ベトナム北部の山あいにあるトゥエンクアン省イエンフー(旧ハムイエン県)で、赤肉ドラゴンフルーツを育てる農家グループが、年間4,000人を超える来園者を集めている。まとめ役はドー・ヴァン・フン氏。10戸で組む生産グループが約7ヘクタール・約7,000株の畑を回し、収穫は年5回、利益は年8億ドン(約480万円、1万ドン≒60円で換算)を超える。数字の核にあるのは、夜間にLEDを灯して開花期を人為的にずらす「端境期栽培」だ。同じ北部でLED開花を取り入れたフート省の現場はスマホ潅水とLED開花で単価4倍を狙う北部ドラゴンフルーツの挑戦で扱ったが、イエンフーはそこへ観光農園と堆肥循環を重ねている。日本の青果バイヤーや産地関係者にとって、これは「北部産地が供給カレンダーのどこを埋めるのか」を占う実例になる。
山あいの畑が「行き先」になった
イエンフーはトゥエンクアン省の赤肉ドラゴンフルーツの集積地で、専用作付けは50ヘクタールを超える。フン氏の生産グループが栽培を始めたのは2016年。当初は果樹を観光につないでいた農家がわずか3戸だったが、いまでは10戸近くが同じ「見せて売る」型に切り替えた。
週末になると、ランソン、ラオカイ、ハイフォン、フンイエン、バクニン、クアンニンといった近隣省からの客が畑を訪れ、VietGAP基準で育った完熟果をその場で摘んで味わう。生産者は市場へ運び出す手間をかけず、畑にいながら現金を得る。単価は平均で1kgあたり15,000ドン(約90円)ほどだが、来園者への直販と入園体験が積み上がることで、卸一辺倒とは違う利益の作り方になっている。
夜にLEDを灯して開花期をずらす
ドラゴンフルーツは日照時間が短くなると自然には花をつけにくい。そこで夜間に光を当てて「昼が長い」と錯覚させ、収穫の谷にあたる時期にも花を咲かせる技術が使われる。イエンフーではこの手法を、韓国KOICAが導入した自動潅水・照明システムと、ランドン(Rang Dong)社の専用LED(消費電力5〜9W)で1ヘクタール規模から実装した。
効果は電力コストに直結する。白熱電球60W比で約85%、コンパクト蛍光灯20W比で約55%の節電になり、水銀を含まず二酸化炭素の排出も抑えられる。もともと点灯栽培は南部ビントゥアンで1990年代に広まった古い技術だが、LED化と潅水制御が組み合わさったことで、電気代という最大の弱点が北部の中山間地でも割に合う水準まで下がった。
数字で見るイエンフー・モデル
公表された数値を並べると、規模は大きくないが利益率と集客で稼ぐ設計が見えてくる。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 栽培面積・株数 | 約7ha・約7,000株 |
| 収穫回数 | 年5回(平均約20トン/ha) |
| 平均単価 | 15,000ドン/kg(約90円) |
| 年間来園者 | 4,000人超 |
| 年間利益 | 8億ドン超(約480万円) |
| 常時雇用 | 15人(日当22万ドン≒約1,320円) |
| LED節電 | 白熱60W比85%減/コンパクト20W比55%減 |
点灯栽培そのものの相場観は南部の実証が参考になる。ビントゥアンでは点灯果が1kg30,000〜32,000ドンで、自然結実の26,000〜29,000ドンを上回る。ラムドン省では端境期の玉が旬の谷の3倍まで跳ねた局面もあった。端境期をずらすと単価が立つという構図は、花と実が同居する新品種で通年出荷に挑む端境期を消しにかかるロンガン新品種の動きとも通じる。
現場と関係者の言葉
この産地をめぐる声を拾うと、栽培技術だけでなく「畑の使い方」そのものが変わっていることが分かる。
- まとめ役のフン氏——2016年に栽培を始め、いまは10戸のグループでVietGAP基準の赤肉ドラゴンフルーツを育てていると説明する。
- 来園者——ランソンやハイフォンなど近隣省から週末に訪れ、完熟果を摘み取って味わう観光需要が定着した。
- 地域——果樹と観光を結んだ農家は当初3戸だったが、いまでは10戸近くに広がり、集落全体の稼ぎ方に影響している。
剪定で出た枝や規格外の果実は捨てずに堆肥化され、年に数十トンの有機質肥料に生まれ変わる。外から買う肥料を減らしつつ土に戻す循環が、VietGAP認証と観光客への説明のしやすさを同時に支えている。
日本の調達側が読み取るべき3点
イエンフーの規模は7ヘクタールと小さい。それでも日本の青果バイヤーや産地関係者にとって示唆は3つある。
第一に、北部産地は供給カレンダーの空白を埋めうるという点だ。日本が輸入するドラゴンフルーツは南部のビントゥアンやロンアンが中心で、年間4万8千ヘクタール規模の産地から通年で入ってくる。だが自然結実には収穫の谷があり、そこをLED点灯で人為的に埋められれば単価が立つ。作期が南部とずれる北部が端境期の玉を作れるなら、「いつ・どの産地から引くか」を分散したい調達側には新しい選択肢になる。
第二に、単一作物の価格変動を観光で薄める設計だ。ベトナム産果物は供給過剰で産地価格が底を打つ局面が繰り返されてきた。イエンフーは畑を観光地化し、直販と入園体験で卸価格に依存しない収入源を持つ。日本の直売所や6次産業化と同じ発想で、価格が崩れても来園者への直売が下支えする。産地の持続性を測るとき、単価だけでなく「畑がいくつの稼ぎ口を持つか」を見る目線が要る。
第三に、堆肥循環とVietGAPが産地選定の物差しになることだ。剪定残渣を堆肥に戻して外部投入を減らし、認証で栽培履歴を担保する。環境認証やトレーサビリティが輸出の前提になりつつあるいま、コスト構造と環境適合を同時に満たす産地は、価格が同じでも選ばれやすい。養殖と観光を組み合わせて所得を多角化するカムランの億万農家クラブの稼ぎ方と並べると、ベトナムの産地が「作って売る」から「設計して魅せる」へ動いている流れが見えてくる。
産地の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 産地 | トゥエンクアン省イエンフー(旧ハムイエン県) |
| 主体 | ドー・ヴァン・フン氏率いる生産グループ(10戸) |
| 栽培開始 | 2016年 |
| 品目・基準 | 赤肉ドラゴンフルーツ(VietGAP) |
| 導入技術 | 韓国KOICAの自動潅水・照明、ランドン社の専用LED(5〜9W) |
| 来園者の出身地 | ランソン・ラオカイ・ハイフォン・フンイエン・バクニン・クアンニン等 |
まとめ——「谷」を作れる産地を探す
イエンフーの畑が示したのは、光で開花期を動かし、観光で売り口を増やし、堆肥で土に戻すという三つの手を重ねると、7ヘクタールでも年8億ドンの利益が成り立つという事実だ。日本の調達目線でここから確かめるべきは、まず北部産地がいつ出荷できるのかという作期のずれ、次にその玉が検疫・輸送を越えて日本の棚に届く品質を持つか、そして観光と認証をセットで運営できる産地がほかにどれだけ育っているか。南部一極ではない供給地図を描き始める段階にある。次に産地を選ぶときは、単価表だけでなく「その畑が供給カレンダーのどの谷を埋められるか」を一度たずねてみてほしい。