ベトナムのスーパーの棚が、この半年で目に見えて変わった。かつて贈答用の高級品だった米国産やチリ産のチェリー、ニュージーランド産のキウイ、輸入林檎が、値下がりしながら一般の売り場やECに並び始めている。2026年上半期のベトナムの青果輸入額は約16億ドルに達し、前年同期比で3割近く伸びた。輸出の伸び(金額で14%増)を大きく上回るペースだ。国内の産地では豊作の年に価格が底値まで落ち込む一方、店頭では輸入果実が主役に躍り出る——この産地は底値・店頭は割高というベトナム青果の二層構造に、輸入という新しい変数が加わった。日本の調達・流通に関わる立場から見ると、これは競合の増加であると同時に、日本産果実が入り込む余地の広がりでもある。
輸入が輸出を追い越す勢いで伸びている
起点となったのは、ベトナム国内紙が報じた青果輸入の急拡大だ。上半期の輸入額は約16億ドルで前年同期比約30%増。四半期ベースでも第1四半期が約7億9,600万ドル(前年比32%増)、1〜5月累計で約13億ドル(同31%増)と、高い伸びが続いている。
供給国の顔ぶれも動いた。最大の供給元は中国で、1〜5月の輸入額は約5億ドル、この期間のシェアは約39%に達し前年から49%伸びた。第2位は米国でシェアは3割弱、第1四半期だけで2億1,370万ドル(前年比29%増)を積み上げた。伸び率で目立つのはタイ(157%増)やインド(90%増)、オーストラリア(66%増)で、供給網が一気に多国化している。ホーチミン市の青果店では、かつて売上の2割ほどだった輸入品の比率が3〜4割まで上がり、市場の露店主が「並べている品の半分が輸入物」と語る場面も出てきた。
値下がりの正体は関税と供給増の合わせ技
輸入果実が「高級品」の枠を出た背景には、明確な価格要因がある。ベトナムは2025年に米国産チェリーの輸入関税を10%から5%へ、林檎を8%から5%へ引き下げた。関税の下がった分が小売価格に反映され、これまで手が出しにくかった層まで買い手が広がった。
供給側の増産も重なった。チリ産チェリーは記録的豊作で世界的に値を下げ、ベトナム市場では卸値が1kgあたり3.82ドル前後まで落ちた。米国産・オーストラリア産が最上位価格帯、ニュージーランド産が中位、チリ産が最も手頃という三層の価格帯ができあがり、消費者は予算に応じて産地を選べるようになっている。チェリー単体の輸入額は1〜5月で約2,800万ドル、前年比43%増と、品目としても突出した伸びを見せた。
数字で見る輸入の広がり
主要な供給国と品目の動きを、確認できた数値で並べる。
| 供給国/品目 | 金額・水準 | 前年比 |
|---|---|---|
| 中国(1〜5月) | 約5億ドル・シェア約39% | +49% |
| 米国(第1四半期) | 2億1,370万ドル・シェア3割弱 | +29% |
| オーストラリア(第1四半期) | 5,660万ドル | +66% |
| インド(第1四半期) | 2,560万ドル | +90% |
| タイ(第1四半期) | 1,600万ドル | +157% |
| チェリー(1〜5月) | 約2,800万ドル | +43% |
店頭価格の実勢も裏付けが取れている。チェリーは500gで15万ドン前後(約900円/1万ドン≒60円換算)、チリ産は1kgあたり12〜13万ドン、輸入梨は1kgで8〜9万ドンといった水準だ。輸入品が「たまの贅沢」ではなく日常の選択肢に降りてきていることが、価格からも読み取れる。
小売と流通の現場が語る変化
この動きは、現地の小売・流通の当事者の言葉にはっきり表れている。
- キングフードマートは輸入果実の売上が半年で二桁成長し、キウイ・林檎・ぶどうで5〜15%の値下がりが起きたと報告している。
- 高級輸入食品チェーンのアンナム・グルメでは、前年同期比で林檎が26%増、ブルーベリーが23%増、チェリーが20%増と、贈答向けの品目まで数字を伸ばした。
- 農業の専門家は、輸入果実の急増が「特に中級価格帯の国産品に競争圧力をかけている」と指摘し、国産側は品質と安全性での差別化が問われると分析する。
ベトナムの小売各社は、この圧力に対してVietGAP・OCOP認証の地場農産物を農協から直接囲い込む動きで応じている。輸入品との棲み分けを、産地証明と品質保証で作りにいく構図だ。
日本の調達・流通が読むべき三つの含意
この輸入ブームは、日本の青果バイヤーや輸入業者にとって単純な「競合増」では終わらない。読み解くべき点が三つある。
第一に、ベトナムが「輸出国」であると同時に有力な「輸入市場」へ育っているという事実だ。人口1億人規模の国で中間層の可処分所得が上がり、輸入果実の売り場が2割から3〜4割へ広がった。これは日本産の林檎・梨・ぶどうにとっての需要地が、確かな数字を伴って立ち上がっていることを意味する。ベトナムの店頭でハノイの高級店が日本の富士林檎を1個20万ドン(約1,200円)前後で売り、贈答需要をつかんでいる実例は、価格が高くても品質で選ばれる余地があることを示している。
第二に、競合の位置取りが価格帯で固まりつつある点だ。チリ産が最安、ニュージーランド産が中位、米国・豪州産が上位という三層が定着した市場で、日本産は「その上」の贈答・高品質帯を狙うのが合理的になる。安売り競争に巻き込まれず、糖度と酸味のバランスや外観の均一さといった、産地として説明できる品質差を前面に出す売り方が効く。栃木のいちご、福島のもも、静岡のメロンが高級店の棚に並ぶ流れは、その入口がすでに開いていることの証左だ。
第三に、ベトナム産地の供給過剰は日本の調達にとっての買い場でもあるという視点だ。輸入品が中級帯を侵食する裏で、ベトナム国産のスイカやドリアンは中国の検査強化などで国内が供給過剰に陥り、産地価格が急落する局面を繰り返している。加工原料や業務用として国産果実を安く仕込みたい日本のバイヤーにとって、この価格の谷は仕入れ交渉の好機になる。輸入・国産の両面から、ベトナムは「売る先」と「買う先」の両方の性格を強めている。
日本産果実のベトナム向け実務メモ
日本産果実をベトナムへ持ち込む際の、確認できている解禁状況を整理する。
| 品目 | ベトナム向け状況 | 備考 |
|---|---|---|
| りんご | 輸出可(日本からの主力果実) | 富士など贈答・高級店向けが中心 |
| なし | 2017年1月から輸出解禁 | 植物検疫の対象品目 |
| ぶどう | 輸出可(鮮度保持技術が課題) | CA・MA包装や海上輸送化を検討 |
いずれも青果は輸入前に植物検疫・病害虫リスク分析の対象となり、食品安全は農業農村開発省が所管する。最新の対象品目リストと手続きは、輸出前にジェトロや植物防疫所の一次情報で必ず確認したい。
まとめ——供給が動くいま、両面で構える
ベトナムの青果輸入が上半期で約16億ドル・3割増に伸びた事実は、この国の食卓が確実に変わっていることを示している。輸入チェリーや林檎が日常品に降り、価格帯ごとに産地が住み分ける市場が立ち上がった。日本の調達・流通が次に確かめるべきは三点だ。第一に、日本産の林檎・梨・ぶどうを高品質帯でどう差別化して売り込むか。第二に、供給過剰で底値をつけたベトナム産果実を、加工・業務用の原料としてどう安く仕込むか。第三に、四半期ごとに更新される輸入統計と関税の動きを追い、需要と価格の潮目を外さないことだ。売る先と買う先が同時に育つ市場では、片側だけを見ていては機会を取りこぼす。まずは自社の扱い品目が、この価格三層のどこに置けるかを見極めることから始めたい。