ベトナムの水産専門メディア tepbac が2026年9月24日、ốc hương(オックフオン、学名 Babylonia areolata)の養殖が25年で年6,000トン級になった経緯をまとめた(筆者 Kim Tiền 氏)。天然採取に頼っていた巻貝が種苗の人工生産で計画的に養殖できる対象に変わり、科学技術省の資料は2024年時点でも年6,200トン超と記録する。
日本の貝類バイヤーが先に押さえる点は二つ。呼び名と、数量の伸び方だ。日本で「バイ」と呼ぶ貝は同じ属の別種で、厚生労働省が喫食しないよう案内している種にあたる。数量は2002年から2012年に急拡大したあと、2012年から2024年の12年は6,000トン台のままだ。量を一気に積める供給源ではなく、規格を詰めて小口を束ねる相手だ。
天然採取に頼っていた貝が、25年で養殖品に変わった
1998〜2000年の研究で種苗生産の輪がつながった
起点記事によれば、1990年代末に第三水産養殖研究所(Viện Nghiên cứu Nuôi trồng Thủy sản III)が ốc hương の人工繁殖と養殖の研究を始めた。Nguyễn Thị Xuân Thu 氏らの課題が1998〜2000年に実施され、親貝の成熟管理から採卵・ふ化、幼生の育成、着底、中間育成までが一続きになった。海から集める天然種苗の量に上限を握られていては、養殖面積を計画的に広げられない。
カインホアが研究の場から種苗生産の集積地になった
起点記事はヴァンニン、ニンホア、カムランなどカインホア沿岸が早期に種苗生産と養殖を受け入れたとする。養殖はその後ニントゥアン、フーイエン、ビントゥアンへ広がった。
種苗は10年で1,000倍超、そこから12年は6,000トン台で動いていない
「1,578 tỷ」は1兆5,780億ではなく15億7,800万
起点記事が引く科学技術省・情報統計局のデータでは、2002年の種苗生産は約100万匹、養殖面積は約1.7ha、生産量は約8トン。2012年には種苗が年約15億7,800万匹、面積が約694ha、生産量が6,047トンになる。
ここはベトナム語の桁表記でつまずく。原文の 1,578 tỷ con はコンマが小数点、tỷ が10億なので1.578×10億=15億7,800万匹。コンマを桁区切りと読んで「1兆5,780億」にすると1,000倍ずれる。起点記事自身の節見出しが「1 triệu con giống(100万匹)から hơn 1,5 tỷ con(15億匹超)へ」と書き、本文も種苗が1,000倍を超えて増えたとしている。逆に 6.047 tấn はピリオドが桁区切りで6,047トン、6.047トンではない。同じ記事の中でコンマとピリオドが逆の役割をしている。
面積あたりの生産量は10年で倍近くになった
| 年次 | 種苗生産 | 養殖面積 | 生産量 | 面積あたり |
|---|---|---|---|---|
| 2002年 | 約100万匹 | 約1.7ha | 約8トン | 約4.7トン/ha |
| 2012年 | 約15億7,800万匹(1,578 tỷ con) | 約694ha | 6,047トン(6.047 tấn) | 約8.7トン/ha |
| 2024年 | 記載なし | 記載なし | 6,200トン超 | 算出できない |
面積あたりは本記事の計算。種苗は1,000倍超、面積は約408倍。一方で2012年の6,047トンと2024年の6,200トン超は12年でほぼ横ばいだ。起点記事はこの2点を別々の箇所で引いており、間の年次もない。毎年2桁で増える産地として扱う根拠は、この記事から出てこない。
4,500m²で3.6トン、ニントゥアンの3段階養殖が出した数字
生残率80%、利益は同じ試験の対照区より26%高い
起点記事が挙げる実証は、ニントゥアン省農業普及センターが2022年に行った3段階養殖モデルだ。収穫まで通し飼いせず工程を分ける。約6か月で生残率80%、4,500m²で生産量約3.6トン、利益は同モデルの対照区より26%高かったと報告された。この26%は業界平均との差ではなく、同じ試験の比較区に対する差だ。
年100トンを組むなら池を28サイクル集める計算になる
4,500m²=0.45haで3.6トンなので面積あたり約8トン/ha。約6か月の1作で2012年の全国年間平均8.7トン/haに近い。年100トンの枠なら約28作分(100÷3.6、本記事の計算)、年2作回しても14池分が要る。コンダオの海面養殖100ha枠でも触れたが、区画が確保されることと、ある月に何トン出るかが分かることは別の話だ。
2018年のカインホアでは110軒の6割超が種苗の死で赤字になった
育苗費を匹数で割ると1匹あたり30ドン
種苗が量として増えたことと、池の種苗が収穫日まで生き残ることは別の問題だ。同じ tepbac の2018年2月の記事(出典 Báo Khánh Hòa、筆者 Bích La)では、カインホア省ニンホアのニンフオック地区で、台風12号の被害から復旧したばかりの種苗業者が出荷直前に貝を大量死させた。ニンティン地区110軒のうち6割超が同じ状況で、検査では強い細菌感染が出ている。
Nguyễn Đức Dũng 氏は1億5,000万ドン(150 triệu đồng)で500万匹を育苗し引き渡し10日前に死なせ、Ngô Đình Đức 氏は3億ドン(300 triệu đồng)で1,000万匹を出荷7日前に死なせた。どちらも匹数で割れば1匹30ドンだが、これは育苗側の投下費用であって種苗の販売単価でも商品貝の単価でもない。
生餌に頼る養殖は飼料の由来を書面で示しにくい
起点記事は2024年時点の課題として、商品貝養殖の大半が生餌に依存し、有機物・底質・疾病が管理しづらいと科学技術省の資料が指摘する点を挙げる。ốc hương は動物食性で、魚やエビ、二枚貝の生鮮が長く主流だった。配合飼料は国内原料を使う研究が始まった段階、循環式は2020〜2023年の科学技術省の国家課題として第三水産養殖研究所系の機関が主管した段階で、商業規模で置き換わってはいない。
仕入れ側には、生餌依存が品質より先に書類の問題として現れる。飼料の由来と投与記録を示せないと、認証審査でも調達基準の説明でも詰まる。エビではカマウの組合がASC認証を取った例のように小規模生産者を束ねて通す型が先に育った。貝類の輸出自体はカニと貝類が伸びた8か月実績のとおり伸びている。
日本側が最初に確かめるのは学名・取引段階・産地の住所
日本で「バイ」と呼ばれる貝は別種で、厚労省は食べないよう案内している
名前の扱いを間違えると危ない。厚生労働省の自然毒リスクプロファイル「巻貝:フグ毒」は、日本で中毒原因となる有毒種としてエゾバイ科のバイ Babylonia japonica を挙げ、有毒部位の除去が困難なため本種を喫食しないことが中毒防止につながるとする(1957年の新潟県寺泊産、1980年の福井県坂尻産の中毒記録も載る)。同じシリーズの「巻貝:唾液腺毒(テトラミン)」はエゾボラ属(ツブ貝)が対象で、こちらは唾液腺を除去すれば防止できるとされ、地域によってエゾボラ属を赤バイ、別属のエッチュウバイを白バイと呼ぶとも書く。「バイ」という和名は属をまたいで使われている。
ベトナムの ốc hương は同じ Babylonia 属の別種 B. areolata で、この2ページに B. areolata の記載はない。ただし記載がないことは無毒の確認ではない。台湾大学のグループが Toxicon 誌に1998年に出した給餌試験では、有毒プランクトンを食べた二枚貝を B. areolata に与えると麻痺性貝毒(ゴニオトキシン)が移り、内臓からのみ検出されている。動物食性の貝だから、食べたものが内臓に乗る。商流では学名と現地名を書面に併記し、内臓を外す形態かどうかと産地の貝毒モニタリングまで確かめる。「バイ貝」の一語に寄せると、日本側の呼称が指す種と輸入品が同じだと読まれる。
池揚げ・加工場渡し・FOBを混ぜると単価の比較が崩れる
起点記事は単価に触れていない。相手から出た数字がどの取引段階のものかを最初に固定する。池揚げ(養殖池渡し)、加工場渡し、輸出FOB、日本の卸建値は同じ品物でも別の数字で、段階の違うものを並べて倍率を出すと前提が壊れる。
ニントゥアンとフーイエンはいまカインホアとダクラクの一部
起点記事が並べる産地名は、行政区画としてはすでに別の省の中にある。カインホア省の公式サイトは旧ニントゥアン省域のドーヴィンやファンランを自省の行政単位として並べ、ダクラク省の公式サイトは南フーイエン経済区を扱う。産地証明・工場登録・原産地表記は2026年時点の省名で照合する。
| 確認項目 | 相手に出してもらう形 | 取り違えやすい点 |
|---|---|---|
| 名前 | Babylonia areolata と ốc hương を併記 | 日本の「バイ」は別種を指す |
| 取引段階 | 池揚げ/加工場渡し/輸出FOB のどれかを明記 | 段階の違う数字で倍率を出す |
| 形態と内臓 | 活貝/冷凍ボイル身/殻付き冷凍と、内臓を外すか | 麻痺性貝毒は内臓に集まる |
| 供給量 | 池ごと・月ごとのトン数 | 全国6,200トンは国内消費と輸出の合計で1社の量ではない |
| 飼料 | 生餌か配合飼料か、投与記録の有無 | 認証審査で飼料の由来を問われる |
次の一歩は1池の6か月分を月別で出してもらうこと
最初の依頼は1枚に収まる
商談前に頼むものがある。特定の1池について、直近1作(約6か月)の月別出荷トン数、サイズ別の構成、生残率、飼料の種類と記録の有無、提示単価がどの段階のものか。この5項目が1枚で出る相手なら、数十池を束ねる集荷の話に進める。25年で解けたのは種苗の問題で、池の種苗を収穫日まで運ぶ側の課題は起点記事も残っているとする。踏み込む余地は数量ではなく、その残りを書面で管理できる相手を見つけられるかにある。
この記事で参照した資料
- tepbac「25 năm nghề nuôi ốc hương」2026年9月24日・Kim Tiền
- tepbac「Khánh Hòa: Mất Tết vì ốc hương giống chết」2018年2月15日・Bích La/出典 Báo Khánh Hòa
- 厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル:巻貝:フグ毒」
- 厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル:巻貝:唾液腺毒(テトラミン)」
- Chen CY, Chou HN「Transmission of the paralytic shellfish poisoning toxins, from dinoflagellate to gastropod」Toxicon 36(3), 1998
- カインホア省ポータル
- ダクラク省ポータル