ハノイ・ノイバイの一角で、70代の女性農家がミミズ(giun quế)を使って痩せた土地を作物の育つ畑へ戻している。営むのはGHTファーム。1971年に入隊し30年以上を軍で過ごしたのち帰農し、家畜のふんをミミズに食わせて堆肥に変え、その堆肥でまた作物を育てる循環を回してきた。年商は約20億ドン(1円≈170ドン換算で約1,180万円)、製品はOCOP3つ星に格付けされている。日本の調達担当がこの小さなファームを見ておく理由は、無抗生剤の有機投入資材と、生薬素材「地竜(乾燥ミミズ)」という、いずれも川上で押さえにくい素材の一次供給源になっている点にある。
家畜のふんをミミズが堆肥に変え、その糞土で土を作り直す
荒れた土地を前に選んだのは、化学肥料で無理に地力を上げるのではなく、ミミズに有機物を分解させて土そのものを作り直す方法だった。家畜のふんや生ごみをミミズが食べ、糞土(ミミズ堆肥)が残り、それを畑に戻す。畜舎ではミミズ由来の微生物資材を使い、臭気を約8割抑えたという。2021年には家庭の有機廃棄物処理の全国コンテストで準優勝、2022年にはハノイの優秀女性として表彰されている。ハノイ近郊では痩せた水田をハウスへ切り替える動きも進んでおり(痩せた水田をハウスに替える値段、ハノイ近郊で進む土地の切り替え)、同じノイバイ周辺で土地の使い方を変える試みが並走している。
年商20億ドン・地元15人を雇い、11世帯へ種苗を無償で配る
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年商 | 約20億ドン(約1,180万円) |
| 製品格付け | OCOP3つ星 |
| 雇用 | 地元15人・月8〜12百万ドン(約4.7万〜7万円) |
| 畜舎の臭気 | 微生物資材で約8割低減 |
| 技術供与 | 貧困11世帯へミミズ種苗を無償提供 |
循環は堆肥だけで完結しない。ミミズそのものを乾燥させた「地竜」は伝統的に生薬として使われてきた素材で、堆肥とは別の収益源になる。年商1,180万円は輸出契約の相手として見れば小さいが、見るべきは売上高より、無抗生剤で回る有機資材の生産設計と、そこから副次的に地竜という別素材が出てくる構造のほうだ。
堆肥は現地で使う資材、地竜は日本へ運ぶ素材と性格を分ける
日本側の関心は二方向に分かれる。ひとつは有機・特別栽培向けの土壌改良資材としてのミミズ堆肥。抗生剤に頼らずに作られた堆肥は、投入資材の証明という点で扱いやすい。ただし堆肥は重くかさばり、輸送コストが単価を食うため、日本へ輸入して撒くより、ベトナム現地で日本向け作物を作る産地にこの種の資材を組み込ませる設計のほうが現実的だ。実際、農薬を減らす起点が土づくりだった事例はハティンの柑橘園でも見られる(農薬を減らしたのは土だった——ハティン7haの柑橘園が示す順番)。もうひとつが地竜。軽量・高単価で輸送に乗りやすい一方、用途が生薬である以上、規格・乾燥条件・重金属などの検査体制が前提になる。効能を語る前に、まず素材のトレーサビリティが問われる領域だ。
一戸の生産量より、11世帯へ広がる技術の伝播力を見る
この種の超小規模ファームは、単独で日本の大口需要を満たせない。現実的なのは、複数の同型ファームを束ねる産地単位での供給か、技術パッケージの横展開だ。11世帯へ種苗を配ってきた事実は、その芽にあたる。一戸の量だけを見て切り捨てると、面的な広がりの可能性を取りこぼす。循環型農業を調達先として評価できるかはハティンの大規模事例でも問われてきたが(工場5つに約79億円、ハティンの循環型農業は調達先になるか)、GHTファームはその対極にありながら、投入資材の素性がはっきりしている点で原理は同じだ。
接点を探るなら製品区分の切り分けと検査体制から
まずOCOP認証の対象製品が堆肥なのか地竜なのかを切り分けたい。堆肥なら成分の安定性と原料(どの家畜のふんか)を、地竜なら乾燥・保管条件と検査記録を確認するのが先だ。いずれも小規模ゆえロットが読みにくいため、年間の生産計画を早い段階で共有してもらう必要がある。この順で当たれば、遠回りが減る。