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イオン300店を止めていたENTが10月に外れる、棚はどう増えるか

ベトナムが9月に公布した政令で、外資の小売業者が2店舗目以降の店を開くときに課されてきた経済需要テスト(ENT)が、CPTPP加盟国の企業について外れる。施行は10月18日。Nikkei Asiaの報道では、イオンベトナムの手塚大輔社長が「5年で事業規模を3倍にする中期計画を進めるうえで極めて重要だ」と述べ、ファミリーマートはハノイだけで2031年度に300店を掲げている。日本で食品をつくる側から見ると、これは出店の話では終わらない。ベトナムで日本の食品が置かれる棚が増える動きと、ベトナム産の原料を日本向けに引く窓口が増える動きが、同じ会社の同じ拡張計画の中で同時に進む。

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決まったのは「2店舗目からの審査免除」で、施行は10月18日

根拠は政令342/2026/ND-CPで、2018年から続いた政令09/2018/ND-CPを置き換える。Baker McKenzie、Indochine Counsel、LNT & Partnersの各解説はいずれも施行日を2026年10月18日としている。ENTという制度そのものが消えるのではなく、ベトナムがENT撤廃を約束した協定の相手国・地域の投資家について、免除を条文で正面から認める形になった。CPTPPのほか、EU向けのEVFTAと英国向けのUKVFTAが挙がっている。

CPTPP加盟にあたってベトナムはENTを2024年1月までに廃止すると約束していたが、国内法への落とし込みが遅れた(Nikkei Asia)。日本の小売業者が繰り返し要望を出してきた背景はここにある。約2年8か月遅れて条文になった、という順序で読むほうが実態に近い。

免除は投資家の国籍で決まる。日本企業はCPTPP加盟国の企業として条件を満たすが、店舗を運営する法人の資本構成や実質的支配者を許認可当局がどう見るかは運用次第だとBaker McKenzieは指摘している。合弁や現地企業の買収で入っている場合、免除がそのまま通るとは限らない。

ENTは何を見ていたのか、2店舗目から何が止まったのか

ENTは、新しい店が周辺にどう影響するかを行政が事前に評価する手続きで、国内の小売を守る仕組みとして働いてきた。法律事務所各社の解説を突き合わせると、政令09のもとで見られていたのは、その店が影響する商圏の広さ、同じ商圏で既に営業している小売店の数、市場の安定と既存店・伝統市場の商売への影響、交通量や環境衛生・防火への影響、地域の社会経済への貢献、という5点である。

数値基準が条文に書かれていない項目が多く、判断の幅が現場に残った。手塚社長は、理由がはっきりしないまま手続きが止まり、審査が終わるまで数か月かかることがあったと語っている(Nikkei Asia)。

抜け道はあった。LNT & Partnersによると、政令09には、面積500平方メートル未満でショッピングセンター内にあり、コンビニやミニスーパーに該当しない店はENTを免除する規定があった。だから外資の小売は路面ではなくモールの中に入り、面積を小さく抑える形を選んできた。ユニクロのような専門店が単独の路面店を出しにくかったのも同じ事情だ。

各社の解説によれば、政令342では、立地の「計画との整合」という曖昧な要件が、土地・都市計画・投資・建設・消防・交通安全・環境衛生の7分野の法令順守に置き換わる。商圏の判定にも5,000平方メートルという線が入り、それ未満は社(コミューン)・区レベル、以上は省レベルで見る。許認可の窓口も省の商工局から省人民委員会に移った。一方で、大規模な小売網やECプラットフォーム事業者には公安省・国防省の審査が新たに加わる。LNT & Partnersは、「完全な順守」をどう判定するかが政令342に明確に書かれておらず申請書式も揃っていないため、当局の裁量と処理の遅れは残ると書いている。免除は出発点で、ゼロ審査になるわけではない。

スーパー300店とコンビニ300店では、免除の効き方が違う

「2店舗目以降が免除」という一文がいちばん効くのは、小型店を面で並べる業態だ。1店あたりの投資が小さく出店数が多いほど、1件ごとに数か月かかる審査のコストが積み上がる。大型モールを1棟建てるのに数年かけるビジネスでは、数か月の審査は工程の一部に収まってしまう。

イオンベトナムが2026年7月8日のオンライン説明会で示した内訳は、ショッピングセンター8、大型スーパー(GMS)15、小型スーパー(SM、日本の「まいばすけっと」型)36、コンビニ182、専門店・サービス74、ドラッグストア1(食品新聞)。300店という目標が掛かっているのは、この小型スーパーの業態だ。食品新聞は現状の36店を「まいばすけっと」タイプのSMと書き、300店体制のほうは「マックスバリュ」の出店拡大として説明している。2030年度までに300店にするなら、週1店を超えるペースを4年以上続ける計算になる。免除がないままこの本数を積むのは、審査の待ち行列だけで無理があった。

業態・チェーン 店舗数 公表されている目標
イオン ショッピングセンター 8(2026年7月) —
イオン 大型スーパー(GMS) 15(2026年7月) —
イオン 小型スーパー(SM) 36(2026年7月) マックスバリュとして2030年度に300店
イオン コンビニ 182(2026年7月) —
フジマート(BRG・住友商事) 23(ハノイ、2026年7月) 全国50店
ファミリーマート 172(2026年見込み、全国) ハノイだけで2031年度に300店

店舗数はイオン分が食品新聞、フジマートがジェトロのカントリーレポート(2026年7月)、ファミリーマートがThe Investorの伝えるQ&Me集計で、目標はNikkei Asiaとジェトロによる。

ファミリーマートの300店は、報道によって対象範囲の書き方が分かれている。今回の報道はハノイに限った300店としているが、同じNikkei Asiaでも9月11日付の記事は全国で300店と読める書き方になっていた。本稿は範囲を明示している新しいほうに従い、表もその前提で作っている。

ファミリーマートの「ハノイで300店」も同じ構造だ。Q&Meの集計では2026年のベトナム全国のコンビニ・ミニスーパーは9,671店、うちハノイが1,676店。ハノイだけで300店は、いまのハノイの総数の2割弱を1社で持つ規模になる。同社の2026年の全国見込みは172店、ハノイ1号店を開けたのは2026年8月だった。5年で300店なら、こちらも週1店を超える。

需要側の数字は伸びている。統計局(NSO)の発表をVIETJOがまとめたところでは、2026年8月の小売・サービス売上高は679兆8140億ドンで前年同月比14.9%増。1〜8月の累計は5,235兆5330億ドンで13.3%増、うち物販が3,947兆6120億ドンで12.8%増だった。本稿では1万ドン=約61円(2026年9月下旬の実勢)で換算し、1〜8月の物販は約24兆円にあたる。

ただし売り場の構成はまだ伝統小売に傾く。InfoBankが複数調査をまとめた整理では、売上ベースのチャネル構成比は伝統小売が約6割、現代小売が約3割、ECが約1割という「6:3:1」の並びになる。ベトナム統計総局の数字ではパパママショップが約140万店、伝統市場が8,000〜8,500カ所ある。政府は首相決定1163/QD-TTgで現代小売比率を2030年に38〜40%へ上げる目標を置いた。ENT免除は現代小売の出店速度を上げるが、売り場の主役が入れ替わるまでの距離は残る。伝統市場の客足が落ちているという現地報道も出ているが、減少率の数字は一次情報で確認できなかったため本稿では扱わない。

現地の受け止めは「歓迎」と「運用を見てから」に割れている

いちばん強い歓迎はイオンから出ている。手塚社長のコメントは中期計画の前提条件が整ったという内容で、5年で3倍という数字を自ら持ち出している。

ファミリーマートベトナムの社長は、店舗網の拡大を妨げている他の現行規制についても当局が早く見直すことを期待する、と述べた(Nikkei Asia)。ENTが1つ外れても、出店を止める要件は他にも残っているという読み方である。

フジマートに出資する住友商事の関係者は、規制緩和が実際にどれだけ効果を生むかは慎重に見極める必要がある、とNikkei Asiaに答えている。条文と運用のあいだに差が出るという見立ては、LNT & Partnersの指摘とも重なる。

ジェトロのハノイ事務所長は、ベトナム市場への参入相談の大半が国内の消費需要を取り込む狙いになっており、流通チャネルを確保して許認可の取得期間を短縮するために現地企業のM&Aも活発だとNikkei Asiaに語った。免除を待つより会社を買う、という選択が実際に取られていたという話でもある。

日本の食品メーカーが先に決めるのは、誰の名前で棚に置くか

棚が増えても、日本のメーカーが自動でそこに並ぶわけではない。ジェトロのカントリーレポート(2026年7月)が整理した流通経路は3本に分かれる。日本のメーカーや商社から現地の大手卸売業者が直接輸入する経路、中小の卸売業者が輸入代行を使う経路、そして日本製品専門店のように小売業者が自ら輸入する経路である。ベトナムの飲食店は卸か中間卸から仕入れるのが一般的で、直接輸入は少数にとどまる。価格の高い輸入品は伝統チャネルではなく現代チャネルで売られるため、日系小売の店舗網が増えることは、そのまま輸入品の置き場が増えることを意味する。

買っている場所の実測値もある。B&Companyがハノイ・ホーチミンの15〜55歳400人に行った消費者調査(2024年10月実施、ジェトロ掲載)では、日本食品・食材を買った場所はイオンモールが29%で最多、次いでShopeeが18%、日本製品専門店が14%だった。最も多く買われた日本食品・食材は水産品37%、調理済み食品20%、菓子12%。買う理由は味が49%、健康・栄養価・安全性が23%、利便性が22%である。日系小売が1社で3割近い購入接点を持っている構図で、その1社が小型店を300店に増やすなら、接点の数そのものが変わる。

そこに乗せるための手続きは、政令342とは別の系統で動く。包装された加工食品は製品自己公表の対象で、マスメディアか自社ウェブサイトで公表し、食品安全に関する情報システムにも掲載する。書類はベトナム語で作り、商品名、成分、消費期限、包装仕様と包装資材、製造者の名称・住所、製品規格書を記載する。ただし製品規格書は、製品の詳細情報、栄養成分、重金属・微生物に関する情報、包装条件と保存条件といった必要事項が入っていれば英語版でも認められる。添付する食品安全データシート(試験結果書)は、当局指定の試験所またはISO 17025準拠の試験所が発行した12か月以内のものが必要だ。保健用食品、薬用栄養食品、特別な食制度用食品、36か月齢以下の子供用の栄養製品などは自己公表では通らず、保健省または省・市の保健局への製品公表登録が義務づけられる。

ここに2026年固有の注意点がある。ジェトロの同レポートによると、政令15/2018/ND-CPに代わる政令46/2026/ND-CPが2026年1月26日に公布され、自己公表・登録に関する新規定も決議66.13/2026/NQ-CPとして2026年1月27日に出た。ところが2026年4月の決議15/2026/NQ-CPにより、改正食品安全法とその施行細則を定める改正政令が施行されるまで、どちらも効力が一時停止された。つまり実務で従うのは引き続き政令15/2018/ND-CPである。新政令の番号だけを見て手続きを設計すると足元をすくわれる。

表示も別の政令で動く。ラベルはベトナム語表記が義務で、輸入後に追加ラベルを貼る運用も認められる。ただし政令37/2026/ND-CPは、通関時点の元ラベルに商品名、原産地、輸出国側で商品に責任を負う組織・個人の名称と所在地が記載されていることを求めている。記載がなければ出荷書類に追加文書を添える。義務表示項目には製造年月日、消費期限、賞味期限が含まれるため、日本国内向けの表示のままでは通らない。

棚が増える側と、原料を引く側が同じ会社になる

日系小売の拡大を「日本の食品が並ぶ棚が増える」だけで読むと、半分を取りこぼす。イオンベトナムは同じ説明会で、プライベートブランド比率を現在の約6%から2030年に20%へ上げる計画を示している。狙う中身は「Made in Vietnam」「Made in ASEAN」で、品質と手頃さを両立させて輸入依存を下げる、という説明だった(食品新聞)。300店という店舗網は、日本の完成品を運ぶ器であると同時に、ベトナム産の原料と加工品を吸い上げる器でもある。

この二面性は日本側の調達担当にとって実利がある。PB比率を3倍以上に上げる小売は、規格と数量を自分で決めて産地に当てていく。産地の選別、作付けの手当て、加工委託先の監査が、日系の基準で回る現場が増える。日本の買い手が単独で産地を探すより、すでに監査と台帳が回っている先を経由するほうが速い局面が出てくる。実際に日本側の企業が現地の合弁を通じて原料の窓を開けた例として、唐辛子粉20トンを日本へ初出荷した日韓合弁ジャントップの動きがある。

逆方向の数字は、日本向けが伸び悩んでいることを示している。VASEPによると2026年上期のベトナムの水産物輸出は58億ドルで前年同期比12.8%増だったが、日本向けは7億8,750万ドルで0.7%増にとどまった。シェアは13.6%。同じ期間に中国・香港向けは15億ドルで37.9%増、米国向けは8億9,790万ドルでほぼ横ばいだった。VASEPは需要の弱さ、円安、EUのIUUイエローカード、認証要件の厳格化を制約に挙げている。日本向けが横ばいのまま中国向けだけが伸びる構図が続けば、産地の目線は日本から離れる。ベトナム国内に日本の規格で買う売り場が増えることは、対日輸出の数字に直接は出ないが、産地側が日本基準の作り方を維持する動機になる。

日本側の受け皿を広げる動きも出ている。極洋が越産パンガシウスを日本国内で拡販している例のように、ベトナム産を日本の売り場に定着させる側と、ベトナムの売り場を増やす側が、同じ産地を取り合う年が来る。調達担当が先に押さえるべきは、産地そのものより、その産地の加工委託枠である。

輸出前に潰しておく手続きと、越えられない壁

販売目的の食品はほぼすべてが専門検査の対象になる。ジェトロのレポートによると、食品衛生・安全検査の管轄は品目で分かれ、栄養補助食品が保健省、飲料・加工乳・植物油・小麦粉・ベーカリーや菓子・ジャムが商工省、穀物・肉・水産品・野菜果物・卵・生乳・塩・調味料・砂糖・茶やコーヒーなどが農業環境省である。検査は簡略・通常・厳重の3種で原則は通常検査、通常と簡略は3営業日以内、厳重は7営業日以内。植物検疫は24時間以内、動物検疫は水生動物・由来品で3〜5日、陸生動物・由来品は45日以内という差がある。通関はVNACCSでの電子申請で、書類検査は一式受領後2営業時間以内、現物検査は書類提出完了後8営業時間以内が目安だ。

日本側で先に済ませる登録もある。果物は生産園地・選果こん包施設・保管施設を事前登録し、水産物は最終加工施設を登録、食肉は「ベトナム向け輸出食肉取扱施設」としての事前認定が要る。水産物の登録先は施設所在の都道府県の管轄部局、果物は植物防疫所である。

そして越えられていない壁がある。ジェトロは、日本からの病害虫リスク分析に関する検疫条件がベトナム側で規定されていないため、果物・野菜の大多数が日本から輸出できない、と注記している。棚が300店に増えても、日本の生鮮青果がそこに並ぶ道は現時点で開いていない。開いているのは加工品と水産品の側だ。2025年の日本からベトナムへの食品・食材輸出878億円のうち、100億円を超える単独品目は軟体動物およびくん製した軟体動物(HS030722)の198億円だけで、前年比87%増だった(財務省貿易統計、ジェトロ掲載)。上位10品目で全体の約64.6%を占め、そのうち5品目が冷凍魚である。日本からベトナムへ出ている食品の主役は、消費者が棚から取る完成品ではなく、現地で加工される原料だという事実は動いていない。イカ・タコの需給が両国で連動する構造は日本海のイカ来遊量とベトナム産イカ・タコの関係を整理した回で触れた。

関税では、AJCEP、日越EPA(JVEPA)、CPTPP、RCEPの優遇税率が使える品目がある。原産地規則を満たし、協定ごとの原産地証明(Form AJ、Form JVなど)を揃えることが条件で、段階的な税率移行が設定されている品目はスケジュールの確認も必要になる。

まとめ:10月18日までに手を打つなら何から

ENT免除は10月18日に効き始めるが、日本の食品メーカー側でこの日に間に合わせるべきものは特にない。効いてくるのは2027年以降、日系小売の小型店が実際に増え始めてからだ。そこまでに済ませておく順序は3つに絞れる。

1つ目は、自社の主力品目が製品自己公表で通るのか、製品公表登録が必要なのかの切り分けである。健康志向の訴求を載せた商品は登録側に落ちることがあり、必要書類も期間も変わる。政令46/2026/ND-CPが停止中で政令15/2018/ND-CPが生きている、という前提で設計する。

2つ目は、試験所の手配だ。食品安全データシートは12か月以内の発行が要件なので、先に取っても寝かせすぎると取り直しになる。当局指定またはISO 17025準拠の試験所を、品目ごとに押さえておく。

3つ目は、商流の相手を決めることである。イオンやフジマートの棚を狙うなら、直接取引ではなく既に納品実績のある現地卸を経由するのが現実的だ。ジェトロのカントリーレポートには日本食品を扱う輸入・卸売業者と小売業者のリストが載っており、取扱品目と主要販売先まで整理されている。自社の品目を扱っている先に当たるのが最短になる。

原料を引く側なら、先に確認するのは産地ではなく加工委託枠だ。PB比率を上げる小売が同じ加工場を押さえに動く前に、数量と規格の話を入れておく。日本の生鮮青果をベトナムの棚に出す構想は、検疫条件が整うまで棚上げにしておくほうが無駄がない。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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