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都会の職を捨てフエへ帰農、黄梅7000本で挑む観賞花木のブランド化

ベトナム中部フエ市郊外のクアンディエン地区で、グエン・フィ・トゥオン(Nguyễn Phi Trường)さんが約5,000平方メートルの畑にフエの黄梅「ホアンマイ」を1万本近く育てている。都市部で働いていた仕事を辞めて2018年に故郷へ戻り、テト(旧正月)に欠かせない観賞用花木を産地商品へ育て上げた。地元紙ダンヴィエットが2026年8月6日に報じた。

この記事は、観賞用花木や地方への転身に関心を持つ農業関係者・バイヤーに向けて、トゥオンさんの数字と、フエが進める黄梅ブランド化の背景から、日本の産地づくりに引ける示唆を読み解く。

目次

都市の職を辞め、2018年に故郷で始めた黄梅園

トゥオンさんが戻ったのはフエ市のクアンディエン。畑は現在5,000平方メートルで、さらに2,000平方メートルを広げる計画がある。園の黄梅は、苗木クラスの「マイ・ゾン」が約7,000本、鉢仕立ての盆栽や姿形を作り込んだ「マイ・テ」など他の区分が約3,000本。加えて樹齢数十年の大株が数十本、地植えの木が1,000本以上ある。鉢の盆栽は3〜10年生、若い苗木は1〜2年生だ。

本人が掲げる目標は、木の品質を高め、姿形のバリエーションを増やし、自分のブランドを築くことにある。量を売る段階から、仕立てと銘柄で売る段階へ引き上げようとしている。

観賞用の花木で稼ぐ道は、時間との勝負でもある。3〜10年生の盆栽や樹齢数十年の古木は、それだけの年月と手入れを土地に寝かせて初めて値がつく。都市の職を手放し、資本と時間を長い育成へ振り向けた判断が、いまの二階建ての在庫を支えている。

ホアンマイとは何か——フエの春を象徴する黄色い花木

ホアンマイ(黄梅、マイ・ヴァン)は、テトと春を彩る黄色い花木で、フエの旧都文化と結びついてきた。花弁は5〜6枚と厚く、鮮やかな黄色にかすかで上品な香りをまとうのが在来種の特徴だ。南部で正月に飾られる一般的なマイ・ヴァンとは区別され、フエ産は姿と香りで高く評価される。テト前になると各家庭や企業が縁起物として黄梅を求め、鉢ごと飾って春の間を楽しむ。この一斉の需要が、産地の一年の稼ぎを大きく左右する。

フエ(トゥアティエン・フエ省)は「フエ=黄梅の郷」を掲げる計画を進め、2021年には各家庭に黄梅を植え直す「門前の黄梅」運動を始めた。2023年のテトからは「フエ黄梅フェスティバル」を毎年開いている。2024年には黄梅に地理的表示(GI)「フエ」が認められ、産地としての位置づけが制度面でも固まった。展示会では樹齢を重ねた銘木が1本あたり10億ドン(tiền tỉ、約590万円)を超える値で評されることもあり、頂点の相場は桁が違う。

数字で見るトゥオンさんの園

報じられた数字を並べると、若い苗木で数を回し、盆栽と古木で単価を取る二階建ての構造が見える。

栽培面積 5,000㎡(+2,000㎡を拡張予定)
黄梅の本数 苗木クラス約7,000本+その他区分約3,000本
古木・地植え 樹齢数十年の大株が数十本、地植え1,000本以上
鉢盆栽の樹齢 3〜10年生
年商 約4億ドン(約235万円)
利益 1億5,000万〜2億ドン(約88万〜118万円)
常勤の働き手 4人(月5〜6百万ドン=約2.9万〜3.5万円)
臨時の働き手 約8人(日給20万〜30万ドン=約1,200〜1,800円)

金額は原文のドン表記に基づく概算。1円≒170VNDで換算しており、為替で変動する。

年商の水準は、観賞園芸の産地としては珍しくない。フート省トゥヴーでは盆栽農家50戸が10ヘクタールで1戸あたり年1〜5億ドンを売る産地に育っており、トゥオンさん個人の約4億ドンはその帯に収まる。観賞用の木は、面積あたりの売上を食用作物とは別の物差しで積み上げる。

粗利で見ると、年商約4億ドンに対し利益1億5,000万〜2億ドンは、おおむね4〜5割にあたる。常勤4人と臨時8人に人件費が厚く乗る労働集約型でこの水準を保てるのは、仕立てという手間そのものが値段になる観賞園芸の特性による。木を1本仕上げる時間が、そのまま単価へ変わる。

脱サラ就農と高付加価値作物への示唆

トゥオンさんの園がバイヤーや就農希望者に見せているのは、三つの設計だ。一つ目は、価格帯の異なる在庫を層で持つこと。1〜2年生の苗木は数を売り、3〜10年生の盆栽と数十年の古木で単価を取る。若い木で回転を、古い木で資産価値を稼ぐ形になっている。

二つ目は、需要が一年の一点に集中する作物をどう回すか。黄梅の売り時はテト前に偏る。年商約4億ドンに対し利益が1億5,000万〜2億ドンと粗利が厚いのは、鉢と仕立てで付加価値を乗せているからだが、常勤4人+臨時8人という人の張り方も、テト前の一気の出荷を前提に組まれている。同じフエで不良田をヒラタケに変えた元技術者の事例も、都市の職を捨てて地方の資源で稼ぐ転身という点で重なる。

三つ目は、産地ブランドの傘を個人が使えること。GIと省の運動、毎年のフェスティバルが「フエの黄梅」という看板を用意し、個人生産者はその上で自分の銘柄を立てられる。日本でも盆栽・花木の産地では同じ構図が成り立つ。行政や組合が産地名を守り、その内側で生産者が銘柄を磨く順番だ。

観賞用花木を産地商品にする実務ポイント

観賞用の花木は、食品の農産物とは調達の勘所が違う。日本のバイヤーがベトナムの花木産地を見るなら、押さえる点は絞られる。

  • 売り時が年に一度に偏る。テト向けの黄梅は出荷が集中し、在庫は「その年に出せる木」と「数年寝かせる木」で管理される。
  • 単価は樹齢と仕立てで決まる。同じ品種でも1〜2年生の苗と数十年の古木では桁が違い、数量ではなく一本ごとの評価になる。
  • ブランドと産地表示が値を支える。GIや産地運動が背景にあると、若い担い手でも銘柄を立てやすい。

この構図は花木の輸出でも動く。ドンナイでは若い生産者が観賞用のアデニウム(砂漠のバラ)を数百品種に増やし、日本の園芸市場を名指しで狙っている。生果や加工品と違い、花木は品種と仕立てが商品そのものになる。

日本への視点で現実的なのは、木そのものを輸入することよりも、この産地化の型を学ぶことだ。生きた観賞植物の輸入は検疫のハードルが高く、鉢土付きの花木をそのまま持ち込むのは難しい。フエの黄梅が示すのは、需要の山が年に一度しか立たない品目でも、樹齢別の在庫管理と産地ブランドで通年の経営を回せるという設計だ。

まとめ

トゥオンさんの黄梅園は、脱サラ帰郷の物語であると同時に、需要が一点に集中する観賞花木を層で持ち、産地ブランドの傘の下で個人銘柄を立てる経営の見本になっている。日本の花木・盆栽の産地や、地方転身を考える人にとって、フエの黄梅は「量ではなく一本の価値で稼ぐ」構造を具体的に示す。次にフエを訪ねる機会があれば、テト前の出荷期に園を回り、苗木・盆栽・古木で値がどう分かれるかを一本ずつ確かめておきたい。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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