NÔNG NGHIỆP VIỆT NAM — TẠP CHÍ NÔNG NGHIỆP ĐÔNG NAM Á

35度の畑が捨てたパイン、輸出品種MD2が変える産地の未来

気温35〜40度に達するベトナム南部の畑で、長年作られてきたQueen種のパイナップルが収穫前に枯れ始めている。半分しか収穫できない年もある——そんな現実を前に、メコンデルタのカントー市では、農家と加工企業が古い品種を思い切って捨て、耐病性と耐暑性に優れた輸出向け品種「MD2」へ畑ごと切り替える動きが広がっている。単なる品種更新ではない。栽培から加工、輸出までを一本の鎖でつなぐ産地づくりが同時に進む。フィリピン産に8割超を依存する日本の冷凍・缶詰パイン原料の調達先として、ベトナムが新たな選択肢になりうる転換点として注目したい。

目次

カントーの畑で起きている品種転換

舞台はカントー市ホアルー地区。地元のタンタン農業協同組合と、メコンデルタを代表する果物加工企業ウエストフード・ハウザン社が組み、Queen種からMD2種への転換を進めている。協同組合の生産者は「Queenは収穫できるのが半分ほどで、残りの5割は収穫前に葉が萎れてしまう」と語る。気温上昇と長年の連作による土壌の疲弊、株の老化が重なり、従来品種では採算が合わなくなってきた。

ウエストフード社CEOは、排出削減などの取り組みを通じてネットゼロ目標の達成に自信を見せる。畑にはドローンが導入され、農業資材の管理が見直され、排出削減の実践がカーボンクレジットの取得につながる設計になっている。気候変動を「避けるべき脅威」ではなく「産地を作り替える契機」として扱う姿勢が、この取り組みの背骨にある。

なぜ今、MD2なのか

MD2は米デルモンテ社がコスタリカで育成し、1996年に市場投入した品種だ。大玉で皮が薄く果汁が多く、糖度と大きさの均一性で世界の生鮮パイン市場の50〜55%、EU市場では70〜75%を占めるとされる。ウエストフード社は2017年からコスタリカよりMD2の種苗を直輸入し、専門家を招いて増殖・栽培技術をメコンデルタの土壌・気候に合わせて作り込んできた。新品種をベトナムに持ち込んだ最初の企業ではないが、MD2の栽培に成功した最初の企業とされる。

従来の生育適温が30〜32度前後だったのに対し、現在の畑は35〜40度に達する。気温の振れ幅が大きく天候も読みにくいなかで、Queen種は退化が進む。耐病性・耐暑性が高く、メコンデルタの低湿で酸性の強い土地にも適応するMD2への切り替えは、収量と品質を立て直す現実解になっている。

数字で見る転換の規模と価格

カントー市はパイン栽培を5,500ヘクタールに育てる構想を掲げ、その内訳はQueen種3,500ヘクタール、MD2種2,000ヘクタールとされる。ウエストフード社はMD2を1コミューンあたり年30〜50ヘクタールのペースで広げ、2030年までに約1,000ヘクタール規模を目指す。年間輸出額は約4,000万米ドルが見込まれている。ベトナム全体のパイン栽培面積は約5万2,000ヘクタール、年産は86万トン超という規模感だ。

項目 従来(Queen種) 転換後(MD2種)
耐暑性 35〜40度で退化・葉萎れ 高温・酸性土に適応
市場での位置づけ 国内・缶詰原料中心 生鮮輸出の世界標準
世界市場シェア 地域品種 世界の50〜55%・EUの70〜75%

価格面でもMD2は強い。2024年時点で生鮮MD2は1キロあたり約1.2米ドルと世界でも高位の価格帯にあった。さらに日本向けは1トンあたり約4,000米ドルで取引され、EU・米国向けより1トンあたり1,000〜1,200米ドル高い水準とされる。高く売れる市場が明確にあることが、品種転換を後押ししている。

産地と業界の受け止め

協同組合の生産者は、収穫できない畑を抱える不安よりも、買い取り先と栽培技術がセットで提供される安心を口にする。加工企業が栽培段階から関与し、種苗・技術・販路を一体で用意することで、農家は価格変動と収穫減の二重のリスクを軽減できる。加工側にとっても、品質と量がそろった原料を安定して確保できる利点がある。

気候への向き合い方も前向きだ。高温で従来品種が立ち行かなくなった現実を、より高く売れる品種への転換と排出削減による付加価値づくりへ読み替える。ドローン導入やカーボンクレジットの取得は、コスト負担ではなく将来の収益源として位置づけられている。地域の農業政策としても、Queen種を残しつつMD2を計画的に増やす二段構えで、急激な転換による混乱を避けようとする姿勢が見える。

日本の調達担当者が読み取るべき示唆

日本のパイナップル輸入は2023年で約16万トン・約192億円規模、その85%超をフィリピン産が占める。缶詰や冷凍パインといった加工品の原料は、ほぼフィリピン産に依存しているのが実情だ。特定の産地への一極集中は、天候不順や産地の供給減があれば調達価格を直撃する。輸入パイン価格が産地側の事情で2割上昇した局面も過去にあった。

ここにベトナム・メコンデルタのMD2産地が新たな選択肢として浮かぶ。栽培から加工まで一貫した産地が育てば、冷凍・缶詰・果汁といった加工原料を「畑から加工場まで追える」形で確保できる。日本のバイヤーがいま着目すべきは、生鮮そのものより、加工適性と一貫網だ。糖度・大きさが均一なMD2は、カットや冷凍、缶詰での歩留まりが読みやすく、加工コストの見通しが立てやすい。CAP社が示したような加工による付加価値化の流れと同じく、原料を「素材」ではなく「設計された供給網」として捉える発想が、調達担当者の交渉力につながる。

市場と供給網への波及

MD2への転換は、産地単位の話にとどまらない。カントーやハウザンで一貫網が機能すれば、メコンデルタは生鮮輸出だけでなく加工原料の供給拠点へと性格を変える。ベトナムのパイン輸出はEUを最大市場に伸びており、加工パイン市場は世界で年5〜6%の成長が続く。世界の缶詰・冷凍パイン市場でフィリピン一強だった構図に、ベトナムが二番手として食い込む余地が生まれつつある。

果物加工クラスターの形成という観点でも示唆が大きい。ダクラクで進む果物加工クラスターと同様に、産地と加工場、輸出機能が地理的に近接すれば、輸送コストと鮮度劣化を抑えられる。ベトナムの果物は供給過剰が課題になる場面もあるが、フルーツの供給過剰を加工と輸出で吸収できれば、価格下落リスクを需要側に転嫁せず産地で消化できる。MD2の一貫網は、その実装例の一つになりうる。

実務に使える着眼点

日本の冷凍・缶詰・果汁メーカーや原料商社が今の段階でできることは、現地の一貫網の実力を確かめておくことだ。栽培面積の拡大ペース、加工場の処理能力、品質規格(糖度・サイズの均一性)、トレーサビリティの整備状況を、買い付け前に把握しておきたい。生鮮で日本向けが高値で動く市場である以上、加工原料として安定価格で確保するには、産地が拡大する初期段階での関係づくりが効く。

カーボンクレジットや排出削減を組み込んだ産地である点も、サステナビリティ調達の文脈で評価材料になる。原料の出どころと環境配慮を取引先や消費者に説明したい食品メーカーにとって、栽培履歴まで追える産地は調達ストーリーそのものになる。

まとめ:転換期の産地に、早めに足を運ぶ

猛暑で退化したQueen種を捨て、輸出標準のMD2へ畑ごと切り替えるカントーの動きは、気候課題を商機へ転じる具体例だ。栽培から加工まで一貫した産地が立ち上がる初期は、日本の調達側にとって関係を作る好機でもある。次の一手としては、第一にウエストフード社をはじめとするメコンデルタの加工企業に加工原料(冷凍・缶詰・果汁)の供給余力を直接問い合わせること、第二に2026年内に現地の加工場と栽培規格を視察し、フィリピン一極依存のリスク分散先として評価しておくことを勧めたい。産地が小さいうちに動いた企業ほど、安定供給と価格交渉の主導権を握れる。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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