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コーヒーからドリアンへ、収入が7倍に伸びた農家の選択

ベトナム中部高原ダクラク省で、コーヒー農家がドリアンへと畑を切り替えている。AFPが2026年8月末に伝えたのは、エアクヌエック村のファム・スアン・ラン氏(56歳)が約400本のドリアンから年60トンを収穫し、今年の見込みで7万6,000ドル(1ドル150円換算で約1,140万円)を手にするという話だ。同じ土地でコーヒーだけを続けていれば、収入はおよそ1万ドル(約150万円)にとどまっていた。数字の差は、そのまま「転換の重み」を映している。日本の農産物バイヤーにとっても、この動きは単なる遠い国の増産話ではない。中国の一大需要が産地の作物構成を書き換え、その品質基盤が、やがて日本向け供給の土台にもなり得るからだ。

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コーヒーを一部だけ残し、ラン氏がドリアンで年7.6万ドルを得るまで

ラン氏がドリアンに軸足を移したのは20年ほど前にさかのぼる。当初はコーヒーと併作しながら高級品種を育て、いまでは収入の柱が完全に入れ替わった。本人の言葉は率直だ。「コーヒーでもそこそこ暮らせる。だが金持ちにしてくれるのはドリアンだ」。稼いだ資金は車や住まい、別荘へと形を変えた。

一方で、同じ道を選んで引き返した農家もいる。フン氏は5年前にコーヒーを完全にやめてドリアンに賭けたが、2年で元に戻した。求められる品質を保てなかったためで、「できなかった。失敗した」と振り返る。ラン氏の成功とフン氏の撤退を分けたのは価格でも面積でもなく、実がそろうかどうかという一点だった。転換の物語は、華やかな増収の裏に「品質を維持できる者だけが残る」という選別を抱えている。

転換が広がる背景に、中国が生鮮ドリアンへ年75億ドルを払う市場

この流れを押し上げているのは中国の食欲だ。中国の生鮮ドリアン輸入額は2025年に約75億ドルに達し、2015年比でおよそ12倍に膨らんだ。ベトナムは2022年の輸出議定書で正式に中国市場へ入り、翌年には数量ベースでタイを抜き、20年近く続いた首位の座を奪った。中部高原は世界のコーヒーの約6分の1を産する一大産地だが、その畑がいま「果物の王様」に置き換わりつつある。

コーヒー相場自体も高値圏にあり、農家にとって転換は「安いから逃げる」選択ではない。より高い収益を狙って上を取りにいく攻めの判断だ。もっとも、コーヒーを捨てずに価値を高める道もある。自分の名前を冠したコーヒーを米国へ売り出す動きは医師を辞めたエデ族のY Pốt Niê、自分の名で米国へ売るダックラックのコーヒーで描いたとおりで、産地には「転換」と「高付加価値化」という二つの選択肢が併存している。

数字で見る転換 ― 作付け5倍、輸出は1.8億ドルから40億ドルへ

裏取りできた数値だけを並べると、市場の膨張ぶりがはっきりする。

指標 数値
ベトナムのドリアン全国作付面積 過去10年で約5倍の20万ha
ベトナムのドリアン輸出額 2021年 約1.8億ドル → 2026年 約40億ドル(政府目標)
2026年上半期の輸出額 約11億ドル(前年同期比+32%)
中国の生鮮ドリアン輸入額(2025年) 約75億ドル(2015年比 約12倍)
ラン氏の実績 約400本・年60トン・見込み7.6万ドル

5年で輸出額が20倍規模へ跳ねる作物は珍しい。冷凍ドリアンの伸びも速く、2026年第1四半期の輸出は約2億2,170万ドルと前年同期の3倍を超え、平均単価は1トンあたり約4,302ドルと生鮮より2割前後高い。長距離輸送と長期保存に向く冷凍は、中国以外の遠い市場を開く鍵になっている。

品質を揃えた農家だけが残る ― カドミウムと産地コードの壁

拡大の裏側で、産地はすでに選別の局面に入っている。中国は2025年初頭から検疫を厳格化し、カドミウムと着色料(オーラミンO)の検出を理由に検査を強めた。この結果、2025年上半期の対中生鮮ドリアン輸出は前年から45%落ち込んだと報じられている。検査ラボの処理能力も需要に追いついていない。

ここで効くのが、施肥設計と産地コードによる品質の作り込みだ。実の等級をそろえた農家が価格でも取引継続でも優位に立つ構図は、A級8割・キロ6万2千ドン、ダクラクのドリアン農家が施肥で品質を揃えたで見たとおりで、フン氏がつまずいたのも、この品質の壁だった。中国の厳格化は産地を淘汰する圧力であると同時に、生き残った農家に「厳しい市場でも通る品質」を強いる装置として働いている。

日本の調達側が今読むべき理由 ― 中国が鍛えた品質は日本にも効く

ここが日本のバイヤーにとっての核心だ。中国向けに整えられたカドミウム管理・産地コード・栽培記録は、そのまま要求水準の高い日本市場に転用できる品質基盤になる。日本のスーパーや通販で並ぶ冷凍ドリアンの多くはすでにベトナム産で、輸入量も増加傾向にある。中国という巨大な検問所を通過するために産地が積み上げた管理体制は、日本の調達担当が求めるトレーサビリティと重なる部分が大きい。

示唆は三つに整理できる。第一に、スポットの相場高騰を追うのではなく、産地コードと検査体制を持つ輸出者・農園と早期に関係を結ぶこと。第二に、生鮮より単価が高くても保存性と安定供給に優れる冷凍を主軸に据え、旬の変動リスクを平準化すること。第三に、ドリアン一択に寄せず、同じ高付加価値の熱帯果実へ視野を広げることだ。畑先で完売する高単価果実の例はソンラのバンレイシが1個1.3kg、畑先で完売し4haで利益15億ドンにもあり、産地の稼ぐ力はドリアンだけにとどまらない。中国需要で品質が底上げされたいまは、日本側が有利な条件で入り込める時間帯だ。

作付け偏重が生む次のリスク ― 価格暴落と対中偏重のリスク

強気一辺倒では読み違える。2026年に入り、メコンデルタでは収穫期を前にRi6種の農園価格が1kgあたり2万〜2万5,000ドンまで下落した局面もあった。作付面積の急拡大は供給過剰と表裏一体で、検疫強化と重なれば価格は一気に崩れる。2026年上半期の輸出のうち対中がなお大半を占め、単一市場への依存度は高い。

コーヒーからドリアンへの一斉転換は、産地の作物構成を単一の需要先に賭ける動きでもある。だからこそ、品質で選別を勝ち抜き、冷凍で市場を分散し、輸出先を中国以外にも広げる産地・輸出者が、次の数年で強さを見せる。日本のバイヤーがそうした「分散志向の相手」を選ぶことは、供給の安定と価格の予見性という自らの利益にも直結する。

まとめ

ラン氏の7.6万ドルは、コーヒーからドリアンへの転換が生んだ具体的な成果だ。だがその隣にはフン氏の撤退があり、産地全体では供給過剰と検疫強化という試練が進む。中国需要が押し上げたのは面積だけでなく品質管理の水準であり、その基盤は日本市場にも効く。相場の熱に乗るのではなく、品質・冷凍・市場分散という三つの軸で相手を選ぶ調達こそが、この転換期にベトナム産果実から最大の価値を引き出す道になる。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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