の山あいに Aquilaria 属の林が2.6ヘクタール分現存し、地元の仲買が値をつけた。産地の分布と価格感を知る材料にはなるが、調達の候補として扱う段階にはない。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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