ベトナム最大の食品・日用品小売チェーンWinCommerce(マサングループ傘下)は、2026年に1,000〜1,500店舗を新規出店する計画を公表した。年末には約6,100店舗体制となり、新規出店の約7〜8割を地方・農村部(ルラル)に振り向ける。生鮮直接調達と18の常温・冷蔵倉庫を組み合わせた内製サプライチェーンが進捗し、IPOも視野に入る。日本の輸入バイヤー・PBメーカーにとっても、農産物・冷凍食品・FMCG調達の主要相手として注目度が高まる。
ニュース詳細
Tuoi Treが2026年1月に報じた発表によると、WinCommerceは2025年に764店舗を新設し、当初計画700店を上回る実績を達成した。これに続き2026年は新規1,000〜1,500店舗を計画。WinMart(大型スーパー)、WinMart+(コンビニ・ミニスーパー)、WiN(プレミアム業態)の3業態を組み合わせ、年末時点で店舗総数約6,100店、現在の4,600店から約30%増となる見通しだ。
2025年12月の月次純収益は3,557億ドン(約20.9億円、170VND=1JPY換算。米ドル換算では約1.35億ドル)で前年同月比19%増。EBITは2025年通年で1,000億ベトナムドン規模(約5.9億円、約3,800万ドル)のプラスを確保した。新規開店店舗の90.3%が店舗単位でEBITDA黒字化を達成しており、ユニットエコノミクスが安定している点も投資家から評価されている。
2025年新規出店の約80%は「WinMart+ Rural」業態が占め、農村・郊外シフトを鮮明にした。一日の顧客来店数は約150万件、ベトナム小売の現代化進行(モダントレード比率約19%)に対する成長余地は依然として大きい。
背景: マサングループの「Supra」内製サプライチェーン
WinCommerceの強みは、マサングループ全体で構築している垂直統合型サプライチェーン「Supra」にある。グループ内には食肉ブランドMEATDeli(マサンミートライフ)、調味料・即席麺のマサンコンシューマー、コーヒーのフーロン(Phuc Long)等が並び、これらPB商品が小売店頭で安定供給される。さらに18の常温・冷蔵倉庫を全国に配置し、メコンデルタの生鮮野菜・果物・水産物を産地から直接調達する仕組みを進めている。
ベトナム小売市場では、伝統的な路面市場・小規模個人商店が依然として約8割を占めるが、コールドチェーン整備・食品安全意識の高まり・若年層の利便性志向によって、モダントレード比率は急速に上昇中だ。WinCommerceは Bach Hoa Xanh(Mobile World系)と並び、この移行期の最大の受益者と位置付けられている。
数値で見るWinCommerce 2026年計画(170VND=1JPY換算)
| 項目 | 2025年実績 | 2026年計画 | 円換算 |
|---|---|---|---|
| 新規出店 | 764店 | 1,000〜1,500店 | — |
| 店舗総数(年末) | 約4,600店 | 約6,100店 | — |
| 業態 | WinMart、WinMart+、WiN(3業態) | — | |
| 農村部比率(新規) | 約80% | 約70%(継続) | — |
| 12月単月純収益 | 3,557億ドン | — | 約20.9億円(約1.35億ドル) |
| EBIT | +1,000億ドン | — | 約5.9億円(約3,800万ドル) |
| EBITDA黒字店舗比率 | 90.3% | — | — |
| 1日来店客数 | 約150万人 | — | |
| 倉庫 | 18拠点(常温+冷蔵) | — | |
業界・現地の反応
マサングループのCEOは、ロイター・現地記者会見で「2026年は地方・農村でのドミナント化を完成させ、IPO準備を本格化させる」と述べた。WinCommerceのIPOは数年来の懸案で、香港・シンガポール・国内市場いずれかでの上場が取り沙汰されている。
ベトナム小売協会(AVR)の関係者は「WinCommerceとBach Hoa Xanhの2強による地方・農村進出は、中小スーパー・伝統市場の再編を加速させる」とコメント。特に北部のニンビン省・フンイエン省・ハイフォン省、南部のドンナイ省・ロンアン省では、両者の出店競争が激化している。
農産物サプライヤー側の反応も二極化している。直接調達契約を獲得した産地(ダラット高原の野菜、メコンデルタの果物等)は安定取引と高単価のメリットを享受する一方、伝統卸売市場経由のサプライヤーはバイパスされる傾向にあり、産地組合・協同組合による合理化が必要となっている。
日本農業関係者・輸入業者への実務情報
WinCommerceの拡大は、日本の輸入バイヤー・食品メーカーにとって複数の意味を持つ。第一に、対ベトナム輸出のチャネル選択肢が拡大した。日本の冷凍食品・調味料・スナック・乳製品・健康食品メーカーは、ホーチミン・ハノイ都市部の高所得層だけでなく、地方・農村部の中流層にもリーチできる店舗網を活用できる。第二に、PB原料供給の可能性。マサンコンシューマー系PB商品の原料調達において、日本産農産物(米・果物・茶葉等)や加工技術の輸出ポテンシャルがある。
第三に、ベトナム産農産物の対日輸出における物流再設計。WinCommerceの18倉庫は産地集荷・冷蔵保管・選別包装の機能を持ち、ベトナム→日本のコールドチェーン中継拠点としての活用余地がある。特に冷凍ドリアン・冷凍マンゴー・冷凍ライチ等は、産地から直接ホーチミン港・ハイフォン港への集約が課題となっており、WinCommerce倉庫網と連携した3PL設計が現実解となる。
取引アプローチとしては、マサングループのサプライヤー登録(VinSourcing)が起点となる。HACCP・GlobalGAP・VietGAP等の認証取得を前提に、ロット安定供給・価格交渉・販促協賛を組み合わせた複数年契約が一般的だ。
業界への波及――地方サプライチェーンと食品安全
WinCommerceの農村部出店加速は、ベトナム地方経済の構造を変える可能性がある。第一に、コールドチェーン整備が地方産地まで延伸することで、生鮮野菜・果物・水産物の流通ロスが削減される。従来30〜40%とされた青果ロス率が、加工・包装・冷蔵の標準化により10〜15%まで圧縮される見通しだ。
第二に、食品安全・トレーサビリティの底上げ。WinCommerceはVietGAP・GlobalGAP認証品の優先採用を進めており、農家側にも認証取得インセンティブが働く。これは対日・対EU輸出の前提条件と整合するため、産地の輸出競争力強化につながる。
第三に、地方雇用・所得向上。1店舗当たり10〜15人の雇用を生むため、1,000〜1,500店追加で1万〜2万人規模の新規雇用が地方に発生する。これに伴い小売・物流・加工の人材育成需要も高まり、産業全体の高度化を後押しする。
実用情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 運営会社 | WinCommerce(マサングループ傘下) |
| 業態 | WinMart、WinMart+、WiN |
| 2026年計画 | 1,000〜1,500店新規出店、年末6,100店 |
| 農村部シフト | 新規70%超を地方・農村部 |
| サプライチェーン | 18倉庫(常温・冷蔵)、生鮮直接調達 |
| 主要PB系列 | MEATDeli、マサンコンシューマー、Phuc Long |
| サプライヤー登録 | VinSourcing経由 |
| 必須認証 | VietGAP、GlobalGAP、HACCP |
| IPO展望 | 2026年以降、上場準備本格化 |
まとめ
WinCommerceの2026年1,500店追加計画は、単なる小売拡大ではなく、ベトナム食品流通の構造転換そのものだ。マサングループ「Supra」サプライチェーンと18倉庫網、そして地方・農村ドミナント戦略が組み合わさることで、ベトナム小売の現代化が一気に進む。日本の輸入バイヤー・食品メーカー・物流事業者にとっては、対ベトナム輸出と対日輸出の両軸で活用すべき重要パートナーであり、サプライヤー登録・PB協業・3PL連携の早期着手が競争優位の鍵となる。