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痩せた水田をハウスに替える値段、ハノイ近郊で進む土地の切り替え

ハノイ北郊のノイバイ社で、地力の落ちた水田1マウ(3,600㎡)が2024年2月に自動灌水付きのハウスへ切り替わった。ベトナム農業環境省系の日刊紙Nông nghiệp và Môi trườngが7月25日に伝えた、1986年生まれの農家タ・クオック・ホアン氏の事例だ。初期投資は10億ドン弱(約620万円弱)、作付け8サオ(2,880㎡)から年3億ドン超(約185万円超)を得ているという。日本の調達担当が読むべきは、そこに植わったブドウではない。稲を作っていた区画が1年半でハウスに置き換わったという、土地の使い方が動いた事実の方だ。産地の顔ぶれは、こういう単位で入れ替わっていく。

目次

稲をやめる判断に、先に10億ドン弱を埋めた

ホアン氏が動いたのは2024年2月。舞台はハノイ市ノイバイ社の、原文が「đất lúa bạc màu(地力の落ちた稲作地)」と呼ぶ区画だった。投じたのは自動灌水システムと、日照・降雨・病害虫を遮るビニールのドーム型ハウス。外来の高価な苗を稲作地に持ち込むこと自体が周囲から無謀と見られていた、と原文は書く。

入れたのは韓国から取り寄せたブドウの苗で、記事は品種名を挙げていない。ホアン氏は「この韓国のブドウ品種は、自分の土地に持ってきたら馴らしてやらないといけない。韓国では植えて3年たってやっと実がつくが、こちらでは土の性質をつかんで細かく手をかければ1年から2年で実がつく」と語る。始めた当時の心境は「これをやるというのは、長く食っていくと腹を決めることだ」という一言に集約されている。

防除の設計も具体的だ。園全体を網で囲って産卵に飛来する2紋・4紋のガを締め出し、薬剤の代わりに生物農薬と有機質肥料を使う。収穫は年1作に限る。無理に2作取れば樹が消耗するという判断だ。1株の収量は初年度10〜15kg、その後の作で20〜25kgまで上がった。8サオで1サオあたり年40〜50百万ドン(約25万〜31万円)、合計で年3億ドン超。販路はFacebookとZaloの消費者直販で、収穫体験を受け入れる観光農園は計画段階にある。

ハノイが稲作地を減らしている、その内側で起きた話

この1件は個人の思い切りだけで説明がつく話ではない。ハノイ市は決定2637/QD-UBNDで2030年までの土地利用指標を配分し、2026〜30年に731haの農地を減らす。減る分はすべて稲作地で、2030年の稲作面積は89,126haになり、減少は郊外の社に集中すると市党機関紙Hànộimớiが報じている。ノイバイ社そのものも2025年7月1日の発足で、旧ソクソン県のフークオン・ヒエンニン・タインスアン各社と、マイディン・フーミン・クアンティエン各社の残余部分を統合してできた。区画も台帳も動いている最中の土地だ。

制度の側も転換を前提に整っている。稲作地で作物構成を替える手続きは政令112/2024/ND-CP第8条にあり、ブドウのような永年作物へ切り替える場合は付録IVの登録票を社(xã)人民委員会へ提出する。社は受理から5営業日以内に、その年の作物転換計画との整合を確認する。農地区分を潰す転用ではなく、稲作地のまま作付けだけを入れ替える枠組みだ。だから個人でも1年半で動ける。

同じ動きは各地で走る。ダナンでは採算の合わない水田がハスと観光に振り替えられ(低収益の水田が蓮と観光に変わる、ダナン・ダイアンの産地づくり)、ホーチミン近郊では米が実らない酸性土がグアバ園に変わっている(米が実らない酸性土をグアバ園に、ホーチミン近郊のVietGAP転換)。ノイバイの一件は、その北部・都市近郊版にあたる。

採算を面積単価に落とすと、8倍の差が見える

公表数字を㎡単位に割り戻すと、この転換の性格がはっきりする。北部の面積単位は1サオ=360㎡、1マウ=10サオ=3,600㎡だ。

項目 ベトナム側の数字 換算・注
転換着手 2024年2月 地力の落ちた稲作地
転換面積 1マウ=3,600㎡ うち作付け8サオ=2,880㎡(0.288ha)
初期投資 10億ドン弱 約620万円弱/自動灌水+ハウス
投資の面積単価 約277百万ドン/1,000㎡ 約171万円(本稿試算)。業者見積り相場は190〜260百万ドン
単位面積の収入 年40〜50百万ドン/サオ 約25万〜31万円/360㎡
年間収入 3億ドン超 約185万円超
ha換算の収入 約10.4億ドン/ha 約643万円/ha(本稿試算)
作物生産の全国目標 1ha当たり130百万ドン超(2025年) 約80万円/ha。栽培局が設定
収量と作付け 初年10〜15kg/株、以降20〜25kg/株 年1作。結実開始は韓国3年、現地1〜2年
ハノイの稲作地 2026〜30年に731ha減、2030年に89,126ha 決定2637/QD-UBND

読みどころは2つ。収入側では、ha換算の約10.4億ドンが栽培局の掲げる作物生産の全国目標(1ha当たり130百万ドン超)の約8倍にあたる。稲をやめる動機の強さが、この倍率に出ている。投資側では、転換した1マウ全体を分母にしても1,000㎡あたり約277百万ドンで、施設業者の公表見積り(同190〜260百万ドン)を上回る。ハウスの実面積で割ればさらに上がる。躯体だけでなく棚・灌水・苗を含む一式の値段と読める。なお原文の3億ドン超は収入であって利益ではない。売上ベースでも回収に3年強かかる。

園主・行政・周辺農家、三者の温度差

この記事が有益なのは、成功譚の裏の言葉を落としていない点だ。園主のホアン氏は資金について「ハウスでブドウをきちんとやろうとすると投資は本当にかさむ。10億ドン近くを飲み込むこともある。この辺りの多くの人が効果を見て同じやり方に替えたがっているが、開業資金がなくて手が出せない」と話す。成果ではなく参入障壁を語った発言だ。

地元行政の反応も一様ではなかった。当初は社の側も新しいモデルの実現性に懸念を持っていたが、目に見える成果を前に伴走へ転じ、社会政策銀行の優遇融資へのアクセスを支援したと原文は書く。行政が先に旗を振ったのではなく、結果が出てから制度が後ろについた順番だ。

周辺の農家については、ホアン氏の観測として伝えられるだけで直接の発言はない。効果は見えているのに資金が壁で追随できない状態が続いているという。ホアン氏は資金が下りる時期にもこだわる。10月から12月は土壌改良、棚の準備、韓国への苗の発注が重なり、そこを逃せば翌年2月初旬の定植に間に合わない。融資の可否ではなく実行の時期が成否を分ける、という言い分だ。

日本の調達担当は、この1件から何を持ち帰れるか

ブドウの買い付け話として読むと得るものはほとんどない。0.288haの単独農家であり、輸出を想定した設計でもない。価値は、産地側の設備投資の中身と限界が数字で開示されている点にある。

第一に、㎡単価という共通言語が手に入る。生産者が「ハウスを建てた」と言うとき、何をどこまで建てたのかには幅がある。1,000㎡あたり190〜260百万ドンなら骨組み・網・灌水までの標準的な一式、そこを大きく超えるなら棚や苗や造成まで含む。産地訪問の場で投資額を面積で割るだけで、相手の設備水準を言葉ではなく数字で把握できる。

第二に、年1作という設計思想を見落とさないことだ。同じハウス投資でも、ライチャウ省の山間では7,000㎡の温室が年11作の野菜を回している(雨季に畑が消える山岳で、温室7000㎡が年11作の通年野菜を生む)。ノイバイの園は樹の消耗を避けて回転数をあえて落としている。通年供給を前提にした契約は、この種の産地と最初から噛み合わない。年1回の窓に合わせて枠を押さえる買い方に切り替える話になる。

第三に、資金の出所が示す与信リスクだ。社会政策銀行の優遇融資に頼る生産者は運転資金が薄い。前払いや資材供与を組んだ契約は強い誘因になる一方、こちらの回収リスクは上がる。契約栽培では金額より支払いサイトの設計で差がつく。

第四に、出口が国内直販である点だ。FacebookとZaloで消費者に直接売り、観光農園まで構想する生産者は国内の高値需要に最適化されている。日本向けに振り向けさせるには、その直販の手取りを上回る条件が前提になる。生産できるかとは別の話だ。加えて、稲作地が1年半でハウスに変わるなら年1回の産地リスト更新では追いつかない。情報の鮮度が調達力の一部になっている。

北部の産地地図は、区画単位で書き換わっていく

波及の方向は面積の小ささから逆に見える。0.288haは単独で商流に乗らない。だが全国目標の約8倍という収益差が周辺に見えている以上、資金の壁さえ外れれば転換は面で広がる。ホアン氏の証言が示すのは、技術ではなく資金が律速になっている状況だ。政策金融の枠の配分が、そのまま北部近郊の作付け構成を決めていく。

ここは日本企業にとって参入余地のある場所でもある。完成した産地を買い手として探すのではなく、資金の穴を埋める側に回れば、区画の使い方が決まる段階から関与できる。社人民委員会が転換計画との整合を審査する仕組みがある以上、束ねる相手は個々の農家ではなく社の単位だ。1軒ずつ口説くより、転換計画そのものに話を通す方が早い。ノイバイ社は国際空港と同じ地名を持つ北郊の一角で、都市消費地に近い分だけ国内高値を取りにいく設計が成り立つ立地でもある。

実務メモ:手続き・資金・時期の一覧

項目 内容
産地の所在 ハノイ市ノイバイ社。旧ソクソン県の6社を再編し2025年7月1日発足
転換の根拠法令 政令112/2024/ND-CP(2024年9月11日公布・施行)第8条
手続きの流れ 永年作物などへ替える場合、付録IVの登録票を社(xã)人民委員会へ提出。社は受理から5営業日以内に年間転換計画との整合を確認
資金調達 社会政策銀行(VBSP)の雇用創出融資。政令61/2015および政令74/2019改正で、事業者は1案件最大20億ドン(約1,235万円)、個人は最大100百万ドン(約62万円)。返済は最長120か月、1億ドン超は担保が必要
投資の目安 ハウス1,000㎡で190〜260百万ドン(約117万〜161万円)が施設業者の公表見積り。本件は1,000㎡あたり約277百万ドン(約171万円)
面積単位 1サオ(北部)=360㎡、1マウ=10サオ=3,600㎡
資金が要る時期 10〜12月=土壌改良・棚の準備・韓国への苗発注、翌2月初旬=定植(園主の説明)
栽培と販路 年1作。防虫網+生物農薬・有機質肥料。FacebookとZaloで消費者直販、収穫体験は計画段階
換算レート 1円=約162ドン

まとめ:買う前に、土地が何に替わったかを聞く

ノイバイの一件から取り出せるのは栽培ノウハウではなく、痩せた水田が10億ドン弱と1年半でハウスに変わるという転換の相場観だ。面積単価は1,000㎡あたり約277百万ドン、収入はha換算で全国目標の約8倍、ただし年1作で0.288ha。数字を並べれば、期待できることとしてはいけないことが分かれる。

次に打つ手は3つ。ひとつ、既存の取引先に「直近2年で作付けを替えた区画があるか」を聞き、投資額を面積で割った単価まで確認する。ふたつ、北部近郊の産地候補は農家単位ではなく社(xã)単位で当たり、その社の年間作物転換計画を先に見せてもらう。みっつ、契約を持ちかけるなら10〜12月の資材・苗の発注期に前払いを載せる形を検討する。転換が終わってから訪ねても、区画はもう埋まっている。

参照元:Nông nghiệp và Môi trườngHànộimớiXây dựng chính sách(政府)Thư viện pháp luậtThời báo Tài chính Việt NamLuatVietnamGreenhouseVN

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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