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土用の丑の蒲焼きとは別物、越産タウナギ輸出と無泥タンクの実像

2026年の土用の丑の日は7月26日、夏は一の丑の1回だけだ。ただし、ここで扱うベトナム産の「うなぎ」は、蒲焼きに使うニホンウナギ(Anguilla japonica)とは別の魚である。メコンデルタで量産され輸出を伸ばしているのは、現地で「lươn(ルオン)」と呼ばれるタウナギ(Monopterus albus)で、水田などにすむ細身の淡水魚だ。この田うなぎの輸出先として、日本は中国に次ぐ2番手に位置する。牽引役は、泥を使わずコンポジット(強化プラスチック)槽で育てる「無泥養殖」という育て方だ。残留抗菌剤やトレーサビリティで神経を使う日本の水産バイヤーにとって、種類の見極めと合わせて押さえておきたい動きになっている。

目次

輸出額がほぼ倍増、無泥タンクが後押し

ベトナム水産の業界誌が伝えた統計によれば、ベトナムのタウナギ輸出額は2023年の約170万ドルから、2024年は1〜10月だけで約298万ドル(数量にして約670トン)へと、10か月でほぼ倍の水準に達した。金額の伸びの一因とみられるのが、無泥コンポジット槽による養殖の広がりだ。従来の泥池と違い、水温・pH・水質・病気を細かく管理しやすいとされ、見た目とサイズの揃いも良くなる。均一な仕上がりが輸出単価を押し上げていると業界誌は伝えている。

なぜ今、日本にとって意味があるのか

日本のうなぎ供給は輸入頼みだ。農林水産省の統計では、2024年の国内供給量は約6万トンで、うち輸入が約4万5千トン、活うなぎ輸入の約9割を中国が占める。一極集中の構造は、為替や相手国の作柄一つで仕入れが揺れることを意味する。2026年はシラスウナギ(稚魚)が豊漁で、稚魚価格は1kgあたり約250万円から約130万円へとほぼ半値に下がり、豊洲の活鰻卸値も前年より2割超下落した。今年は「安いうなぎの年」であり、ベトナム産が価格の希少性で売り込む局面ではない。むしろ、品質管理と履歴の明確さ、中国依存を薄める調達分散という論点で見たときに、ベトナム産の位置づけがはっきりする。もっとも、日本のタウナギ輸入は約50トンと、6万トン規模の国内うなぎ供給から見ればごく小さい。過大評価は禁物だ。

数字で見るベトナムのタウナギ輸出

輸出先(2024年1〜10月) 数量の目安 位置づけ
中国 約300トン(全体の約半分) 最大の消費地
日本 約50トン 中国に次ぐ2番手
米国 約38トン 認証志向の市場
韓国 約33トン 近隣の成長市場

ベトナム国内のタウナギ年間生産量は5〜6万トン規模で、その大半はドンタップ、アンザン、ハウザン、ティエンザン、カントーといったメコンデルタの各省に集まる。生産の裾野は広く、輸出はまだそのごく一部にとどまる。伸びしろが大きいと読むこともできる。

「うなぎ」の中身は一つではない

買う側がまず押さえたいのは、ベトナムの「うなぎ」が一種類ではないという点だ。輸出の主力は上記のタウナギ(lươn)で、ベトナムでは春雨と合わせた汁物「miến lươn」などで日常的に食べられている。蒲焼き用の本ウナギとは調理も食感も別物だ。一方、中部のニャチャン(カインホア省)などでは、コンクリート槽で本ウナギ(Anguilla属、現地ではオオウナギ Anguilla marmorata が中心)の養殖も進み、現地の日系うなぎ店はこちらを使う。土用の丑の蒲焼きを思い浮かべて商談に臨むと、実物とのギャップに戸惑う。ベトナム産うなぎは「タウナギ系」と「本ウナギ系」の二本立てで捉えるのが実務的だ。

無泥タンクは日本バイヤーの弱点に効く

日本の水産調達で輸入うなぎがつまずいてきた点は、抗菌剤の残留と履歴の不透明さだった。無泥コンポジット槽は、その弱点にちょうど効く。泥池では底に堆積する残渣が病気の温床になり、投薬に頼りがちになる。強化プラスチックの槽なら排泄物を洗い流し、密度や給餌を数値で管理でき、飼育サイクルも短くできるとされる。ベトナム側もVietGAPやASC、HACCPといった認証取得を、米国・EU向けの取引条件として意識し始めている。買う側からすれば、「安いから買う」ではなく「管理された履歴があるから買える」への転換点になりうる。日越の水産が原料を融通し合う段階に入りつつある流れ(日本が買うだけの時代は終わる、日越水産が原料を回し合う段階へ)の中に、うなぎもきれいに収まる。

加工と認証が次の勝負どころ

いま輸出されているタウナギの多くは、活魚か一次処理の段階だ。ここに加工の付加価値を乗せられるかで、単価の伸びしろが変わる。ベトナム産ホタテが日本を最大の買い手にしながら加工ハブ化で調達ルートを開いた例(越ホタテが日本最大の買い手に、加工ハブ化が開く調達の新ルート)や、パンガシウスが量産から加工品へ舵を切る動き(越パンガシウスが量産をやめる日、加工品が拓く日本の調達戦略)と、構図は重なる。タウナギを日本側の総菜・外食メニューに合わせて開き・味付け・冷凍まで仕上げる。原料のまま出すより、日本の売り場に近い形へ加工したほうが、双方に利幅が残る。

調達検討の早わかり

主な品目 タウナギ(lươn/Monopterus albus)、本ウナギ(Anguilla属・ニャチャン等)
主産地 メコンデルタ(ドンタップ・アンザン・ハウザン・ティエンザン・カントー)、中部ニャチャン
養殖方式 無泥コンポジット槽・循環ろ過(RAS)/タイル張りコンクリート槽
出荷サイズ 1kgあたり4〜5尾(飼育12〜13か月)
現地価格の目安 約22万VND/kg(約8.6ドル・約1,360円/1ドル=約158円・約25,600VND換算)
チェック項目 VietGAP・ASC・HACCP認証、抗菌剤残留、稚魚の由来(天然採捕比率)
輸出窓口 正規ルート認可を得た現地企業が増加中

価格はドル・円ともに概算で、為替と品質・養殖方式で振れ幅が大きい。ベトナム国内の小売でも1kg3.39〜8.62ドルと幅がある点は、商談前に押さえておきたい。

まとめ

ベトナム産うなぎ市場の主役は、蒲焼き用の本ウナギではなくタウナギ(lươn)で、無泥コンポジット槽を武器に日本を中国に次ぐ2番手の輸出先へ押し上げてきた。2026年の土用の丑は豊漁・安値の年で、いま動くべきは価格の綱引きではなく、種類の見極めと履歴の確認だ。商社・輸入事業者はまず、タウナギか本ウナギかを明確に指定し、VietGAP・ASC・HACCPの取得状況と稚魚の由来をサンプル段階で問い合わせるところから始めたい。中国一極の輸入構造にもう一本、管理された供給線を引く。無泥タンクの広がりは、その現実的な入口になる。

参照元:Vietnam Fisheries MagazineVietnam Fisheries Magazine(無泥養殖)農林水産省(うなぎの輸入状況)SOMPOインスティチュート・プラス(2026年の土用の丑)

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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