NÔNG NGHIỆP VIỆT NAM — TẠP CHÍ NÔNG NGHIỆP ĐÔNG NAM Á

韓国で5年近く学んだ有機ブドウがタインホアでキロ1,840円になる

ベトナム北中部タインホア省ドンティエン坊(phường Đông Tiến)で、グエン・フー・フアン(Nguyễn Hữu Huân)氏が1ha超の畑に建てたハウスのブドウが、2026年産で約6トンの収穫見込みに入った。販売はほぼ全量が園での直売で、価格は1kgあたり約30万ドン。1円=163ドン(2026年10月10日時点)で換算すると約1,840円になる。ベトナム農業環境新聞(Báo Nông nghiệp và Môi trường)が2026年10月7日に報じた。

この園が日本の農業・食品関係者にとって読む価値を持つのは、技術の入り口が援助機関でも種苗メーカーでもなく、韓国へ出稼ぎに行った個人の手帳1冊だったという点にある。フアン氏は2019年に労働者送り出し制度で韓国に渡り、高設のブドウ農場で5年近く働いた。持ち帰ったのは資金と、角の擦れた手帳、そして韓国の指導技師が選抜した苗1,200本だった。

目次

韓国の農場で書き溜めた手帳がそのまま栽培設計になった

原文によれば、フアン氏はハノイ生まれ・ハノイ育ちで、幼いころから農業に愛着を持っていた。2019年に労働者送り出し(xuất khẩu lao động)の枠で韓国へ渡り、高設技術を使うブドウ農場で働く。本人が最も持ち帰りたかったのは個々の栽培技術ではなく、農業の考え方のほうだったと記事は書いている。韓国側の指導技師から繰り返し言われたのは、作物を健やかにしたいなら先に土を健やかにしろ、という一点だった。

そのため出稼ぎ期間中、小さな手帳はいつも畑に持ち出され、土壌改良の手順とブドウ園管理の実地経験が書き留められていった。2024年初めに労働契約が終わり、妻とともに事業を起こすためタインホアへ向かう。ここは注意して読む必要がある箇所で、記事のリード文は「故郷に戻った」という書き方をしているが、本文には出身地がハノイと明記されている。タインホアは数か月の土地探しの末に選ばれた就農地であって、生まれ故郷ではない。

選んだのは、ドンティエン坊にある生産性の低い農地1ha超。所有ではなく請け負い(nhận thầu)による賃借である。放棄された土地ではなく、使われてはいるが収益が上がらない農地、という状態だった。

ハウスを溶接せずボルトで組んだ理由

畑の真ん中にハウスの骨組みが立ち始めたとき、周囲は懐疑的だった。記事は、無茶な賭けだと言う人がいた、気難しいと評判の作物に賭けていると見る人がいた、と当時の反応を記録している。

この局面でフアン氏が取った設計が、この記事でもっとも示唆に富む部分だ。ハウスの骨組みを溶接で固定せず、ボルトで組み立てる方式にした。本人の説明はこうだ。「こういう建て方は手間もかかるし大変だが、代わりに機動性が高くなる。土地の賃借が更新されなかった場合や、自然災害で状況が変わった場合に、骨組みを全部ほどいて別の場所へ移せる」。

賃借地での施設投資という条件を、設備仕様のレベルまで落として織り込んでいる。農地を所有できず賃借で組む以上、固定資産は動かせる形にしておく——ベトナムの農地で施設園芸を検討する日本側の投資家にとって、これは契約書の条文より先に見ておくべき実装例である。ただし、この仕様が守るのは「土地を失ったときに設備を回収できる」という一点で、暴風雨でハウスが壊れること自体は防げない。その線引きは、翌年の被害がはっきり示した。

ハウスが完成しても、フアン氏はすぐに植え付けなかった。数か月を土壌改良に充てている。堆肥用ミミズ(trùn quế)を導入して有機質肥料の供給源をつくり、サトウキビの搾りかす(bã mía)を買い集めて微生物資材とともに腐熟させ、有機質の腐植に変えた。苗は韓国の指導技師に連絡を取って1,200本を選抜してもらい、ベトナムへ送っている。

この準備のおかげで、栽培中は化学肥料も化学農薬もほぼ使っていない。果実の糖度を上げる段階でカリを補う必要が出たときは、ミミズ堆肥の抽出液と自家発酵させたバナナの液を組み合わせて与えた。なお原文は「有機(hữu cơ)」「有機の方向で」という書き方をしており、第三者認証の取得については何も書いていない。認証付きの有機ブドウとして扱うのは行き過ぎになる。

2025年に収穫できたのは60kgだけだった

2025年、最初の房が実をつけ始めたところで大雨と暴風が襲った。強い突風がハウスのフィルムを広範囲に裂き、浸水で園はほぼ全滅する。1年近く投じた投資と管理の結果、手元に残ったブドウは60kgだった。30万ドン/kgで売れたとしても1,800万ドン、約11万円にすぎない。

タインホア省が2025年にどれだけの荒天にさらされたかは、同省の被害統計から見当がつく。台風5号による8月24日以降の大雨では、省内で14,194世帯・4万9,000人超が避難し、死者2人・負傷者2人を出した。稲は21,600ha超、畑作物は4,200haが被害を受けている(2025年8月29日時点の集計)。北中部でハウスを建てるという選択は、この気象条件の上に乗る。ボルト組みという仕様は、思想ではなく必要だった。

フアン氏は撤退しなかった。「あのとき、房が根元に落ちきるのを見ていて、胸が締めつけられた。だが農業で一人前になるには試練を通らねばならない、と自分に言った。一度の失敗でやめるなら、それまで築いた労力の全部が意味を失う」。夫婦で土壌改良と樹の管理をやり直し、地力が安定するにつれ園は回復して、収量が出る段階に入った。

キロ1,840円はベトナムのブドウ価格のどこに座っているのか

30万ドン/kgという値付けは、ベトナム国内のブドウ価格帯の最上段に近い。ベトナムのブドウ産地は南中部のニントゥアン(現在は省の再編でカインホア省に統合)に集中しており、ベトナム通信社の報道では同省のブドウ面積は1,244ha・年産約3万トンという規模だった(2018年時点)。タインホアは、そもそもブドウの産地ではない。

品目・産地 現地価格(ドン/kg) 円換算(1円=163ドン)
ニントゥアンの赤ブドウ(nho đỏ) 20,000〜40,000 約120〜240円
ニントゥアンの青ブドウ(nho xanh) 55,000〜80,000 約340〜490円
ブラックフィンガー(ngón tay đen) 200,000〜220,000 約1,220〜1,350円
タイアン村のブドウ全体の値幅 30,000〜300,000 約180〜1,840円
タインホア・フアン氏の園(直売) 300,000 約1,840円

産地であるニントゥアンの値幅の、上限にちょうど張りついている。ブドウ産地ではない土地で、産地の最高値と並ぶ単価を取っている。

ただし、量の側を見ると評価は変わる。6トンを1,200本で割ると1本あたり5kgにすぎない。vietnam-agri.comが7月に報じたハノイ・ノイバイ近郊で痩せた水田をハウスに変え韓国系ブドウを育てる農家の事例では、立ち上げ期で1本10〜15kg、現在は1本20〜25kgまで伸びている。フアン氏の園はその4分の1の水準で、2025年の全損からの立て直し途上にあることが数字に出ている。高価格は、品質だけでなく量の少なさにも支えられている。

同じノイバイの事例と投資額を並べると、規模感もつかみやすい。ノイバイの農家は8サオ(約2,880㎡)に約10億ドン、約610万円を投じ、年商は3億ドン超(約184万円)。面積あたりに直すと1ha換算で約640万円の売上になる。フアン氏の園は1ha超で、6トンを全量30万ドンで売り切れた場合の売上が18億ドン、約1,100万円。上振れすれば面積あたりの収益は高いが、1年の荒天で60kgまで落ちる振れ幅も同じ園が示している。

園に集まった声——「無茶だ」から週末の体験客まで

記事が記録している第三者の反応は、おおむね次の4つである。いずれも報道された範囲の記述で、本稿の取材によるものではない。

  • 着工時の近隣の見方:無茶な賭けだという声、気難しい作物に賭けていると見る声があった
  • 韓国の指導技師の助言:作物を健やかにしたいなら先に土を健やかに、と繰り返し言われた
  • 週末に訪れる家族・学校:生産工程を実際に見て収穫物を味わった来訪者から肯定的な評価と励ましが寄せられ、それが継続の動機になっている
  • フアン氏本人:「安全な農業はしんどいし費用も高い。だが成果を最初に受け取るのは自分の家族だ。作る者が食べる勇気を持てないなら、消費者がどうして信じられる」

記事の締めに置かれた本人の言葉はこうだ。「この園を思い出すとき、まともさで農業をやっているモデルだと覚えていてほしい。有機農業は早く金持ちにはしてくれないが、安全で持続的に発展できる場を社会と一緒につくることに少しでも寄与できたという点で、自分の心をいつも幸せにしてくれる」。

日本の調達担当がこの園から買えないものと、持ち帰れるもの

原料調達の観点では、この園は供給先にならない。年6トンという数量は、1件のOEM案件の原料ロットにも届かない規模で、しかも全量が園での直売に向いている。日本側がこの記事から取り出せるのは、ブドウではなく3つの設計情報である。

1つめは、賃借地での設備仕様。ボルト組みハウスという判断は、ベトナムで農地を借りて施設を建てる計画すべてに効く。契約更新リスクを設備の可搬性で吸収するという考え方は、委託栽培の契約書に「設備の原状回復」条項を入れるより、現場では実効性が高い。

2つめは、土づくりに数か月を先払いする工程設計。堆肥用ミミズとサトウキビ搾りかすという、どちらも現地で安く手に入る資材で有機質を回している。日本側が減農薬・有機志向の原料を現地に発注するとき、資材の輸入を前提にした仕様を押し付けると原価が合わなくなる。現地で循環する資材に落とせるかどうかが、価格交渉より先に来る。

3つめは、人である。韓国の農場で5年近く実務を積み、作業記録を自分で取り続け、帰国後に自力で施設を立ち上げられる人材が、省レベルに点在している。タインホアでは稲田にオニテナガエビを混養して同じ土地の価値を1.5〜3倍にした事例も出ており、同じ土地から別の収益を取り出す発想が県内で複数走っている。日本企業が現地で栽培委託や自社農場を組むときの現場責任者を探す先として、こうした帰国就農者の層は見落とされやすい。

韓国の受入枠が38.5%縮むと、この技術移転ルートはどうなるか

フアン氏の技術の入り口は、韓国への出稼ぎだった。その入り口は細くなりつつある。韓国の2026年のE-9(雇用許可制)受入枠は8万人で、2025年の13万人から38.5%の縮小となった。2026年の分野別配分は製造・造船が5万人、農業が1万人、その他産業が1万人、予備枠が1万人である(2026年1月19日報道)。

ベトナム側の動きも合わせて見ておきたい。2026年に韓国へ送り出す選抜として公表された4,200人の内訳は、製造業3,000人、漁業1,000人、林業150人、サービス業50人で、この枠には農業が入っていない(2026年3月12日報道)。第1期の募集全体では農業・畜産に2,382人の枠が設定されている。ただし、E-9とは別に季節労働の受け入れ枠も動いており、公表された数字だけで「農業経由の渡航が閉じた」と結論づけるのは早い。確実に言えるのは、枠が製造・造船に集中し、受入総数が3分の2以下に縮んだところまでである。

これが意味するのは単純な話だ。フアン氏のような「出稼ぎ先の技術をそのまま持ち帰る」型の就農は、枠が開いていた時期に韓国・日本へ渡った世代の層でピークを迎える可能性がある。日本側が現地の技術人材を確保したいなら、枠が縮んでからの採用競争を待つより、すでに帰国して自分の園を持っている層と組む方が早い。

加えて、この園は栽培だけで終わっていない。安全・有機志向の生産を公開することで、週末に家族や学校が訪れる体験施設になった。ダクラクのドリアン園地が観光と標準化を組み合わせている事例と同じ方向で、ベトナムの高付加価値果樹は「売る」と「見せる」を同時に回す形に寄っている。原料として買う相手か、ブランドの共同開発相手かを、最初に仕分けておく必要がある。

この園について現時点で確認できていること

日本側が接触や視察を検討する場合に押さえておく事実関係を整理する。連絡先・営業時間・体験料金は報道に出ていないため、ここには載せない。

所在地 ベトナム・タインホア省ドンティエン坊(phường Đông Tiến)
経営者 グエン・フー・フアン(Nguyễn Hữu Huân)氏と妻の夫婦経営
面積・権原 1ha超。生産性の低い農地を請け負い(賃借)で確保
施設 ボルト組み立て式のハウス(移設可能な仕様)
栽培本数 1,200本。韓国の指導技師が選抜し送付。品種名は報道に記載なし
栽培方法 化学肥料・化学農薬をほぼ不使用。ミミズ堆肥、サトウキビ搾りかす由来の腐植、バナナ発酵液を使用。第三者認証の記載なし
実績 2025年産は暴風雨でほぼ全損、収穫60kg。2026年産は約6トンの見込み
価格・販路 30万ドン/kg(約1,840円)。ほぼ全量が園での直売
副次事業 週末の体験受け入れ(家族・学校)
開始時期 2024年初にタインホアで土地探しを開始。ハウス建設と数か月の土壌改良を経て2025年に初結実

確認が必要な項目は、品種、ハウスの被覆・構造の仕様と単価、2026年産の実収量と販売実績、賃借契約の残存期間、そして体験事業の受け入れ条件である。品種が特定できないかぎり、日本向けの輸入可否(検疫上の扱い)も判断できない。

次に動くとしたら手をつける順番

ベトナムで減農薬・有機志向の果実を調達したい、あるいは現地で栽培委託を組みたいという立場なら、この事例から取れる次の一手は3つに絞られる。

  1. 自社が検討している産地の候補地について、農地の権原が所有か賃借かを先に確認し、賃借なら設備を可搬仕様で設計できるかを施工業者に当たる
  2. 仕様書に書く土づくりの資材を、現地で安価に調達できるもの(ミミズ堆肥、搾りかす、発酵液など)に置き換えられるか原価を試算する
  3. 日本・韓国での農業実務経験を持つ帰国就農者を、現場責任者または委託先の候補として省単位で洗い出す

とくに3番目は、韓国の受入枠が縮小に転じた局面での時間勝負になる。枠が開いていた時期に渡航した層が、いまちょうど帰国して自分の園を立ち上げている。フアン氏の園のように、1年目に全損してもたたまなかった経営者は、契約相手としての耐性も見えている。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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