NÔNG NGHIỆP VIỆT NAM — TẠP CHÍ NÔNG NGHIỆP ĐÔNG NAM Á

コメより檳榔、カントー5ha農園が映す中国依存という賭け

メコンデルタ・カントー市の農家が、水田や果樹を潰して檳榔(ビンロウ、ベトナム語でカウ/cau)だけを植える道を選び、2025年には生果の販売だけで10億ドン(約600万円、1万ドン=約60円換算)を超える利益を上げた。ベトナム紙タインニエンが2026年7月3日に報じた事例だ。日本の食卓にはまず並ばない作物だが、この一件には食品バイヤーや農産物商社が押さえておくべき論点が二つ詰まっている。ベトナム農家の「市場感度の高さ」と、その裏返しである「単一市場依存のもろさ」である。

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コメと果樹を捨て、5haすべてを檳榔に

主人公はカントー市ニョンミー社アンフードン集落(旧ソクチャン省ケーサック県)で農園を営むチャウ・クオック・ハイさん(60歳)。もともとは檳榔とザボンの混植だったが、「何年やっても思うような結果が出なかった」ため、ザボンをすべて伐採して檳榔一本に絞った。転換に費やした時間は10年超、累計投資は数百億ドン規模で、その大半は農道のコンクリート舗装や水路の護岸、灌漑設備といったインフラに回したという。

現在の作付けは5ha、樹はおよそ1万5,000本。うち樹齢10年の成木が6,000本、6〜7年生が9,000本という構成だ。ハイさんは「カウ・ヴーボー種は収量が安定していて土に合う。だから長期でこの作物に賭けると決めた」と語る。品種名の「ヴーボー(vú bò)」は直訳すると『牛の乳房』で、洋梨のようにふっくらと大きく、果肉が厚い。この肉厚さと色つやが中国のバイヤーに好まれる。

ビンロウとは何か——中国が買う「嗜好品原料」

日本では馴染みが薄いが、檳榔(ビンロウ)はヤシ科の常緑高木の実で、アジアの熱帯・亜熱帯で古くから噛み嗜好品として使われてきた。ベトナムでは結婚の結納品に欠かせない縁起物でもある。だが、いま価格を押し上げている最大の買い手は中国だ。中国では若い実を菓子(檳榔糖)や噛みタバコ的な嗜好品に加工する巨大な市場があり、ベトナム産の生果はその原料として吸い上げられている。ベトナムは対中檳榔輸出で最大の供給国の一角を占め、輸出の大半が中国向けとされる。

ここで健康面に触れておく。世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は、檳榔の実(アレカナッツ)を発がん性が認められる分類に位置づけており、常用は口腔の健康リスクと関連づけられている。あくまで公的機関が示す事実の範囲での記載であり、本稿は摂取を推奨するものではない。日本の食品事業者が原料として扱う対象ではない点も、あらかじめ押さえておきたい。

なぜ檳榔が「稼げる作物」になったのか

高収益の背景には、中国側の供給ショックがある。中国の生果檳榔は海南島が生産の約9割を担い、その中心・万寧県が海南の約半分を占める。ところがこの主産地で黄化病(イエローリーフ病)が広がり、2024年6月時点で万寧の檳榔樹の8割が感染。生産量は2014年の22万トンから2024年には4万トンへと激減した。国内供給の穴を埋めるようにベトナム産の輸入が伸び、価格が高止まりしている。

項目 数値 円換算(概算)
成木1本あたり年間収量 40〜50kg
檳榔生果の取引価格(品質・需要で変動) 1万〜10万ドン/kg 約60〜600円/kg
2025年の生果販売利益 10億ドン超 約600万円超
苗の年間生産量 約60万本
苗の販売単価(サイズ・輸送距離で変動) 1.2万〜1.6万ドン/本 約72〜96円/本
苗事業の年間利益 約2億ドン 約120万円

価格レンジが1kgあたり1万ドンから10万ドンまで10倍の開きがある点に注目したい。ハイさん自身も「檳榔価格は他の農産物と同じで変動する。1万ドンを割ることもあれば、10万ドンを超えることもある。品質と需要次第だ」と認めている。2024年10月時点の市況では、南部のクアンガイやタイニンで1kg8万〜8.5万ドン、供給の細い北部では最大9万ドンまで上がっていた。今の高値は病害という一時的要因に支えられている面が大きい。

もう一つの稼ぎ頭——苗の販売と「囲い込まない」姿勢

ハイさんの収益源は生果だけではない。年間約60万本の苗を育て、1本1.2万〜1.6万ドンで販売している。利益は約2億ドンと生果に比べれば小さいが、地元の雇用を支える柱になっている。妻のグエン・トゥイ・チャンさんは「大量注文の客はまず農園を見に来る。実際の樹と生産工程を見せることで安心してもらえる」と話す。集客はTikTokやYouTube、そして購入客からの紹介が中心だ。

興味深いのは、ハイさんが「苗販売は儲けが目的ではなく、多くの農家に育てやすく収入の安定した作物を届けたい」と語っている点だ。技術やノウハウを囲い込まず地域に広げる発想は、カントーのドリアン農家が築いた「億万農家クラブ」にも通じる。高収益作物を個人で抱え込むのではなく産地全体で押し上げる動きは、メコンデルタの果樹地帯に共通する強みと言える。

日本の調達担当が読み取るべき二つの示唆

第一に、ベトナム農家の作目転換の速さである。10年前まで果樹を植えていた土地が、市場価格のシグナル一つで丸ごと別の高収益作物に切り替わる。この機動力は、日本のバイヤーがベトナム産の何かを継続調達しようとするとき、供給地の顔ぶれや作付けが数年で入れ替わりうることを意味する。安定調達を前提にするなら、産地の「今」だけでなく作付け動向まで追う必要がある。

第二に、単一市場依存のリスクだ。ハイさんの高収益は中国需要と海南島の病害という、いずれも自分ではコントロールできない外部要因に支えられている。中国の生産が回復すれば、あるいは中国側が輸入方針を変えれば、価格は一気に崩れうる。報道でも「中国市場への過度な依存はリスクをはらみ、需要が減れば生産者の価格急落を招く」と警告されている。これはビンロウに限った話ではない。ドリアンやライチなど対中輸出比率の高いベトナム農産物すべてに共通する構造だ。ドリアンをQRで追跡する全国制度のように、産地側が透明性や規格対応で市場を分散・多層化しようとする動きは、この依存構造への一つの回答でもある。

日本の食品バイヤーにとって檳榔そのものは調達対象ではない。だが「一つの巨大市場が値を吊り上げている作物」を仕入れる際の目利きとして、この事例は格好の教材になる。仕入れ先を選ぶときは、その産地が何に依存して稼いでいるのか、依存先が崩れたときに代替の出口があるのかを問う——ビンロウが示すのは、そうした調達の基本姿勢である。

まとめ:高値の作物ほど「出口」を確認する

カントーの5ha檳榔農園は、市場感度の高いベトナム農家の稼ぎ方と、単一市場依存のもろさを同時に映し出している。日本の調達担当が明日から実践できるのは三点だ。(1) ベトナム産農産物の仕入れ検討時は、その品目の輸出先が中国など特定市場に偏っていないかを確認する。(2) 病害や政策など外部要因で価格が動く商品は、長期契約より小口・都度発注でリスクを分散する。(3) 産地訪問時は「今の価格」だけでなく作付け転換の履歴と今後の計画を聞き、供給の持続性を見極める。高値の裏にある依存構造を読む習慣が、安定調達の第一歩になる。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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