ベトナム中部のクアンガイ省が、EUの「黄色カード(イエローカード)」解除に向けて漁船管理を締め上げている。地元紙 Nông nghiệp & Môi trường が2026年8月9日に報じたところによると、同省は登録漁船4,863隻を対象に操業許可・検査証・漁船位置監視の三点を洗い直し、違反船の摘発と処分を並行して進めている。対EU水産輸出の可否を左右するこの動きは、ベトナム産水産物を仕入れる日本のバイヤーにとっても他人事ではない。トレーサビリティ要求という同じ潮流の上流で起きている話だからだ。
登録漁船4,863隻のうち97%が操業許可を取得済み
報道によると、クアンガイ省の登録漁船は4,863隻。このうち操業許可を持つ船は4,699隻で全体の97%にあたり、許可切れ・未取得は164隻にとどまる。検査証が有効な船は3,791隻中3,647隻(96.2%)、15メートル以上の船で食品安全条件の証明を得ているのは2,994隻中2,949隻(98.5%)だった。
数字だけを見れば「ほぼ達成」に近いが、残る数%が黄色カードの評価を左右する。EU側の審査は平均点ではなく、違法操業を許す「穴」がどれだけ塞がれているかを見るからだ。省が許可切れ164隻を名指しで管理対象に置いているのは、その穴を可視化する作業にほかならない。
| 項目 | 達成状況 | 比率 |
|---|---|---|
| 操業許可の取得 | 4,699 / 4,863隻 | 97% |
| 有効な検査証 | 3,647 / 3,791隻 | 96.2% |
| 食品安全条件の証明(15m以上) | 2,949 / 2,994隻 | 98.5% |
| VMS(船位監視装置)の装備(15m以上) | 2,982 / 2,994隻 | 99.6% |
※クアンガイ省統計。比率は報道値。
VMS装備は15メートル以上船の99.6%、信号途絶100隻を摘発
船の位置を衛星で追う VMS(Vessel Monitoring System=船位監視装置)の装備は、15メートル以上の船で2,994隻中2,982隻、99.6%まで進んだ。未装備の12隻も個別に追跡している。ここまでは整備の話だが、EUが本当に見るのは「積んだ後の運用」である。
クアンガイ省では2026年1月から8月3日までに、VMSの信号が6時間以上または10日以上途絶した船を100隻検出した。許可海域を越えた船は10隻で、うち4隻を処分、2件は立件見送り、4件が処理中だという。機器を積んでいても電源を切れば追跡は途切れる。摘発と処分をセットで公表しているのは、「積ませて終わり」にしない姿勢を示す狙いがある。
水揚げの記録管理も進む。年初来の入港は延べ26,999航海、うち15,994航海を検査し、水揚量は21,071トンに達した。どの船が・いつ・どこで獲ったかを港で押さえる体制が、漁獲証明書の裏付けになる。省農業環境局のグエン・ドゥック・ビン副局長は信号途絶100隻の摘発に言及し、副省長のドー・タム・ヒエン氏は黄色カード解除へ向けた厳格な順守徹底を強調したと報じられている。
EUの「黄色カード」は2017年10月からの是正勧告
IUU漁業とは Illegal(違法)・Unreported(無報告)・Unregulated(無規制)な漁業の総称で、EUはこれに関与する国からの水産物輸入を制限する制度を持つ。EUは2017年10月にベトナムへ黄色カード(是正勧告)を出した。これは「改善しなければ輸入禁止=赤カードに引き上げる」という警告で、以来ベトナムは漁船登録・VMS・漁獲証明の三本柱で対応を続けてきた。
全国では8万300隻超を管理する漁船データベースが整い、15メートル以上の船のVMS装備率は99.6%に達している。ベトナム政府は2026年末までの黄色カード解除を目標に掲げる。クアンガイ省の取り組みは、この全国目標を港の現場に落とし込んだ縮図と言っていい。
日本のバイヤーに及ぶトレーサビリティ要求
ここからが日本側の話だ。ベトナムの水産輸出額は年間約90億ドル規模で、日本は米国・EUと並ぶ主要仕向け先である。黄色カードはEU向けの制度だが、そこで整えた漁獲証明の仕組みは、日本向けの取引にもそのまま効いてくる。
日本は2022年12月に「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(水産流通適正化法)」を施行した。輸入時にサバ・サンマ・マイワシ・イカについては、適法に漁獲されたことを示す外国政府等発行の証明書がなければ輸入できない。ベトナムから日本へはイカ類も入るため、この規制は直接関係する。加えて、大手小売・外食が求める民間のトレーサビリティ基準は対象種をさらに広げつつある。EU向けに漁獲証明の整った産地は、日本の調達要件にも応えやすい産地になる——黄色カード対応は、そのまま日本向けの取引資格の底上げにつながる。
調達実務でクアンガイの動きをどう読むか
仕入れ担当の視点で押さえるべきは三点ある。第一に、産地選定では「VMS装備率」より「信号途絶・境界越えの摘発と処分の実績」を確認したい。装備率が高くても運用が緩い港はリスクが残る。クアンガイ省が摘発100隻・処分件数まで公表しているのは、むしろ管理が機能している証左だ。
第二に、漁獲証明を扱える加工・輸出業者と組むこと。港での水揚げ記録(クアンガイ省では年初来15,994航海を検査)が証明書の起点になるため、その記録に紐づいた業者ほど日本向けの書類対応も速い。第三に、黄色カード解除は「達成したら終わり」ではなく維持コストが続くテーマだと理解しておくこと。残る数%を詰め続けられる産地こそ、長期の調達先として安定する。クアンガイ省の164隻・12隻という「残り」の管理ぶりが、そのまま産地の実力を映している。
参照元
- Nông nghiệp & Môi trường「Quảng Ngãi siết chặt quản lý đội tàu, quyết tâm gỡ thẻ vàng IUU」(2026年8月9日)https://nongnghiepmoitruong.vn/quang-ngai-siet-chat-quan-ly-doi-tau-quyet-tam-go-the-vang-iuu-d825201.html
- VOV「Vietnam steps up anti-IUU drive to lift EC yellow card by end-2026」english.vov.vn
- 水産庁「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」jfa.maff.go.jp