NÔNG NGHIỆP VIỆT NAM — TẠP CHÍ NÔNG NGHIỆP ĐÔNG NAM Á

壺240個で家業の魚醤を継いだ20代、ベトナム発の熟成が日本を狙う

タインホア省ギーソンの海辺で、1997年生まれの若い作り手が家業の魚醤を継ぎ、SNSと通販で国内外へ売り伸ばそうとしている。名前はグエン・ヴァン・ナム氏。元は漁に出ていたが2019年に船を降り、祖父の代から続く発酵の壺の前に立った。陶製の壺240個、発酵は24〜48カ月。ベトナムの伝統調味料「ヌクマム(魚醤)」を、価格競争ではなく熟成と物語で差別化しようとする動きは、日本の調味料バイヤーや食品OEM関係者にとっても見過ごせない。

目次

船を降りた漁師が、祖業の壺240個に賭けた

ナム氏のブランドは「Ông Năm Ba Làng(オン・ナム・バ・ラン)」。2018年にSNSで少量を売り始め、手応えを得て2019年に漁業を正式にやめた。原料は近海のカタクチイワシで、年間の買い付けは250〜300トン。塩と魚だけを陶製の壺に仕込み、2〜4年寝かせて一番搾りを取る。工房で働くのは9人、エビを使った塩辛(エビ醤)も年に30トンほどの小エビで仕込む。新しい配合の商品は6回作り直してようやく2025年に形になったという。

「事業はもともと苦しいところから始まるものだと分かっているから、最後までこの道を歩む」——ナム氏の言葉は、設備や資本ではなく時間で価値を積む発酵業の本質を突いている。

項目 内容
作り手 グエン・ヴァン・ナム氏(1997年生まれ)
産地 タインホア省ギーソン
ブランド Ông Năm Ba Làng
製法 陶製壺240個・発酵24〜48カ月
原料 カタクチイワシ 年250〜300トン/小エビ 年約30トン
体制 従業員9名・SNS/通販で販売

「安さ」ではなく「熟成年数」で売る発酵

ベトナムの魚醤は、工業生産の安価品と、産地・熟成をうたう手仕込み品に二極化してきた。ナム氏が選んだのは後者で、しかも売り方が新しい。卸の棚に並べて価格で勝負するのではなく、SNSで作り手の顔と壺の写真を見せ、通販で直接届ける。この「D2C(消費者直販)」の型は、フーコック島の老舗ヌクマムが豪州へ出た事例や、地方の作り手が産地物語で単価を上げる流れと重なる。

同じ「捨てられていた/埋もれていた価値を掘り起こす」構図は、ベトナム各地で起きている。法律職を捨ててカカオ製造に転じ日本輸出をめざすラムドンの女性たちや、産地コードを取って干しマンゴーを日本へ運ぶドンタップの動きは、いずれも「無名の一次産品を、物語と規格で外に出す」という共通項を持つ。

日本の調味料・OEM関係者にとっての意味

日本にも「いしる」「しょっつる」といった魚醤文化があり、エスニック調味料の需要は外食・中食で伸びている。ベトナム産ヌクマムは業務用の原料としても、小売のこだわり調味料としても入り込む余地がある。ここで効くのが、ナム氏のような「熟成年数と壺仕込みを明示できる作り手」の存在だ。プライベートブランドを作りたい日本の食品会社にとって、価格だけの相手より、製法と物語を語れる供給元のほうがブランド化しやすい。

一方で、輸出には壁もある。塩分・ヒスタミンなどの基準、ラベル表示、安定供給の担保は、小規模な作り手ほどつまずきやすい。逆に言えば、日本側が規格対応や共同開発で伴走できれば、独占的な調達関係を築ける余地があるということでもある。

OCOPと輸出、これからの現実的な段取り

ナム氏は現在、地域特産品認証「OCOP」の取得を準備中で、輸出も視野に入れる段階だ。OCOPは国内販路と信用を広げる足がかりになるが、そのまま海外基準を満たすわけではない。現実的には、まず国内の百貨店・EC・観光土産で実績を積み、並行して輸出先の求める書類・検査体制を整える二段構えになる。

  • 調達を検討する側は、熟成年数・原料魚種・仕込み時期を具体的に確認する。壺仕込みは季節で品質が動くため、ロットの一貫性を早めにすり合わせる。
  • 小規模生産者は供給量に上限がある。契約前に年間生産可能量と繁忙期を押さえておく。
  • OCOP認定は国内向けの信用。輸出にはHACCPや相手国の食品表示対応が別途必要になる。

ベトナム魚醤の輸出構造と、手仕込みが開く隙間

ベトナムの魚醤は年間数億リットル規模で生産され、その多くは大手の工業生産品が占める。輸出も進むが、価格帯の中心は安価な大量流通品だ。ナム氏のような小規模の手仕込みは、量では大手に及ばない代わりに、「産地・熟成年数・作り手の顔」という工業品にはない情報を持つ。世界の食品市場では、原料原産地や製法のトレーサビリティが値づけの根拠になりつつあり、この「語れる情報量」こそが手仕込みの武器になる。日本の輸入・OEM側から見れば、大手からの安定調達とは別枠で、「ストーリー商材」としての小ロット調達ラインを持つ意味は大きい。棚で価格勝負をしない高付加価値の調味料は、こうした作り手からしか生まれない。

まとめ

船を降りた20代の作り手が、240個の壺と2〜4年の熟成で家業を継ぎ直す。派手な資金調達ではなく、時間と物語で価値を積むこの動きは、ベトナムの一次産品が「安い原料」から「選ばれる素材」へ変わる過程そのものだ。日本の調味料・OEM関係者にとっては、価格表の向こう側にいる作り手の顔を見に行く価値がある。

参照元
・Nông nghiệp & Môi trường「Đưa vị nước mắm quê nhà vươn xa」(2026年8月24日)
https://nongsanviet.nongnghiepmoitruong.vn/dua-vi-nuoc-mam-que-nha-vuon-xa-d827100.html

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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