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カオバン省で芽吹く「ナッツの女王」、新興マカダミア産地の実力

ベトナム北部の山岳省カオバン。中越国境に近いハーラン地区トンヌア集落で、かつて「変な木を植えている」と笑われた農家がいまや結実期を迎えている。ラン・ヴァン・テン氏が2022年に植えたマカダミアが実をつけ、周辺の農家を巻き込んだ栽培の輪が広がりつつある。日本で流通するマカダミアの多くはオーストラリアとハワイ産で、需要が供給を上回る構造が続く。ベトナム北部に新たな供給源が育つことは、ナッツを扱う日本の輸入業者にとって調達先の選択肢を考えるうえで見過ごせない動きだ。

目次

笑われた「変な木」が結実した、トンヌア集落の転機

カオバン省ハーラン地区トンヌア集落のラン・ヴァン・テン氏は2022年、それまで誰も手をつけなかったマカダミアの苗を斜面に植え始めた。当時は近隣から「変わったものを植えている」と冷ややかに見られていたが、植え付けから4年目となる2026年に初めての収穫期を迎え、まとまった果実をつけた。テン氏の畑には現在100本を超えるマカダミアが育っている。

この成功は集落単位の動きへと発展した。トンヌア集落では12戸の農家がマカダミア栽培に参加し、栽培面積はおよそ7ヘクタールに達している。ハーラン地区全体では、貧困層・準貧困層の45戸が栽培に取り組み、合計でおよそ17ヘクタールに広がった。荒れていた丘陵地が、果実をつける果樹園へと姿を変えつつある。

なぜ今カオバンなのか、北部山岳の産地形成

ベトナムでマカダミアが本格的に注目されたのは中部高原(タイグエン地方のラムドン省など)が中心で、北部山岳はあとから加わった地域だ。カオバンでは2013年ごろから一部の農家が個別に植え始めたものの、品種や栽培管理がそろわず安定しなかった。転機は2021年。研究機関が科学的な品種選定に乗り出し、土地に合う系統が整理されたことで、2022年以降のテン氏らの植え付けが実を結ぶ土台ができた。

カオバン省全体ではすでに300ヘクタール超でマカダミアが植えられ、このうち10ヘクタール超が安定した収穫段階に入っている。省は2030年までに栽培面積を2,000ヘクタールへ拡大する目標を掲げる。内訳はマカダミア単一栽培が1,500ヘクタール、他作物との混作が500ヘクタールだ。新興産地が「点」から「面」へと広がろうとしている段階にある。

収量と規模、検証済みの数字で見る現在地

カオバンのマカダミアがどの程度の生産力を持つのか。元記事が示す数字を、栽培の段階ごとに整理する。

項目 数値 範囲・補足
ハーラン地区 栽培戸数 45戸 貧困層・準貧困層が中心
ハーラン地区 栽培面積 約17ha 地区全体
トンヌア集落 栽培戸数/面積 12戸/約7ha テン氏の畑を含む
生果収量(目安) 約2.3t/ha・年 結実が安定した畑
乾燥仁への加工収量 1〜2t/ha・年 殻むき・乾燥後
カオバン省 2030年目標 2,000ha 単一1,500ha+混作500ha

マカダミアは植え付けから商業的な量を収穫できるまで7〜10年を要するといわれる作物で、4〜5年目に実をつけ始めても本格的な出荷量に届くにはさらに数年かかる。カオバンの大半の畑はまだ若く、面積こそ広がっているが、安定収穫に入った10ヘクタール超という数字が示すとおり、産地として量をまとまって出せる段階には至っていない。日本側の調達担当者が押さえておきたいのは「これから立ち上がる産地」という現在地だ。

現地の受け止め、農家と行政の温度差

現地報道や関係者の声からは、栽培をめぐる三者三様の受け止めが読み取れる。意訳して整理する。

  • 植え付けを先導した農家は、笑われながら続けた4年がようやく形になり、果実の房を見て手応えを語っている。
  • あとに続いた集落の農家は、貧困層・準貧困層が中心であり、現金収入の柱になりうる新しい作物として期待を寄せている。
  • 行政側は荒れた丘陵地を果樹園に変える「緑の転換」として位置づけ、面積拡大の旗を振る。一方で、苗の質や栽培技術がそろわなければ2013年ごろの失敗を繰り返しかねないという慎重さも背景にある。

勢いと慎重さが同居しているのが、新興産地の偽らざる現状といえる。

日本の輸入業者・調達担当への示唆

日本国内で流通するマカダミアの多くはオーストラリア産とハワイ産が占め、価格はナッツの中でも高い部類に入る。マカダミアの木が商業量に達するまで時間がかかること、殻むき加工に手間がかかること、主産地の人件費の高さなどが背景にあり、需要が供給を上回る構造が続いてきた。この供給の偏りこそ、ベトナム新興産地に目を向ける理由になる。

ただしカオバンの位置づけは「いますぐ買い付けられる産地」ではなく、「数年先を見据えた供給源候補」だ。日本の調達担当者にとっての実務的な示唆は次の3点に整理できる。第一に、量を当てにする段階ではないため、まずは品種・乾燥仁の品質・歩留まりを見極める情報収集の対象として位置づけること。第二に、北部山岳という冷涼な気候帯が中部高原とは異なる風味・粒ぞろいを生む可能性があり、テイスティングを前提にサンプル単位で接点を持つこと。第三に、貧困削減を兼ねた行政主導の産地形成という性格上、トレーサビリティやストーリー性を打ち出しやすく、ギフトや差別化商材の原料として相性がよいことだ。

ベトナム・マカダミア産業全体への波及

カオバンの動きは、ベトナムが国家戦略として進めるマカダミア振興の一断面でもある。ベトナムは2030年までに全国の栽培面積10万ヘクタール、生産量16万5,000トン、輸出額10億米ドルを目標に掲げ、「10億ドルの木」として育てようとしている。現状はおよそ20の省以上で栽培が広がり、ラムドン省を筆頭とする中部高原が量の中心だ。

その中でカオバンやランソンといった北部山岳は、面積こそ小さいものの、国境地域の中山間部で貧困削減と産地形成を同時に進める「もう一つの軸」として位置づけられる。北部が育てば、ベトナム産マカダミアは産地の幅と収穫期の分散を得て、輸出産品としての厚みを増す。日本にとっては、オーストラリア一極に依存しがちな供給構造に対する中長期の選択肢が一つ増えることを意味する。

関連情報と他産地との比較

同じベトナム北部のマカダミア産地として、当サイトでは隣接するランソン省の動きをすでに取り上げている。ランソンは輸出を視野に入れた産地化が先行しており、ランソン省のマカダミア輸出に向けた産地化の記事と読み比べると、同じ北部山岳でもエリア・担い手・段階の違いが見えてくる。ランソンが「輸出を見据えた次の段階」だとすれば、カオバンのハーランは「結実が始まったばかりの新興エリア」であり、産地としての成熟度が異なる。

こうした「国境地域の特産品を産業に育てる」流れは、ナッツに限らずベトナム北部・中部で広がっている。原料供給と輸出の観点では、香り成分を活かすシナモンオイルの輸出に関する記事も同じ文脈で参考になる。また、一人の生産者が一本の木を育て上げる物語性という点では、マンゴスチンの古木をめぐる記事がカオバンの「変な木」の逸話と響き合う。

まとめ:いま動くべきは「情報」と「サンプル」

カオバン省ハーランのマカダミアは、笑われながら植えた木がようやく実をつけた段階にある。地区17ヘクタール・45戸という規模はまだ小さく、省が掲げる2030年の2,000ヘクタールはこれからの目標だ。だからこそ、日本の輸入業者・ナッツ調達担当が取るべき次の一手は、大口の買い付けではなく情報とサンプルの確保にある。具体的には、(1)ランソンなど先行する北部産地と合わせてカオバンの品種・歩留まりを継続ウォッチする、(2)現地の産地化を主導する機関・事業者にサンプル単位で接点を持ち、北部山岳産の風味を自社基準で評価する、(3)トレーサビリティやストーリーを活かせる差別化商材の原料候補として、数年先のメニューに織り込んでおく、の3点だ。供給の偏りが続くマカダミアだからこそ、新興産地の芽は早めに見ておく価値がある。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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