収益の伸びない水田を放棄するのではなく、蓮に植え替えて観光客まで呼び込む——ダナン市フーニン(旧クアンナム省フーニン県)のダイアン集落で、そんな作り替えが動き出した。約90世帯が耕してきた6.2ヘクタールの水田を、蓮の実・タニシ・魚・もち米、そして「蓮畑の風景」そのものが稼ぐ場所へ組み替える取り組みだ。日本の食品・農産物バイヤーにとって、これは花の話ではない。産地を訪ねて生産の中身を確かめられる蓮原料の調達先候補が、ベトナム中部に立ち上がりつつある、という仕入れの話である。
収益の低い田んぼを蓮に差し替える
舞台はダナン市フーニンのダイアン集落、コーコー圃場。旧クアンナム省フーニン県にあたる中部の農村で、6.2ヘクタールの水田を約90世帯が耕してきた。行政はこのうち4.3ヘクタールをコミュニティ観光の整備地として計画に上げ、2.5ヘクタール超を蓮・タニシ・魚・もち米へと転換する用途変更を認めた。稲一本で回してきた収益の低い水田を、複数の収入源が重なる土地へ組み替える設計だ。
実際の植え替えは2025年10月に動き出した。収益の低い水田1.4ヘクタールで18世帯が蓮の栽培を始め、そこへタニシ(ốc nhồi)や魚を放して収入を積み増す。フーニン・コミューン(社)の人民委員会が種苗・資材・技術指導を提供し、農家が主体で手を動かす形をとった。
何が新しいのか——「休ませない転作」
耕作条件の悪い田を別の作物に切り替える動きは各地にある。ただダイアンの構えが違うのは、蓮田をそのまま養殖池として二重に使い、さらに開花期の景観を観光商品に仕立てて三重に稼ぐ点だ。蓮の実と蓮の花を売り、田に放したタニシや魚を売り、咲きそろった蓮畑で写真を撮りたい客を呼び、地元の食材で食事を出す。一枚の田んぼから収穫物・養殖物・体験料が同時に上がる構造になっている。
採算の低い水田を作り替えて黒字化する試み自体は、たとえば化学肥料を減らして利益20万円、アンザン有機米が開く調達の窓のように、米のまま質を上げる路線もある。ダイアンは米を残さず品目ごと入れ替えた点で対照的だ。条件の悪い土地を高付加価値の品目へ振り替える発想としては、痩せ砂地のグアバが年商36億ドン、ダクラク農家の設計図とも通じる。
数字で見る蓮への転換
行政と現地紙が示す数値を整理する。円換算は1円=約162VND(2026年7月時点)で計算した概算だ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 蓮の実の販売価格 | 60,000VND/kg(約370円) |
| 蓮栽培の純利益 | 約400万VND/sào(500㎡・1作、約2.5万円)=稲作の2〜3倍 |
| 蓮の栽培規模 | 1.4ha・18世帯(2025年10月開始) |
| 観光整備の計画面積 | 4.3ha |
| 転換対象の農地 | 2.5ha超(蓮・タニシ・魚・もち米) |
| 対象フィールド全体 | コーコー圃場6.2ha・90世帯 |
中部の1sào(サオ)は500㎡にあたる。稲作の2〜3倍という利幅が、収益の低い水田を蓮へ振り替える動きを後押ししている。田に放したタニシや魚は薬剤に頼らない生物的な管理と相性がよく、蓮田の水を使って追加の収入源になる。養殖の出荷量や単価は現時点で公表されておらず、この記事では裏の取れた蓮の実の単価と利益倍率を軸に見る。なお蓮の作付面積や参加世帯には出典間で細かな差があり、ここでは起点となった現地報道の値をそろえて示している。
ダイアンの位置づけ
この事例を調達の目で見ると、三つの特徴が浮かぶ。
- 産地が「訪ねられる」:観光地として整備が進むため、バイヤーが現地に入り、栽培・収穫・下処理の様子を自分の目で確認しやすい。産地訪問がそのまま品質確認になる。
- 行政が種苗と技術で関与:フーニン・コミューンの人民委員会が種苗・資材・指導を出しているため、栽培基準や作付面積の情報が行政側にも残る。トレースの起点をたどりやすい。
- 収入が観光にも分散:農家の稼ぎが原料販売だけに依存しないぶん、極端な買い叩きに応じにくく、価格交渉が原料の質に見合った水準へ収れんしやすい。
日本のバイヤーにとっての読みどころ
蓮は花ではなく食材として日本に効く。乾燥した蓮の実は甘納豆や中華食材、薬膳(蓮肉・蓮心)の原料として一定の需要があり、蓮の花托や葉も茶・加工の素材になる。生の実が60,000VND/kgという水準は、加工・乾燥を挟んで日本に持ち込む余地を残す価格帯だ。参考として、同じダナン圏の別産地ズイスエンでは乾燥蓮の実が18〜23万VND/kgで取引されており(VOV報道)、乾燥品にすることで単価が数倍に伸びる構造が見える。
ただしダイアンは実証が始まったばかりで、乾燥・選別の設備、衛生書類、通年の供給量はまだ表に出ていない。今すぐまとまった量を買える産地というより、視察して育てる調達先の候補と見るほうが実態に近い。それでもコミュニティ観光型の産地は、バイヤーにとって「訪問して中身を確かめられる仕入れ先の候補」になる。産地を訪ね、栽培面積と担い手を確かめ、開花期に合わせて買い付けの段取りを試す——この一連が現地で完結する。原料を継続的に確保する仕組みという点では、摘めば完売する唐辛子、契約栽培が拓くベトナム産香辛料の原料のような契約栽培の型と組み合わせる余地もある。まずは開花・収穫期の実物を確かめ、乾燥・選別の工程を誰がどこで担うのかを詰めるのが入口になる。
市場への波及
ダイアンの転換は、ベトナム中部で「収益の低い水田をどう使い直すか」という共通課題への一つの回答だ。稲の収益が伸び悩む一方で、蓮・養殖・観光を束ねれば同じ面積からの粗利は大きく変わる。同様のモデルが中部の低収益田に広がれば、日本側から見た蓮原料の産地は一か所に限られず、複数の集落から選べる状況が生まれる。産地間の比較ができるようになるほど、品質と価格の両面で調達の交渉余地は広がる。
一方で、観光と農業を同じ田で回すモデルは、開花期に人手と収穫が集中しやすい。買い付けの時期がハイシーズンと重なると現地の対応力が問われるため、乾燥・保管の体制を持つ相手を早めに押さえておく判断が効いてくる。
基礎情報
| 所在地 | ダナン市フーニン(社)ダイアン集落 コーコー圃場(旧クアンナム省フーニン県) |
|---|---|
| モデル | 低収益水田→蓮栽培+タニシ・魚養殖+コミュニティ観光 |
| 規模 | 対象6.2ha・90世帯/蓮1.4ha・18世帯/観光整備計画4.3ha |
| 主導 | フーニン・コミューン人民委員会(種苗・資材・技術支援) |
| 開始時期 | 蓮栽培は2025年10月 |
| 主な産品 | 生蓮の実、蓮の花、タニシ、魚、もち米 |
| 参考単価 | 生蓮の実60,000VND/kg(約370円)/乾燥蓮の実は近隣産地ズイスエンで18〜23万VND/kg(VOV) |
| 為替 | 1円=約162VND(2026年7月時点) |
まとめ
ダイアン集落は、収益の伸びない6.2ヘクタールの水田を捨てず、蓮と養殖と観光を重ねて土地を作り替え始めた。1作あたり稲作の2〜3倍という利益は、蓮への転換に手応えがあることを示している。日本のバイヤーが次に打つ一手は、開花・収穫期に合わせて現地を訪ね、生の実と乾燥品の品質、選別・乾燥を担う相手を確かめることだ。訪ねられる産地という強みを、そのまま調達のトレースに変えられる。中部にはこうした転換田がこれから増える見込みで、蓮原料の調達先を一つに絞らず、複数の集落を並べて比較する準備を始める価値がある。
参照元:Dân Việt/Đại Đoàn Kết