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欧州の起業家がベトナムに賭けた理由――昆虫タンパク質のEntobel、アジア最大工場で年間11,000トン生産体制

シンガポール拠点のEntobel社は、ベトナム南部バリア=ブンタウ省に「アジア最大」の昆虫タンパク質工場を稼働させ、アメリカミズアブ(Black Soldier Fly)由来の飼料原料を年間最大10,000トン生産している。共同創業者のアレクサンドル・ド・カテルスとガエタン・クリエラールは2013年にベトナムへ渡り、熱帯気候を活かした昆虫飼育の事業化に賭けた。その判断が、10年後に3,300万ドルのシリーズB調達として結実した。

目次

ブンタウ工場――50段垂直飼育システムの全容

2023年9月に稼働を開始したブンタウ工場は、わずか12カ月の建設期間で竣工した。50段の垂直飼育ラック、ロボティクス、センサー網、データ分析を組み合わせた生産ラインは、同社が「世界最高の設備投資効率」と呼ぶ水準を達成している。従業員約150名が勤務し、アメリカミズアブの幼虫を農業廃棄物(果物加工残渣など)で飼育する。

2019年から稼働するドンナイ省の第1工場(年産1,000トン)と合わせると、ベトナム国内の合計生産能力は年間11,000トン。2024年末時点で月産300〜400トンのペースで安定出荷しており、フル稼働に向けたランプアップが進行中だ。

なぜベトナムだったのか――熱帯×農業廃棄物×水産業の三位一体

ド・カテルス共同CEOは、ベトナムを選んだ理由を「熱帯気候はアメリカミズアブにとって理想の環境」と端的に語っている。アメリカミズアブは温暖な気候下で成長サイクルが最短化し、飼育コストが大幅に下がる。

加えて、ベトナムは世界有数のエビ・パンガシウス(ナマズ)養殖国であり、昆虫タンパク質の最大顧客となる水産養殖業が目の前にある。従来、養殖飼料には天然魚を原料とするフィッシュミールが使われてきたが、海洋資源の枯渇が深刻化するなか、昆虫タンパク質は持続可能な代替原料として需要が急増している。

投資と生産の推移

出来事 数値
2013年 ベトナム進出(創業)
2019年 ドンナイ第1工場稼働 年産1,000トン
2022年 シリーズB調達 3,300万ドル(約51億円)
2023年9月 ブンタウ工場稼働開始 年産10,000トン
2024年末 月産ペース安定 月300〜400トン
2026年 ベトナム合計能力 年間11,000トン

※1ドル=155円、1ベトナムドン=0.006円で換算

HEINEKEN・Vinh Hoanとの循環エコシステム

Entobel社は単独で成長したわけではない。HEINEKENベトナムとは、醸造副産物を昆虫の飼料として活用する循環型エコシステムを構築している。ビール醸造で発生する使用済み穀物や酵母残渣が、アメリカミズアブの高品質な餌となる。

また、ベトナム最大手の水産加工企業ヴィンホアン(Vinh Hoan)とは、パンガシウス養殖向けに昆虫タンパク質を長期供給する契約を締結した。ヴィンホアンは持続可能な養殖への転換を進めており、Entobel社の昆虫ミールはそのサプライチェーンの中核に位置づけられている。パンガシウス副産物の高付加価値化と合わせて、ベトナム水産業の構造転換が加速している。

日本の飼料・養殖業界への影響

日本の養殖業界にとって、Entobel社の動きは無視できないシグナルだ。日本でもフィッシュミール価格の高騰が続いており、代替タンパク源の確保は喫緊の課題となっている。ベトナムからの昆虫タンパク質輸入は、飼料コストの安定化と持続可能性の両立を図る選択肢になり得る。

日本の食品企業にとっても、昆虫タンパク質を使用した養殖魚のブランディングは差別化要因になる。「昆虫飼料で育てたサステナブルな魚」というストーリーは、欧州市場ですでにプレミアム価格で取引されている。

昆虫タンパク質産業への波及

グローバルでは、オランダのProtix社やフランスのInnovaFeed社が先行プレーヤーとして知られる。しかし、Entobel社の強みは「東南アジアの熱帯気候」を味方につけたコスト競争力にある。温帯地域の欧州勢は暖房コストが生産原価を押し上げるが、ベトナムでは年間を通じてアメリカミズアブの最適温度帯(25〜35℃)を自然に維持できる。

Entobel社はインドネシア、マレーシアへの新規工場建設も計画しており、東南アジア全域で昆虫タンパク質のサプライチェーンを構築する戦略を描いている。ベトナム発のこの産業モデルが、メコンデルタの低排出米と並んで、アジアの持続可能な農業の新たな柱となるかが注目される。

実用情報

項目 内容
企業名 Entobel(本社:シンガポール)
共同CEO Alexandre de Caters、Gaëtan Crielaard
ベトナム工場 バリア=ブンタウ省(10,000トン/年)、ドンナイ省(1,000トン/年)
製品 昆虫プロテインミール、昆虫オイル、フラス(有機肥料原料)
主要投資家 Mekong Capital、Dragon Capital、IFC(国際金融公社)
主要パートナー Vinh Hoan(水産加工)、HEINEKEN Vietnam(循環資源)
用途 エビ・魚類養殖飼料、家畜飼料、植物栄養
原料 農業廃棄物・果物加工残渣・醸造副産物

まとめ

2人の欧州起業家がベトナムの熱帯気候に着目してから13年。Entobel社は「昆虫タンパク質」というニッチをアジア最大規模の産業に育て上げた。年間11,000トンの生産能力、HEINEKENとの循環エコシステム、ヴィンホアンへの安定供給――これらはベトナムが単なる農業輸出国ではなく、農業テクノロジーのプラットフォーム国家へと変貌しつつあることを示している。フィッシュミール依存からの脱却を模索する日本の養殖業界にとって、ベトナム産昆虫タンパク質は検討に値する選択肢だ。

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出典:VnExpress(2026年5月)PR Newswire

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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