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越ロブスター輸出の98.5%が中国、44%増の裏にある死角

ベトナム産ロブスターの輸出が伸びている。ベトナム水産物輸出加工協会(VASEP)の集計では、2026年上半期の輸出額は5億8,460万ドル(約877億円)で、前年同期を44.3%上回った。水産物全体の輸出額5億8,000万ドル…ではない。全体は58億ドル(約8,700億円)で、ロブスターはそのうち10.1%、エビ部門全体で見れば24.9%を占める1品目にすぎない。金額の桁を取り違えやすいので先に整理しておく。

問題は伸びの中身だ。この5億8,460万ドルのうち、98.5%にあたる5億7,600万ドル(約864億円)が中国1国に向かっている。伸び率が高いほど、1つの買い手への集中も深くなっている。輸入国側が制度を一つ変えるだけで、この数字は一夜で意味を失いかねない。日本の水産バイヤーや輸入業者にとっても、供給の安定性を測るうえで見過ごせない構図だ。

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対中依存98.5%、5億8,460万ドルが1つの買い手に握られる

中国の輸入統計では、直近の集計期間にロブスター輸入量は約6万9,800トン。うちベトナムが2万4,100トン(シェア34.5%)で首位に立ち、カナダ(1万5,400トン)、米国(9,900トン)、オーストラリア(7,000トン)を引き離している。数量でも金額でも、ベトナムは中国市場の最大の供給国だ。

裏を返せば、ベトナム側の輸出はこの1市場に賭けている。同じ「対中一極集中」は果物でも起きており、中国のドリアン需要とベトナム農業への影響で見たドリアンの構図と重なる。買い手が1人しかいない品目は、価格も検疫も相手の胸先三寸で決まる。

指標(2026年上半期) 数値 円換算(1ドル≒150円)
水産物全体の輸出額 58億ドル(前年比+12.7%) 約8,700億円
ロブスター輸出額 5億8,460万ドル(+44.3%) 約877億円
うち中国向け(98.5%) 5億7,600万ドル(+44.9%) 約864億円
中国市場でのベトナムのシェア 数量34.5%(2万4,100トン)

トゲロブスターは460万ドルまで縮んだ — 2023年の中国規制が変えた輸出構造

今の好調は、実は「魚種の総入れ替え」の結果だ。ロブスターには大きく2種類ある。高値で取引されるトゲロブスター(タテジマイセエビ、tôm hùm bông)と、小ぶりで安いミナミイセエビ系のグリーンロブスター(tôm hùm xanh)だ。2025年通年で見ると、グリーンロブスターが8億4,320万ドル(約1,265億円)と部門の98.3%を占め、トゲロブスターはわずか460万ドル(約6.9億円)にとどまった。

この偏りは自然に生まれたものではない。中国は2023年5月に野生動物保護法を改正し、タテジマイセエビを保護対象種のリストに加えた。同年10月以降、野生個体のトゲロブスターは中国への輸入が事実上止まった。養殖であっても、稚エビが野生由来でなくF2世代(2代目以降の繁殖個体)であることを証明できなければ通らない。かつての稼ぎ頭が制度一つで市場を失い、ベトナムは規制対象外のグリーンロブスターへ生産を振り替えた。市場を分散させたのではなく、規制に触れない魚種へ寄せたわけだ。結果として、対中集中はむしろ深まった。

「標準化要求」の正体 — 農場コードと施設認定を突きつける買い手

起点となったベトナム紙(Nông nghiệp & Môi trường、2026年8月9日付)が伝える「輸入市場からの標準化要求」は、抽象的な品質論ではない。中身は、検疫検査・食品安全・養殖ゾーンコード・梱包施設の認定基準を中国側が段階的に引き上げていること、トレーサビリティと電子養殖日誌の整備、そして中国税関による食品安全管理システムの承認と「認可済み輸出品目リスト」への収載を求める、という具体的な手続きの束だ。

VASEPのPhùngThịKimThu氏は、ほぼ単一の市場に依存する状態は輸入規制が変われば直ちにリスクになる、と警鐘を鳴らす。標準化それ自体は水産物として健全な方向だが、輸出の98.5%を握る相手がルールを一方的に決められる以上、ベトナムに交渉の余地はほとんどない。トゲロブスターで起きたことが、次はグリーンロブスターの検疫や農場コードで再現されない保証はない。

日本市場への余地 — 伊勢海老の供給難と、すでに整ったトレーサビリティ

起点記事は多角化先としてシンガポール、香港、日本、韓国、中東を挙げるにとどまるが、日本には具体的な受け皿がある。国産イセエビの漁獲は長期的に細っており、高級店・ホテル向けの活魚需要に対して供給が追いついていない。グリーンロブスターはトゲロブスターより小ぶりで単価も低く、コース料理の一品や中価格帯の需要には収まりやすい。まるごと1尾を出す高級路線ではなく、量と価格で回る業務筋との相性がいい。

もう一つの見落とされがちな論点は、ベトナムがすでにトレーサビリティの仕組みを持っていることだ。中国向けに養殖ゾーンコードやF2証明を整えた経験は、そのまま日本や韓国の検疫・産地証明への対応力に転用できる。エビ養殖ではGlobalG.A.P.認証や履歴管理が日本・EU・米国向けの前提になっており、この点はベトナム農作物の主要品目と栽培技術で整理したエビ輸出の下地と地続きだ。障壁は制度よりも物流――活けたまま運ぶコールドチェーンと、日本側の厳格な生鮮検疫にある。ここを詰められる商社・輸入業者にとっては、集中リスクを抱えた供給国から有利な条件で仕入れられる局面だ。

日本の調達担当者への実務メモ

第一に、ベトナム産ロブスターの供給は中国の制度変更に連動して振れる。仕入れ計画は「中国が輸入条件を締めた局面ほど、ベトナムに余剰在庫が出て価格が緩む」という逆相関を織り込んでおくと読みやすい。第二に、活魚で狙うならグリーンロブスター(tôm hùm xanh)が現実的な品目で、トゲロブスターはF2証明という重い前提が付く。第三に、産地証明を求める際は、中国向けに整備済みの養殖ゾーンコードと養殖日誌をそのまま提出させれば、対応の速い供給者を見分けられる。多角化を模索するベトナム側と、安定調達先を探す日本側の利害は、少なくとも今は噛み合っている。日本企業の勝ち筋はベトナム農業の成功事例7選でも触れたとおり、相手の弱みではなく制度の谷間を突くところにある。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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