ベトナム最南端のカマウ省が、2030年までに5万4,680haの水田を「高品質・低排出米」へ転換する計画を進めている。メコンデルタ全域で走る国家プロジェクト「100万ha高品質・低排出稲作」に省として登録した数字で、内訳は年2〜3期作の集約栽培が3万9,980ha、エビと米を組み合わせる稲エビ作が1万4,700haに分かれる。稲作の脱炭素をトレーサビリティと結びつけ、いずれカーボンクレジット市場につなげる青写真だ。日本の食品・流通が進める環境配慮調達とも接点が多く、農産物バイヤーにとって見過ごせない動きになっている。
目標5.4万haに対し、2年で到達したのは約1,380ha
計画の輪郭ははっきりしている一方で、足元の進捗は重い。現地報道によれば、開始から約2年でカマウ省が低排出栽培にこぎ着けた面積は省全体で約1,380haにとどまる。2030年目標の5万4,680haに対して2.52%という水準で、残り8年で40倍近くまで広げる計算になる。
2026年は5,000haを20の郷・町で先行導入する段階に置いた。カマウは稲エビ作の比率が高く、水を張る時期と干す時期の管理がエビの生育とぶつかりやすい。この地域特有の事情が、面積拡大のペースをそのまま握っている。メコンデルタが三期作を回せる背景についてはメコンデルタ米生産の仕組みで詳しく触れているが、カマウの稲エビ地帯は同じデルタでも水管理の前提が異なる。
間断灌漑で種もみ2〜4割減、1haあたり利益は1.2万〜4.8万円上乗せ
数字が動いているのは実証区だ。核になる技術は間断灌漑(AWD/ベトナム語で「Tưới ngập khô xen kẽ」)で、水田を常時湛水せず湿潤と乾燥を交互に繰り返す。これでメタン発生を抑えつつ、投入資材も削れる。カマウの実証区では種もみが2〜4割、窒素肥料が約2割減り、農薬も減少した。稲わらは焼かずに処理する。
収益面では、1haあたりの利益が200万〜800万ドン積み増したと報告されている。1万ドンをおよそ60円(1米ドル≒150円・約2万5,400ドン換算)で置き換えると、日本円で1.2万〜4.8万円ほどの上乗せにあたる。投入を減らして収量と手取りが伴う形で、環境と採算が同じ方向を向いた点が普及の後押しになる。AWDによる排出削減の効果は、利益を6%高めながら温室効果ガスを38%減らした試算もあり、詳細はメコンデルタ農業の持続可能な生産体制で整理している。
| 項目 | カマウ省の数値 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 2030年の目標面積 | 5万4,680ha | 集約3万9,980ha+稲エビ1万4,700ha |
| 現在の到達面積 | 約1,380ha | 目標の2.52% |
| 2026年の先行導入 | 5,000ha/20郷・町 | 拡大の起点 |
| 種もみ削減 | 2〜4割減 | 実証区の実績 |
| 窒素肥料削減 | 約2割減 | 実証区の実績 |
| 利益の増加 | 1haあたり200万〜800万ドン(約1.2万〜4.8万円) | 1万ドン≒60円換算 |
カーボンは「クレジット販売」より先に「生産データの整備」から
この計画でカーボンクレジットは、すぐに現金化する話としては描かれていない。カマウ省が置いた順序は、まず生産履歴の記録とトレーサビリティを固め、産地ごとのデータを積み上げ、それを土台に農家がクレジット市場へアクセスできる状態をつくる、というものだ。排出削減量を計測・報告・検証するMRVの仕組みが整って初めて、国際的なクレジット取引に乗る。数量や金額を先に約束せず、検証可能なデータを先に用意する。後戻りの少ない組み立て方だ。
ここで協同組合(HTX)が要になる。1戸あたりの水田が小さいメコンデルタでは、農家を束ねて栽培基準をそろえ、記録を統一しないとMRVは回らない。カマウが計画の入り口に組合と生産者グループの連携を据えたのは、この構造に対する現実的な答えだ。
日本の脱炭素調達とつながる回路、Green Carbonの動きが示すもの
この転換は日本側の調達方針と噛み合う。食品・外食が原料に環境負荷の情報を求める流れが強まるなか、AWDで栽培しトレーサビリティを備えた米は、脱炭素を打ち出す製品の原料として説明しやすい。実際、日本のGreen Carbon社は「100万ha」プロジェクトに参画し、複数省とAWDを軸にした水田カーボンクレジットの覚書を交わしている。同社がアンザン省と結んだ枠組みでは、2035年までに約366万トンのクレジット創出を掲げる。カマウの計画も、こうした日本発の技術・資金と接続する余地を残している。
日本企業がベトナム農業で成果を出す型は、生産量そのものより価値連鎖への食い込みにある。過去の勝ち筋はベトナム農業ビジネスの成功事例に整理したが、低排出米はその延長線に置ける新しい切り口だ。
バイヤー・輸入業者が今から見ておくべき点
調達側の実務に落とすと、確認すべきは面積の大小より「どの産地が記録を回せているか」だ。カマウの5万4,680haは2030年の到達点で、いま契約に使えるのは実証が済んだ1,380ha前後の産地に限られる。トレーサビリティと栽培基準がそろった圃場を早めに押さえた側が、脱炭素を訴求する製品の原料を安定して確保できる。
もう一つの着眼点は稲エビ作だ。カマウは目標の4分の1超にあたる1万4,700haを稲エビ地帯に割り当てている。低塩分期に米、高塩分期にエビという同じ圃場の二毛作は、農薬・化学肥料を抑えやすく、低排出米とエビを同じ産地から調達できる。米単独では見えないこの組み合わせが、カマウという産地の輪郭を決めていく。
参照元
- Nông nghiệp & Môi trường「Cà Mau hướng đến 54.680 ha lúa phát thải thấp」(2026年8月10日): https://nongnghiepmoitruong.vn/ca-mau-huong-den-54680-ha-lua-phat-thai-thap-d825393.html
- Báo Chính phủ「Từ 1.380 ha đến mục tiêu 54.680 ha」: https://baochinhphu.vn/tu-1380-ha-den-muc-tieu-54680-ha-ca-mau-tim-loi-giai-mo-rong-dien-tich-lua-chat-luong-cao-102260709173008523.htm
- Vietnam News「Mekong targets low-emission rice production with carbon credit initiative」: https://vietnamnews.vn/society/1664591/mekong-targets-low-emission-rice-production-with-carbon-credit-initiative.html
- Green Carbon Inc.「An Giang Province MOU」: https://green-carbon.co.jp/en/angiang_dae_mou_gc_en/