ベトナム中部高原ラムドン省ダラットのカウダット地区で、有機アラビカに賭ける協同組合が生豆頼みの商売から抜けようとしている。有機農業サービス協同組合Song Vu(ソンヴー)は、完熟果の選別と精製で品質を握り、生豆をそのまま安く出荷する流れを断ち切って深加工へ進む構えだ。標高1,600mを超える産地で栽培から精製まで一貫させるこの動きは、産地の顔が見えるスペシャルティ豆を探す日本の焙煎所にとって、新しい調達先の手がかりになる。
生豆を安く出す流れから抜ける
Song Vuは2019年、ダラット・カウダット地区に設立された。代表はNguyen Song Vu氏で、正会員7名に加えて45戸の農家が生産で連携する。認証済みの有機アラビカは50ヘクタールを超え、さらに100ヘクタール超が有機への転換過程にある。栽培地は標高1,600mを超える冷涼な高原で、化学肥料を抑えて有機質と微生物資材を主体にした土づくりを進めている。収穫は熟した実だけを選ぶ手摘みで、精製の入口から品質を揃える狙いがある。
組合が向かう先は、生豆の出荷にとどまらない加工だ。焙煎や粉砕、パッケージまで自分たちで手がけ、原料売りから製品売りへ商いの重心を移す。産地が価格の受け手で終わらず、値づけに関わる側へ立とうとしている。
標高1,600mのカウダットが有機へ動いた事情
カウダットはフランス統治期からのアラビカ産地で、昼夜の寒暖差と高い標高が豆の酸と香りを育てる。ベトナムのコーヒーは輸出量の大半をロブスタが占め、インスタントや工業用の原料として量で流れてきた。その市場では、単価の低さと相場変動が小規模農家の収入を不安定にする。
有機と深加工は、その量の競争から距離を取る選択になる。認証と精製で品質の物語を持たせ、量ではなく質で買い手を選ぶ。ただし有機認証には2年ほどの転換期間が必要で、その間は収量が落ちても通常品として売るしかない。転換のコストをどう乗り越えるかが、産地の現実的な壁になっている。
カウダットの標高は1,600メートルを超える。この高さは、日中と夜間の気温差を大きくし、豆の成熟をゆっくり進める。ゆっくり熟した実は糖の蓄積が進み、酸味と甘みの層が出やすい。標高と品種、そして手摘みの選別が噛み合ったとき、はじめて量産ロブスタとは違う価格帯の豆になる。Song Vuが精製と加工まで抱え込もうとするのは、その品質を最後まで自分たちの手で担保するためだ。
Song Vuの規模と栽培条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設立 | 2019年 |
| 所在 | ラムドン省ダラット・カウダット(Xuan Truong) |
| 正会員 | 7名 |
| 連携農家 | 45戸 |
| 認証済み有機 | 50ヘクタール超 |
| 転換中 | 100ヘクタール超 |
| 標高 | 1,600メートル超 |
| 品種 | アラビカ |
| 収量目安 | 1ヘクタールあたり2〜2.5トン(慣行より低い) |
数字が示すのは、慣行栽培より収量を落としてでも品質と認証に振り切った産地の姿だ。1ヘクタール2〜2.5トンという収量は、量で稼ぐモデルとは別の土俵に立っていることを表す。
転換2年のコストは誰が負担するのか
現地の話を整理すると、産地が抱える悩みは三つに集約される。一つは転換期間の資金負担で、有機認証に届くまでの間は品質を上げても価格へ反映されにくい。二つ目は、高品質でも買い手がプレミアムを払うとは限らない販路の細さ。三つ目が、生豆のままでは価格決定権を持てず、製品化まで進めたいという意思だ。いずれも、量産型の輸出構造の外で戦う産地に共通する課題になる。
この価格の落差は、同じ中部のクアンチ産アラビカでも記録されている。生豆1kgと製品1kgの値づけの差は、産地が加工まで踏み込む理由をそのまま説明している。
日本のスペシャルティ焙煎はどう組めるか
日本の自家焙煎店やロースターにとって、Song Vuのような産地は「小ロット・高標高・有機転換中」という具体的な条件で評価できる相手になる。完熟選別と精製が産地側で管理されていれば、生豆の欠点豆混入やロット差といった品質のばらつきを入口で減らせる。有機認証が完了すれば、店頭で伝えられる背景の情報も増える。
一方で、転換中の豆を「有機」として売ることはできない。仕入れ側は、認証の完了時期と現在のステータスを産地に確認し、表示へ正しく反映させる必要がある。欧州のEUDR(森林破壊防止規則)でも認証ロットにプレミアムがつく流れがあり、適合ロットの価格差は日本の調達判断にも手がかりを与える。
ベトナムのアラビカは、中国向け輸出の急増で調達枠が動いている。中国の越コーヒー輸入の伸びは、量の豆だけでなく質の豆でも買い手間の競争を強める可能性がある。日本の焙煎所が高標高の有機アラビカを安定して確保したいなら、収穫期の前に産地と数量や精製方法をすり合わせる契約型の関係づくりが現実的な打ち手になる。7名の正会員と45戸という小さな規模は、裏を返せば一社の焙煎所が産地と直接向き合える距離感でもある。数量が限られるからこそ、条件を早く決めた買い手が優先的にロットを押さえられる。
Song Vuの事例が示すのは、量から質へ動く産地を早い段階で見つけ、育てる調達の余地だ。日本側が次に取れる動きは具体的だ。第一に、有機認証の現在地と完了予定を書面で確認する。第二に、精製方法(ナチュラル・ハニー・ウォッシュト)とロットサイズを収穫前に取り決める。第三に、単年の相場買いでなく複数年の関係を前提に価格帯を話し合う。産地が製品化で価格決定力を持とうとしている今こそ、条件を早く握った側が有利になる。