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森から畑へ、天然採取に限界の薬用根「地レン」をクアンニンが産地化

ベトナム北東部・クアンニン省の中国国境に近い山岳地帯で、これまで天然林から採取するしかなかった薬用根「địa liền(地レン)」を畑で育て、産地ブランドに育てようとする取り組みが進んでいる。仕掛けたのは現場歴16年の女性農業普及員。日本の輸入業者や農業関係者にとっては、東南アジアの薬用作物がどう「森からの採取」から「管理された栽培」へ移っていくのか、その初期段階を観察できる事例だ。原料調達の安定性や産地のトレーサビリティを重視するなら、こうした産地形成の動きは早めに押さえておきたい。

目次

ニュースの要旨:16年現場の普及員が動かした薬用根の産地化

農業環境系メディア Nông nghiệp và Môi trường が伝えたのは、クアンニン省クアンドゥック(Quảng Đức)社の農業普及員、グエン・ティ・クイン・チャン(Nguyễn Thị Quỳnh Trang)氏の歩みだ。チャン氏はタイグエン農林大学で農業バイオテクノロジーを学び、2010年から16年以上、ダムハやハイハといった県の技術サービス機関を渡り歩いてきた現場一筋の人物として紹介されている。

記事によれば、彼女が力を入れているのが地レンの栽培普及だ。地レンはもともと国境地帯の山林に自生する薬用根で、住民は森に分け入って採取してきた。しかし天然林の資源は年々細り、採るだけでは続かない状況になっていた。そこで「森から採る」のではなく「畑で育てる」モデルへの転換を、少数民族の住む山あいの集落(バン・カイ・フォウ、バン・チャン・ムイなど)で地道に広げてきたという内容である。

背景:地レンとは何か、なぜ栽培への切り替えが急がれたのか

địa liền は学名 Kaempferia galanga、ショウガ科の多年草で、地下にできる香りの強い根茎を利用する。日本語では「バンウコン」、英語圏では galangal の仲間として知られ、カンボジア・タイ・マレーシア・インドネシアなど東南アジア各地で栽培される伝統的な薬用・香辛料植物だ。インドネシアでは「クンチュル(kencur)」の名で料理にも使われる。ベトナムでも昔から民間で用いられてきた素材である。

ここで産地化が意味を持つのは、原料の供給構造が変わる点にある。山林からの採取は、量も品質も自然まかせで、採り過ぎれば資源そのものが枯れる。実際この産地でも天然林の地レンが先細りしていた。畑で計画的に育てれば、作付面積から収穫量を見通せ、品質もそろえやすい。薬膳・健康食の原料を扱う側からすると、「いつ・どれだけ・どんな品質で」入るかが読める供給源は、森からの単発調達より格段に組みやすい。今回の動きは、その入り口にあたる。

データ:報じられた作付面積・生産量・価格

元記事で示された数字は次の通り。いずれも単一媒体の報道に基づくもので、行政の公式統計として独立確認できたわけではない点は前置きしておく。

項目 報じられた内容
栽培面積 約10ヘクタール
年間生産量(生根) 200トン超
買取価格 1kgあたり3万〜3万5,000ドン、需要期は4万ドン
モデル農家の2025年収穫 1世帯で生根およそ10トン
目標 「クアンドゥック地レン」としてOCOP3〜4つ星認証

価格の感覚をつかむために円換算すると、1kg=3万ドンは1円≒170ドンの目安で約176円、4万ドンなら約235円となる(為替は変動するため、取引時の最新レートで再計算する前提)。生根1kgあたり数百円という水準は、香辛料・薬用素材の一次産品としては平均的なレンジに収まる。栽培面積10ha・年産200トン超という規模は、村単位の産地としては立ち上がりつつある段階で、輸出を前提にした大量供給というよりは、まず認証取得と国内・地域流通を固める局面と読むのが妥当だろう。

現地・関係者の反応:広がり始めた「やってみよう」の連鎖

記事には、栽培に踏み切った住民の声がいくつか紹介されている。バン・チャン・ムイのフン・ティ・ズン(Phùn Thị Dung)さんは、「先に始めた人がうまくいくのを見て、うちも続いた。技術指導のおかげで発芽もよく、よく育ち、まとまった副収入になった」と語ったとされる。

もう一例として挙がるのが、タン・サン・ムイ(Tăng Sắn Múi)さんの世帯だ。プロジェクトの支援期間が終わった後も自主的に作付けを2ヘクタールまで広げたという。外部の補助が切れても続ける農家が出てきたことは、このモデルが「補助金が出るからやる」段階から「採算が立つから続ける」段階へ移りつつある兆しとして、記事は前向きに描いている。

普及員のチャン氏自身については、週に3回は早朝5時半から畑に立ち、住民への説明のため夜11時まで動くこともある、といった働きぶりが語られている。産地化の裏には、一人の現場担当者が時間をかけて信頼を積み上げてきた過程があるという描き方だ。

日本の輸入・農業関係者への示唆

この事例から日本側が読み取れることは、大きく三つある。

「採取品」と「栽培品」を分けて見る目を持つ

東南アジア産の薬用根・香辛料には、森からの採取品と畑での栽培品が混在する。地レンのように産地化が始まったばかりの素材は、ロットによって由来がまだら模様になりやすい。調達の際は「採取か栽培か」「どの集落・どの組合からか」を確認しておくと、品質と供給安定性の両面でリスクを読みやすくなる。

OCOP認証は産地の成熟度をはかる物差しになる

OCOP(One Commune One Product、一村一品)はベトナム全国共通の認証制度で、3つ星は県、4つ星は省、5つ星は中央政府が評価・認定する三層構造になっている。3〜4つ星を狙うという表明は、その産地が「個人の畑」から「行政が後押しする品目」へ格上げを目指している合図だ。輸入候補を探す際、OCOP段階は産地の管理レベルや書類整備の進み具合を推し量る手がかりになる。

初期産地はサンプル評価から関係を築く

年産200トン超という規模は、まとまった輸出契約を即結ぶには小さい。逆に言えば、いま接点を持っておけば、産地が育つ過程に並走できる余地がある。まずは少量サンプルで香気成分や乾燥適性を確かめ、加工(スライス乾燥・粉末化)まで含めた取引設計を相手と一緒に詰めていく進め方が、こうした立ち上がり産地とは相性がよい。

業界・市場への波及:薬用作物の産地化が示す方向性

地レンの一件は単発の美談ではなく、ベトナム山岳部で進む「林産物の栽培化」という大きな流れの一コマだ。天然資源の枯渇と、認証付き産品で付加価値を取りにいく国の政策が重なり、これまで野生採取に頼っていた素材が次々と畑に移されている。クアンニン省は国境貿易と農林産品の双方を抱える地域で、こうした品目が増えれば、薬用・健康食原料の調達先としての存在感も少しずつ増していく。

日本の薬膳・健康志向食品の市場から見ると、産地が特定でき、栽培履歴をたどれる薬用素材へのニーズは続いている。産地化の初期から品目を追っておくことは、将来の差別化された原料調達につながる。なお、地レンを含む薬用素材については、効能を断定するような表現や成分量の数値は表示規制(薬機法)に触れうるため、商品化の際は素材の由来・産地・加工法といった事実ベースの訴求に徹するのが安全だ。

実用情報・関連リンク

クアンニン省周辺の農産品・輸出動向は、当サイトでも継続して取り上げている。産地形成や輸出ルートを検討する際の比較材料として、あわせて読んでおきたい。

まとめ:いま動くなら「観察と少量取引」から

クアンニン省クアンドゥック社の地レン産地化は、天然採取から計画栽培への転換と、OCOP認証によるブランド化という、ベトナム薬用作物の典型的な成長経路をなぞっている。規模はまだ村単位だが、補助が切れても作付けを広げる農家が出てきた点は、産地として根を張り始めた証だ。

日本の輸入・農業関係者がいま取れる現実的な一手は、(1) この産地のOCOP認証取得の進捗を追う、(2) 採取品か栽培品かを切り分けたうえで少量サンプルで香気・乾燥適性を評価する、(3) 加工まで含めた取引設計を産地側と早めにすり合わせる、の三つだ。素材を扱う際は効能の断定を避け、産地・栽培履歴・加工法という事実で語ることを前提に検討を進めたい。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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