ベトナムの活ロブスターが、輸出額で10億ドル品目の一歩手前まで来ている。押し上げているのは中国の旺盛な需要だ。2025年の輸出は総額8億5,800万ドル(1ドル155円換算で約1,330億円)、その大半が中国向けで、殻付きのまま「生きたまま」運ばれていく。日本の水産バイヤーにとっては、伊勢海老・スパイニーロブスター系の国際相場と供給の行方を左右する動きであり、仕入れ計画に直結する話だ。
中国需要が押し上げる、越ロブスターの輸出
ベトナム水産物輸出加工協会(VASEP)の集計によると、2025年のロブスター輸出は総額8億5,800万ドル、うち中国向けが8億4,500万ドルを占めた。つまり売上のほぼ全量が中国に流れている。2026年に入っても勢いは衰えず、1〜5月の対中輸出は5億600万ドルと前年同期比で44.3%伸びた。同じ期間、ベトナムがエビ類として中国に売った金額のうち71%をロブスターが占めており、エビ輸出全体の伸びを牽引する主役になっている。
ここで押さえておきたいのは、これが「養殖ロブスター」の話だという点だ。ベトナム産の主力はグリーンロブスター(ミナミイセエビ類)で、小〜中サイズ、加熱すると赤くなる。赤い食材を縁起物として好む中国の食文化に、色もサイズも価格も合致している。
なぜ中国が「生きたまま」を買うのか
中国はいまや世界最大のロブスター輸入国だ。輸入額は2017年の12億ドルから、2025年には39億ドル(約6,000億円規模)へと膨らむ見通しで、この8年で3倍を超える。市場の特徴は、冷凍や加工品よりも活魚(生きたロブスター)を圧倒的に好むこと。ここでベトナムの地の利が効く。国境を接しているため、カナダ・米国・豪州・ニュージーランド・メキシコといった競合産地に比べ、活ロブスターを短時間かつ柔軟に届けられる。鮮度が価値の中心にある商品で、輸送距離の短さがそのまま競争力になっている。
| 指標 | 数値 | 時期 |
|---|---|---|
| ロブスター輸出総額 | 8億5,800万ドル | 2025年 |
| うち中国向け | 8億4,500万ドル | 2025年 |
| 対中輸出(前年比+44.3%) | 5億600万ドル | 2026年1〜5月 |
| 中国のロブスター輸入額 | 12億ドル→39億ドル(見通し) | 2017年→2025年 |
生簀の作り替えが、供給の質を変えている
需要だけでなく、生産側でも構造が動いている。産地のカインホア省では、これまで主流だった木製の筏(いかだ)式生簀を、耐久性の高いHDPE(高密度ポリエチレン)生簀へ置き換える動きが進む。木製筏を捨ててHDPE生簀へ切り替えるカインホア省の海面養殖の取り組みでは、カムラップ地区の実証で養殖の平均利益率が112%に達したと報告された。台風に強く、沖合の高波にも耐える設計で、省は2029年までに高度海面養殖を240ヘクタールへ拡大する方針を打ち出している。
この「作り替え」は、単なる設備更新にとどまらない。沖合化と生簀の規格化が進めば、生産量の安定と履歴管理のしやすさが上がる。ベトナムは海面養殖に初の国家規格を導入し、保険と融資が付きにくいという養殖業の弱点を埋めにかかっている。輸入者から見れば、供給の読みやすさが一段上がる方向の変化だ。
日本の調達担当は、この動きをどう読むか
正直に言えば、日本のバイヤーがこの活ロブスター輸出に直接相乗りするのは難しい。高値がつく「生きたまま」の枠は、地理的に近い中国がほぼ独占しているからだ。だが、示唆は三つある。
一つ目は相場観だ。中国が活魚で買い上げる限り、スパイニーロブスター系の国際相場は下値が固くなりやすい。日本が仕入れる冷凍テールや加工品も、この需要圧力と無縁ではいられない。価格の底が上がる前提で年間の予算を組んでおくのが現実的だ。
二つ目は集中リスクの裏返しだ。ベトナムのロブスター輸出は売上のほぼ全量が中国一国に依存している。中国側の検疫方針や国境通関の運用が変われば、行き場を失った在庫が一時的に他市場へ流れる場面が起こりうる。そうした局面では、冷凍・加工品を機動的に押さえられる日本のバイヤーに、スポットの好機が回ってくる可能性がある。
三つ目は供給網そのものへの関与だ。HDPE生簀と国家規格の導入で、ベトナム産水産物は履歴管理と品質の設計図を持ち始めている。日本の強みは生鮮の即時輸入ではなく、むしろ加工という穴場で越産水産を取り込むことにある。活ロブスターの高付加価値ノウハウが定着した養殖網は、テールの一次加工やボイル製品といった対日向けの供給源としても育つ余地がある。
波及と、次に見ておくべきこと
ロブスターがエビ輸出の主役に躍り出たことは、ベトナム水産全体の重心が「量のエビ」から「単価の高い活魚」へ移りつつある兆しでもある。中国向けの活ロブスターが産地の投資を呼び込み、その設備と技術が他魚種の養殖にも波及していく。日本の調達側が追うべきは、単月の輸出額そのものより、①中国の通関・検疫運用の変化、②HDPE生簀の普及率と国家規格の運用実態、③冷凍・加工品としての対日供給が立ち上がるか、の三点だ。まずは既存サプライヤーに、養殖規格と生簀更新の進捗を一度確認しておきたい。産地が「生きたまま中国へ」から「加工して世界へ」の段階に進むとき、日本の仕入れが動く番が来る。