ベトナム中部・ハティン省の畑で、収穫したばかりの緑豆がその場で計量され、仲買の手で現金に変わっている。2026年の夏作が豊作となった同省デュックミン村では、乾燥緑豆が1kgあたり50,000〜52,000ドン(約300〜315円)で取引され、農家が売り先を探すより先に仲買が畑まで買い付けに来る「即完売」の状態が続く。緑豆は日本のもやしや春雨、餡の原料でもあり、その大半を輸入に頼る日本の調達担当にとって、産地の値動きは遠い話ではない。
畑で計量、その場で現金化
この産地の強さは、流通の短さにある。乾かした緑豆をはかりに載せれば、仲買がその場で買い取っていく。農家は袋詰めした豆を市場まで運ぶ手間も、値崩れを心配する時間も要らない。3サオ(約1,500平方メートル)ほどを作る女性農家は、収穫と同時に代金が入る安心感を口にしていた。豊作と高値、そして買い手が畑まで来るという三拍子が、同じ夏にそろった。
デュックミン村の2026年夏作の緑豆作付けは約110ヘクタール。生育初期は高温と乾燥に見舞われたが、開花期に降った雨が結実を助け、莢が多く粒の詰まった豆に仕上がった。単収そのものは例年をやや下回ったものの、高い相場がそれを埋め合わせ、農家の手取りは確保されている。
なぜ「即完売」なのか
緑豆は生育期間が短く、痩せ地や乾いた土でも育つ。田や他の作物が難しい季節でも一作を差し込める、いわば土地の隙間を埋める作物だ。ハティンのような中部の夏は雨と乾きの振れが大きく、そこで安定して莢をつけた今年の豆は品質面でも評価が高い。粒が締まっていれば選別後の歩留まりが良く、加工にも回しやすい。仲買が畑まで足を運ぶのは、この「粒の確かさ」を早い者勝ちで押さえたいからだ。
畑先で完売する構図は、緑豆に限った話ではない。収穫のたびに買い手が付いて捌ける作物は、ベトナムの契約栽培の広がりと重なる。摘めば売れる唐辛子が産地に定着していった流れ(摘めば完売する唐辛子、契約栽培が拓くベトナム産香辛料の原料)と、今回の緑豆は同じ「畑と買い手の距離が近い」経済の上にある。
価格と円換算で見る
今回の相場を、2026年7月時点の為替(1円=約165ドン)で円に直すと次のようになる。乾燥豆で1kgあたり約300円台という水準は、産地の庭先価格としては強含みだ。
| 区分 | 現地価格(VND/kg) | 円換算(約) |
|---|---|---|
| 生豆(収穫直後) | 約46,000ドン | 約280円 |
| 乾燥豆 | 50,000〜52,000ドン | 約300〜315円 |
※円換算は1円=約165ドン(2026年7月)で計算した概算。為替と輸送・選別・輸出コストは含まない産地の庭先価格。
日本の緑豆は、ほぼ全量が輸入
ここで日本側の事情を重ねると、この産地ニュースの意味が変わってくる。日本で流通する緑豆は事実上すべて輸入で、国産はほぼ存在しない。種子の多くを中国産に頼ってきたが、生産者の減少で相場が上がり、「価格の優等生」とされたもやしまで値上げが続いている。輸入元の分散を探る動きも出ており、ウズベキスタンやミャンマー産を直接輸入するルートづくりも進みつつある。緑豆の調達は、単一国依存から複線化へと静かに舵を切っている。
もやし・餡の原料バイヤーへの示唆
ハティンの緑豆は、日本向けの新しい原料ソースとして「今すぐ主役」になる規模ではない。110ヘクタールという作付けは、大量ロットを求める輸入商社の目線では小さい。だが視点をずらせば読みどころがある。中国一極の緑豆調達がコストと数量の両面で読みにくくなるほど、東南アジアの産地は「万一の備え」としての価値を持つ。ベトナムは緑豆を国内でも広く食べ、産地が各地に散らばる。中部のこうした小さな産地が束になれば、中国・ミャンマーに次ぐ第三の供給地としての厚みが出てくる。
実務で最初にできるのは、この価格を物差しとして手元に置くことだ。ただし庭先の約300円台はあくまで産地価格で、日本の着値には乾燥・選別・残留農薬検査・輸送・輸出マージンが乗る。その前提で中国産相場と並べれば、産地としての強さの度合いは見えてくる。もやし用に評価するなら、粒が締まっているかどうかより、発芽率・粒径のそろい・割れ率・水分といった種子としての指標が要になる。サンプルでそこを確かめ、乾燥や選別を束ねて輸出に回せる集荷業者がいるかを探る。痩せた土地で作物を回す産地の設計は、グアバのような他品目でも実例が出ており(痩せ砂地のグアバが年商36億ドン、ダクラク農家の設計図)、緑豆でも同じ「小さく確実に売り切る」型が成り立っている。
市場への波及と、原料調達の複線化
緑豆は用途が広い。もやしや春雨、餡、健康志向のスープや粥、菓子まで、日本の中食・加工の裾野で静かに使われている。原料の一点依存はどの品目でも供給網の弱点になりやすく、緑豆も例外ではない。中国の作柄や輸出方針ひとつで日本の店頭価格が動く構造は、この30年で幾度も現れた。ベトナム中部の産地が輸出品質の豆を安定して出せるようになれば、バイヤーにとっては値決めの選択肢が一つ増える。産地を増やすこと自体が、価格変動への保険になる。
もっとも、産地の側にも宿題は残る。畑先で即完売するうちは輸出用の集荷・乾燥・選別を束ねる主体が育ちにくく、国内需要が強ければあえて輸出に回す理由も薄い。日本のバイヤーが関心を示すなら、単発の買い付けより、乾燥設備や規格の共有まで含めた継続的な関わりのほうが、産地を輸出品質へ引き上げやすい。
産地データ早わかり
| 産地 | ベトナム・ハティン省 デュックミン村(中部) |
|---|---|
| 作物 | 緑豆(夏作) |
| 作付面積 | 約110ヘクタール(2026年夏作・村全体) |
| 庭先価格 | 生豆 約46,000ドン/乾燥豆 50,000〜52,000ドン(1kg) |
| 取引形態 | 仲買が畑まで来て収穫直後に現地買い付け |
| 作柄 | 単収は例年をやや下回るが、高値で手取りを確保 |
| 日本での主用途 | もやし・春雨・餡・スープ等の原料(ほぼ全量輸入) |
まとめ:小さな産地を、価格の物差しに使う
ハティンの緑豆は、大口の定期調達をいきなり任せられる規模ではない。それでも、試験輸入や小ロットの引き合いから関係を作る相手としてなら、十分に射程に入る。中国依存が進んだ緑豆の調達を見直すとき、こうした中部の小さな産地を早いうちに歩いておくことが、次の値上がり局面での逃げ道になる。畑まで買い手が来るほど強い産地は、裏を返せば輸出に振り向ける余力を持つ産地でもある。豊作で品質の良い今年は、その余力を確かめにいく好機だ。
参照元:Dân Việt