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稲わら1ロールが着火剤50箱に、日本の原料調達はどこを見るか

刈り取りのあと畑で焼かれていた稲わらを固形の着火剤に変え、Amazon経由で米国とカナダへ送っている工房が、ベトナム北中部のタインホア省にある。農業環境省の機関紙にあたる Nông nghiệp và Môi trường が2026年9月25日に配信した映像リポートが伝えた。わら1ロール20〜22kgから着火剤50〜60箱、生産規模は月およそ7,000個に達した時期がある。桁はまだ小さい。それでも日本の食品原料バイヤーがここから持ち帰れるものは、産地との商談でこちらが毎回答えに詰まる問いへの実例だ。仕入れている畑から出る副産物は、いまどこへ売れているのか。

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焼かれていたわらが、北米のBBQ売り場に回った

リポートに出てくるのはタインホア省クイロック社ダンネー1村出身のグエン・スアン・タイ(Nguyễn Xuân Tài)氏。2018年にわらを原料とする着火剤の研究を始め、収穫後のわらを処理・圧縮・成形して小さな固形の着火材にたどり着いた。火が早くつき、一定時間燃え続ける。用途はかまどの火起こし、BBQの炭起こし、キャンプファイヤーなど屋外の火が必要な場面だ。

わらを乾かして砕き、ろうと混ぜて型で固める

工程はリポートに具体的に書かれている。まず前処理でわらを適切な乾燥度まで持っていき、細かく粉砕し、ろうそくのろう(sáp nến)と配合して型に入れて成形する。そのあと機械で使いやすい大きさに切り、包装して出荷する。木材を原料とする既存の着火剤とは原料が違うという言い方をしており、狙う市場として北欧と北米が挙がっている。

「月7,000個」は過去に到達した規模で、いまの月産ではない

ここは調達側にとって決定的な差になる。原文は「ある時期に月およそ7,000個の生産規模に達した」という書き方で、毎月7,000個が継続して出ているとは述べていない。到達実績と平常の供給量を同じ数字として扱うと、こちらの見積りが最初から狂う。産地の小規模事業者の数字は、ピークか継続かをその場で必ず確認したい。

原文の「初」は自社の中の話で、市場初とは書かれていない

この種のリポートは、読み方を一段落とすと事実が変わる。

5つ星8割は事業者の説明で、Amazonの集計値として示されてはいない

「約80%が5つ星」という数字は、販売を続けてきた事業者側の説明として出てくる。プラットフォームの集計画面を引いたものではないし、対象期間も件数も示されていない。「わらを原料にした着火剤は自分たちにとって初」という言い方も、業界初・世界初に読み替えられるものではない。国内外の創作系の表彰を複数受けたとも書かれているが、賞の名称は出ていない。

行政の支援は用地と原料エリアの方針表明までだった

リポートには地元行政側の説明も入る。クイロック社は農業の社なので、起業支援の方針に沿って用地や商標の保護に目を配り、輸出だけでなく国内市場にも広げられるようにするという内容だ。工房の側は規模拡大の条件として生産用地と原料エリアへの支援を挙げている。用地が確保された、補助が決まったという段階の話ではない。

わら何トンで月7,000個になるのか、原文の数字だけで割る

供給余力を見るために、リポートに出ている数字だけで割り算をしてみる。以下の試算列は発表値ではなく本記事の計算で、単位の読み方に前提が入る。

項目 リポートの記載 本記事の試算
わら1ロールの重量 約20〜22kg —
1ロールからの箱数 約50〜60箱 —
月産の規模 ある時期に約7,000個 箱単位で読むと月117〜140ロール
月あたりのわら消費 記載なし 上の換算で約2.3〜3.1トン
年換算のわら消費 記載なし 約28〜37トン

前提はひとつ。原文の「7,000 sản phẩm(製品)」が「hộp(箱)」と同じ単位かはリポートからは判別できない。箱を1個と読んだ場合の数字で、中身の1粒を1個と数えているならわら消費はさらに小さくなる。

北部の冬作は約94万ha、原料が足りない話にはならない

ベトナム統計局の月次報告によると、2026年8月20日時点で全国の冬作稲(lúa mùa)の作付は131万2,500ha、うち北部が93万8,500haで前年同期より3万8,200ha減っている。夏秋作は全国187万haだ。タインホア省が属する北部だけで約94万haの稲作があるところに、年30トン前後のわら消費が乗っている。原料の量が制約になる段階ではなく、詰まるのは集める手間と乾かす手間の側だ。

わらの値段を出すなら畑先渡しか集荷場渡しかを先に決める

このリポートに価格は出てこない。それでも副産物の商談に入るなら、最初に決めるのは取引段階だ。畑で積んだままのロールを引き取る畑先渡しか、集荷場まで運んでからの集荷場渡しか、加工場渡しか。わらは重量に対して体積が大きく、段階が一つ変わるだけで運賃の比率が動く。段階の違う数字を並べて「何倍で売れる」と話を作ると、後で工場の採算計算が合わなくなる。

日本の原料バイヤーがこの工房から引けるもの

着火剤そのものを日本の食品会社が買う場面は考えにくい。引けるのは別のところにある。

副産物の出口を1枚持って産地の商談に行く

ベトナムの産地と原料の話をすると、ほぼ必ず「残ったものをどうするか」が出てくる。籾殻、米ぬか、果実の皮、殻、茎。こちらが買うのは可食部だけなので、残りの処理は相手の負担として残る。ここに具体例を1枚持っていけるかどうかで、価格交渉の空気が変わる。米の副産物でいえば、カントー港に入った中国発の新航路が復路に積むのは米ぬか80コンテナ分という話もあり、米ぬかがコンテナ単位の商材として動いている事例と、わらが月数トンの手工業として動いている事例は桁が二つ違う。同じ「副産物」でも、相手に示す出口は量の桁で選び分けたい。

由来の台帳がないと副産物は売り物にならない

この工房が北欧と北米を狙うなら、いずれ原料のわらがどの圃場から来たかを説明する場面が来る。ソンラ省がコーヒー3万6千haを区分して12月30日までに台帳を整える動きを見ると、産地側が圃場単位の記録を作り始めていることが分かる。副産物は台帳の外に置かれがちで、そこが後から弱点になる。日本側から発注する立場でも、副産物の由来を最初の仕様書に1行入れておくだけで、数年後の確認作業が軽くなる。

次の産地訪問で「わらはどこへ行きますか」と聞く

量の小さい産品を日本の原料として見るときの判断は、これまでも同じ形で出てきた。反収2トンの浮き稲について量が小さくても日本の原料になるかを検討した回と同じで、桁が小さいものは原料としてではなく、産地の状況を測る指標として使うのが早い。

確認できたことと、取れなかった数字

項目 現時点で分かること 確認した先
事業者 グエン・スアン・タイ氏(タインホア省クイロック社ダンネー1村) 起点の映像リポート
着手年 2018年に研究を開始 同上
原料と工程 稲わらを乾燥・粉砕し、ろうと配合して成形・切断・包装 同上
販路 Amazonで米国・カナダへ。狙う市場は北欧と北米 同上
販売価格・単価 未確認 リポートでは扱われていない
受賞の名称 未確認(国内外で複数という記載のみ) 同上
北部の冬作作付 2026年8月20日時点で93万8,500ha ベトナム統計局 月次報告

日本で同じことをやるなら回収と乾燥で詰まる

国内でも稲わらは堆肥や畜産の敷料に回る分を除けば処理が課題として残る。ただ手作業で扱える量には限りがあり、月数トンの規模ならロール単位の回収と乾燥スペースの確保が先に上限になる。雨に当たれば乾燥コストが跳ね上がり、保管場所が足りなければ回収量を落とすしかない。この工房が行政に用地と原料エリアを求めているのは、そこが効いている。

次の産地訪問で試せることを1つに絞るなら、収穫後のわらと殻の行き先を相手に聞き、いま誰にいくらで渡しているかを取引段階つきで記録して帰ることだ。畑先渡しなのか集荷場渡しなのかまで書いておけば、自社の加工品に副産物を組み込む案が出たとき、その1行が見積りの起点になる。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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