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香料ゼロでパンダンが香る——カマウ発パンダンココナッツの原料力

ベトナム最南端のカマウ省で、割っただけでパンダンリーフの甘い香りが立つココナッツ「ドゥアズア(dua dua)」の試験栽培が形になり始めました。省農業普及センター傘下の試験農場が約2.7ヘクタールに300本超を植え、1本あたり年70〜100果、1果あたり250〜350mlの果汁という実測値を現地農業紙が報じています(2026年7月3日)。香料を一切加えないのにパンダンが香るココナッツウォーター。原材料表示のシンプルさが競争力になりつつある日本の飲料・スイーツ開発にとって、「素材そのものが香料を兼ねる」新しい原料候補の話です。

目次

カマウ省の試験農場、300本超のパンダンココナッツで実測データを公表

起点となったのは、農業・環境省系メディアのノンギエップ・モイチュオンが2026年7月3日に報じた記事です。カマウ省ビンミー村にある農業技術研究・移転農場(省農業普及センター傘下)が、約2.7ヘクタールの敷地にドゥアズアを300本以上植え付け、園内の水路で魚の養殖を組み合わせて土地の利用効率を高めるモデルを運営しています。

報じられた実測値は具体的です。植栽から3.5〜4年で収穫が始まり、収量は平均で1本あたり年70〜100果、管理が良ければ120果を超える。果汁は1果あたり250〜350mlで、パンダンリーフに似た自然な香りとすっきりした甘さ、柔らかく厚みのある果肉が特徴とされています。担当者のグエン・キム・トゥイ氏は、病害が少なく栽培しやすい品種だとした上で、種苗の認定手続きを進めて省内農家への供給体制を整える計画を語っています。さらに、生態観光や体験型の農業観光、一次加工・食品加工への投資と組み合わせれば、ドゥアズアの製品価値は大きく引き上げられるという展望も示されました。

エビと塩の土地カマウが、なぜ「香るココナッツ」なのか

ドゥアズアはタイを起源とする香りココナッツ系の品種で、ベトナムではメコンデルタ、とりわけココナッツの一大産地ベンチェーで栽培されてきました。英語ではパンダンココナッツ、アロマティックココナッツと呼ばれ、皮を削った生果にストローを挿して飲むスタイルが定番です。

一方のカマウ省は半島部の塩性沖積土が広がる土地で、主役はエビ養殖と稲作。果樹の選択肢は多くありません。だからこそ、塩分を含む土壌と赤道に近い気候に適応し、なおかつ一般のココナッツより高く売れる品種を公的機関が実証する意味があります。ベトナムではコーヒーやナッツでも、公的センターや先行農家が主導して新しい特産産地を立ち上げる動きが続いており、北部カオバン省で新興マカダミア産地が育っている事例と同じ型の産地づくりと読めます。

実測データで見る収量・果汁量・価格差

記事で確認できた数値と、産地流通サイトの参考価格を整理します。円換算は1万ドン=約60円(執筆時の概算レート)です。

項目 数値
試験圃場の面積 約2.7ヘクタール
植栽本数 300本超(園内水路での魚養殖を併設)
収穫開始 植栽後3.5〜4年
収量 平均70〜100果/本/年、良管理で120果超
果汁量 1果あたり250〜350ml
ドゥアズア参考価格 1果15,000〜20,000ドン(約90〜120円)
一般的な青ココナッツ(シェム種)参考価格 1果6,000〜15,000ドン(約36〜90円)

単純計算すると、300本×70〜100果で年2万〜3万果、果汁換算で5〜10キロリットル規模。商業原料としてはまだ小さいものの、品種実証の母数としては十分です。価格面では、一般種の上限がようやくドゥアズアの下限に届く水準で、香りの分のプレミアムが常時乗る構造が読み取れます。

「香りは品種そのもの、ただし交雑に弱い」——現地の声

元記事と現地流通の情報からは、次のような声と動きが確認できます。

  • 試験農場のトゥイ氏は「病害が少なく、管理は比較的容易」と評価。省内外への種苗供給を見据えて認定手続きを進めていると説明しています。
  • 同氏はリスクにも触れ、他品種と混植すると受粉交雑で香りが薄れるため、園地を隔離して純度を保つことが栽培の肝だとしています。
  • ベトナムのココナッツ流通サイトの価格表では、ドゥアズアは常に一般種より高い価格帯で掲載されており、香り品種のプレミアムが市場で定着していることがうかがえます。
  • 先行産地ベンチェーでは、皮を削り白い球状に整形した「ゴットチョック」形態のパンダンココナッツを小売・輸出向けに扱う業者がすでに存在し、生果流通のフォーマットができあがっています。

「香料不使用でパンダンが香る」は日本のOEMで何に使えるか

クリーンラベル飲料の設計素材になる

ここが本題です。ココナッツウォーター飲料にパンダンの風味を付けようとすれば、通常は香料の添加が必要で、原材料表示に「香料」の文字が入ります。ドゥアズアであれば、原材料は「ココナッツ果汁」だけでパンダンの風味が立つ。無添加・素材訴求を軸にする飲料ブランドや、アジアンカフェ業態の限定ドリンクにとって、表示のシンプルさと風味の個性を同時に取れる素材は貴重です。日本で流通するココナッツウォーターはタイ産の香りココナッツを含めて選択肢が限られており、「パンダンが香る」という一点だけで棚での説明がしやすくなります。

アジアンスイーツの「本物化」に効く

パンダン風味はシンガポール、マレーシア、タイのスイーツでは定番で、日本でもアジアンスイーツ専門店や物産展を入り口に露出が増えてきた分野です。プリン、アイス、ゼリー、かき氷シロップといった品目で、果汁をベースに置けば香料に頼らずパンダンの世界観を再現できます。柔らかい果肉はトッピングやフィリングの素材としても使え、飲料と菓子の両方に展開できる懐の深さがあります。

調達の現実——今動くならベンチェー、待つならカマウ

冷静に見れば、カマウの300本はまだ試験段階で、商業量の調達先にはなりません。いま試作を始めるなら、流通実績のあるベンチェー産の生果や冷凍果汁が現実的です。その上で、カマウのような新産地の立ち上がりを待つ価値はあります。ベトナムの青果輸出では、ドンタップ省のように産地コードを農家単位まで落とし込む標準化が進んでおり、種苗認定から始まるカマウの取り組みも、輸出向けのトレーサビリティを最初から組み込める余地があります。香り系の農産素材が海外の長期契約に化けた例としては、トゲバンレイシの茶が豪州と3年契約を結んだケースが参考になります。

実務のステップとしては、第一にベンチェー産の生果・冷凍果汁を取り寄せて試作し、第二に殺菌や充填の工程でパンダン香がどこまで残るかを官能評価で確かめ、第三にカマウの種苗認定と作付け拡大の進捗を半年単位で追う。この順番なら、供給が細い新産地に振り回されずに「香る原料」の目利きを先に済ませられます。

ベンチェー一極から「メコンデルタ全域」へ、ココナッツ産地図の変化

ベトナムにとってココナッツは輸出強化品目であり、産地図はベンチェーを中心に描かれてきました。今回のニュースは、その地図の南端に「香り系」という切り口で新しい点が打たれた、という位置づけです。塩性土壌の地帯が高単価の果樹で産地化に挑む動きが定着すれば、エビと米に偏ってきた最南部の農業ポートフォリオが変わります。加工と観光まで産地内で統合する構想も、ベトナムの新興産地に共通する定石です。

買い手側の目線では、供給が広がれば香りプレミアムの価格差は徐々に縮む可能性があります。裏を返せば、産地が増える前の今のうちに品質基準と取引条件を固めた買い手ほど、有利な条件で長く付き合える。新品種・新産地の常として、早く動く価値がある局面です。

調達メモ——品種・形態・注意点

項目 内容
品種名 ドゥアズア(dua dua)。英語表記はpandan coconut、aromatic coconut
主産地 ベンチェー省ほかメコンデルタ。カマウ省は試験栽培段階
主な流通形態 生果(皮むき整形品)、冷凍果汁、菓子などの加工品
結実まで 植栽後3.5〜4年
確認すべき点 他品種との交雑で香りが落ちるため園地の隔離状況を確認。生果は鮮度低下で香りが弱まるため物流リードタイムの設計が必須

香りが品種特性である以上、園地管理がそのまま品質に直結します。現地視察やサンプル取り寄せの際は、単一品種で隔離された園かどうか、収穫からの経過日数をどう管理しているかを最初に確認するのが近道です。

まとめ——「香る原料」は試作から始める

カマウ省のパンダンココナッツ試験栽培は、300本・2.7ヘクタールという小さな一歩ですが、収量と果汁量の実測値、種苗認定への道筋、加工・観光との統合構想まで揃った、産地立ち上げの初期報告として読み応えのある内容でした。日本の飲料・スイーツOEMにとっての要点は一つ。香料を使わずにパンダンが香る果汁は、表示と風味の両方で差別化できる希少な素材だということです。

次のアクションは明確です。ベンチェー産の流通品でまず試作する。工程を通した後の香りの残り方を評価する。そしてカマウの産地化の進捗を定点観測する。原料の目利きを先に終えた企業から、この香りは商品になります。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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