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EUDR適合ゴム1万トン、VRGが示す「規制を商機に変える」調達網

ベトナムゴム公社(VRG)が、EUの森林破壊防止規則(EUDR)に適合した天然ゴム約1万トンを2025年から2026年上半期にかけて販売した——現地農業環境紙が7月3日に報じたこの実績は、一企業の輸出ニュースにとどまりません。規制の本格適用(中堅・大企業は2026年12月30日)を前に、「対応済みサプライチェーンは実際に構築でき、しかもプレミアム価格で売れる」ことを、約37万7,000ヘクタールの農園を抱える国営最大手が数字で証明した事例だからです。コーヒー・カカオ・パーム油でも同じ規制への対応を迫られる日本の輸入商社にとって、調達先の選び方を見直す先行シグナルとして読み解きます。

目次

「1万トン」の中身——数字で見るVRGのEUDR適合の現在地

VRG産業部のディエップ・スアン・チュオン副部長によると、同社は2025年と2026年上半期の累計でEUDR適合ゴム約1万トンを販売しました。適合品は通常品に対して1トンあたり120〜250ドル(約1万9,000円〜3万9,000円 ※1ドル=約155円)の価格差がつき、追加収益は約300億ドン(約1.8億円 ※1万ドン=約60円)と試算されています。規制対応がコストではなく収益源になっている点が、この発表の核心です。

社内の体制整備も面積ベースで進んでいます。公表された主要数値を整理します。

指標 数値
EUDR適合ゴム販売量(2025年〜2026年上半期) 約1万トン
VRGの管理農園面積 約37万7,000ヘクタール
EUDR必要書類の整備を完了した傘下企業 29社(約30万5,905ヘクタール、全体の約81%)
PEFC-EUDR認証取得または顧客からの適合承認 23社(約21万304ヘクタール)
適合品の価格プレミアム 120〜250ドル/トン
2025年のベトナムのゴム輸出総額 83億9,600万ドル(約1兆3,000億円)
うちEU向け(第3位市場) 7億7,220万ドル・全体の9.2%

EUは中国・米国に次ぐベトナムのゴム第3位市場です。シェア9.2%という規模だけを見れば「対応しなくても致命傷ではない」と映るかもしれませんが、VRGは逆に、この市場を先行対応の実験場として使い、グループ全体の管理水準を引き上げる戦略を取りました。

3年がかりの逆算——コートジボワール視察から「VRG GREEN」まで

VRGの動きが参考になるのは、その段取りの逆算ぶりです。EUDRの成立を受けた2023年に規制要件の調査とEU側取引先との協議を開始。2024年には世界最大のカカオ生産国コートジボワールへ視察団を送り、対応の先行地域から実務を学んだうえで従業員研修と実装ガイドラインを整備しました。同年7月にグループ全体で対応プログラムを始動し、12月にはドンナイゴム総公社、ダウティエンゴム、チューセ・カンポントム(カンボジア)の3社が最初の適合を達成。2025年10月には自社の適合認証マーク「VRG GREEN」を発表しています。

先行3社の一角、ドンナイゴム総公社の実務はさらに具体的です。ドー・ミン・トゥアン社長によると、同社は2024年から2025年にかけてEUDR適合品2,000トンを欧州へ販売済みで、2024年単年でも1,000トン超を輸出しました。区画のデジタル化、QRコード、ブロックチェーンによるトレーサビリティを組み合わせ、「2020年12月31日以降の森林破壊に関与していない」ことを証明できる体制を敷いています。ベトナムではドリアンをQRで追う全国トレーサビリティ制度が動き出すなど、産地証明のデジタル化が品目横断で進んでおり、ゴムの対応はその最先端に位置づけられます。

現地の受け止め——「要求は厳しいが、確実に売れる市場」

現地の関係者の発言からは、EUDRを負担ではなく参入障壁の再構築と捉える視点が読み取れます。

  • VRG産業部のチュオン副部長は、適合品の販売実績と価格差を挙げ、書類整備を完了した29社・81%という進捗を「グループ全体への展開の土台」と位置づけました。今後は南中部沿岸や北部中山間地域の天然ゴム子会社まで対応を広げる計画です。
  • ベトナムゴム協会のヴォー・ホアン・アン事務局長は、EUを「トレーサビリティと持続可能性の要求が厳しい市場」としつつ、「需要が安定し成長余地がある」と評価。EU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)が市場アクセスの追い風になっているとの見方を示しました。
  • ドンナイゴム総公社のトゥアン社長は、欧州向け実売の経験から、デジタル化した区画管理と追跡システムこそが取引継続の条件になると説明しています。

共通するのは「規制対応=選ばれる側に回るための投資」という発想です。適合できない供給者が振り落とされる分、対応済みの供給者には需要が集中する構図を、現地はすでに織り込んでいます。

日本の輸入商社への先行シグナル——コーヒー・カカオ・パーム油は次の番

EUDRの対象は牛・カカオ・コーヒー・パーム油・ゴム・大豆・木材の7品目と、タイヤやチョコレートなどの派生製品です。適用開始は改正規則(2025年12月23日にEU官報公示)で延期され、中堅・大企業は2026年12月30日、零細・小企業は2027年6月30日からとなりました。日本企業にとって他人事でないのは、EU域内に製品を売る限り、原料をどこで調達していても幾何学的位置情報(ジオロケーション)付きのデューデリジェンス声明が求められるからです。ベトナム産ロブスタコーヒーやゴム、カカオを扱い、加工品がEUに向かう可能性のある商社・メーカーは、川上の農園単位まで遡れる調達網を持っているかを問われます。

VRGの事例が示す実務上の示唆は3つあります。第一に、適合サプライヤーは「探せば見つかる」段階に入ったこと。ベトナム側では国営最大手が面積の8割で書類整備を終え、認証マークまで整えました。調達先の評価項目に「EUDR対応状況(書類整備・ジオロケーションデータの提供可否・PEFC等の認証)」を加えれば、供給網の透明性を測る物差しとしてそのまま機能します。第二に、プレミアムの相場観が見えたこと。120〜250ドル/トンという価格差は、適合品調達のコスト計上や販売価格への転嫁を検討する際の基準値になります。第三に、先に押さえた者が勝つこと。適合品の供給量は当面限られ、EU勢のバイヤーとの取り合いになります。ドンナイの2,000トンのような実績ある供給元と早期に関係を築くかどうかで、2026年末以降の調達安定性が変わります。

コーヒー・カカオでも同じ動きは始まっています。ベトナムではダクラク省の23農園が低排出カカオの実証に着手しており、環境要件を満たす産地づくりが品目を越えて広がる途上です。ゴムで実証されたモデルが、次はコーヒー・カカオの調達条件になると見ておくべきです。

波及と実務——サプライヤー選定の質問リストが変わる

この動きは水産・果物を含むベトナム農産品全体の輸出インフラ整備とも地続きです。マグロでは産地証明の電子化がザライ省の4千隻規模で進むなど、「証明できる産地」への転換が国策として走っています。日本のバイヤーが商談で確認すべき事項を整理します。

確認項目 具体的に聞くこと
EUDR適用スケジュール 自社・取引先が中堅・大企業(2026年12月30日適用)か小規模(2027年6月30日)か
ジオロケーション 原料生産区画の位置座標データを提供できるか、区画単位はどこまで細かいか
基準日への適合 2020年12月31日以降の森林破壊に関与していない証明の根拠資料
第三者認証 PEFC-EUDR等の認証有無、または主要顧客による適合承認の実績
価格条件 適合品プレミアム(ゴムの実勢は120〜250ドル/トン)の扱い

まとめ——「規制対応済み」が仕様書に載る日

VRGの1万トンは、EUDR対応が理念ではなく取引条件と価格に落ちてきたことを示す実績値です。日本の輸入商社が今打てる手は明確です。①自社の扱い品目(ゴム・コーヒー・カカオ・パーム油・木材・大豆・牛由来品)とEU向け販路の有無を棚卸しする、②主要サプライヤーにジオロケーションデータの提供可否を照会する、③VRG傘下のような適合実績のある供給元と2026年内に取引口座を作る——の3点です。規制の適用開始まで残り1年半。仕様書に「EUDR対応済み」の一行が載る前に動いた企業が、プレミアムを払う側ではなく、安定供給を確保する側に回ります。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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