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ソンラ省モクチャウで35歳青年が韓国・FAO支援のスマート温室——パプリカ18トン収穫で粗利2,000万円

ベトナム北部ソンラ省モクチャウ高原で、35歳の若手農家ヴー・バン・ヒエウ(Vu Van Hieu)氏が国連食糧農業機関(FAO)と韓国政府の支援する「次世代のためのスマートファーミング(Smart Farming for the Future Generation)」プロジェクトを活用し、ハイテク温室でのパプリカ栽培に成功しました。最初の収穫期となった3カ月間で、約1,836平方メートルの温室から18トンのベルピーマン・パレルモ種ピーマンを出荷し、粗利5億ベトナムドン(約2,000万円相当、米ドル換算で約2万ドル)を確保。氏はその後、トマト用に2,000平方メートルの温室を増設し、近隣8世帯と「タン・ラップ・ハイテク協同組合(Tan Lap High-Tech Cooperative)」を設立しました。

目次

1. 起点ニュース:FAOが伝えた青年農家の転身

2025年5月、FAO本部は同プロジェクトの成功事例としてヒエウ氏のストーリーを公開しました。同氏は元々、ベトナム北部のナムディン省(紅河デルタ)で農業を始めた農家です。亜熱帯の高温多湿地帯から、標高の高いモクチャウ高原に移り、トマトやキャベツを露地で生産していましたが、気候の不安定化と価格変動に翻弄されていました。本人はFAOの取材で「露地野菜は賭けのようなものでした。豊作でも売り先がない年がありました」と述懐しています。

転機となったのが、韓国政府が総額410万米ドル(約6億円超)を拠出し、FAOがベトナム農業農村開発省およびベトナム果樹野菜研究所(FAVRI)と共同で5年計画として実施する「次世代のためのスマートファーミング」プロジェクトでした。モクチャウ郡の34世帯を対象に、既存温室の改修と低コストながら高機能なスマート機器の導入を支援しています。

2. 背景:モクチャウ高原という選択

モクチャウはハノイから西に約180キロメートルに位置する標高約1,050メートルの高原地帯です。年間平均気温が18〜23度と冷涼で、夏でも30度を超える日が少なく、北部低地で栽培が難しい温帯野菜やハーブの生産適地として注目されてきました。一方で、気候変動により季節外れの大雨や寒波が増え、露地栽培の安定性が損なわれているのも事実です。

ヒエウ氏が最初に建てた温室は、防虫ネット・遮光ロールカーテン・温湿度センサー・点滴灌水・複層侵入防止扉を組み合わせた構造です。温室そのものは韓国製の本格的なフェンロー型ではなく、ベトナム農家が自力で維持できるコスト水準に設計された「最適化温室」と呼ばれる仕様で、初期投資を抑えつつIoT制御を可能にしている点が特徴です。

3. 成果データと協同組合化

プロジェクトでは、対象農家の単位面積あたり収量を露地比130〜150%増にする目標が設定されています。ヒエウ氏のケースでは、最初の温室1,836平方メートルでベルピーマンとパレルモ種ピーマンを栽培し、3カ月の生育期間で18トンの果実を収穫しました。

項目 数値 備考
温室1棟目 1,836平方メートル パプリカ(ベル+パレルモ種)
初回収量 18トン 3カ月の生育期間
粗利 5億VND(約2,000万円) 1棟・3カ月あたり
温室2棟目 2,000平方メートル トマト栽培用に増設
協同組合参加 8世帯 Tan Lap High-Tech Cooperative
プロジェクト全体 34世帯 モクチャウ郡対象
目標収量増 130〜150% 露地比、5年計画
韓国政府拠出額 410万米ドル 5年プロジェクト総額

協同組合の設立は、単独農家では難しい販路開拓を共同で進めるための布石です。出荷ロットを揃えることで小売チェーンや加工業者との交渉力が増し、Eコマースや農業観光(アグリツーリズム)への展開余地も広がります。

4. 関係者の反応

本人ヒエウ氏は前述の通り「露地野菜は賭けのようなもの」と従来の苦境を語り、温室導入後は気象リスクから一定程度切り離された安定生産に手応えを感じている様子です。

同じプロジェクトに参加する別の農家、ドー・ティ・トゥイ氏(30歳、トマト・キュウリ・サヤインゲン・ピーマンを栽培)はFAOの取材に「インパクトはとても励みになるものです」と回答し、研修と圃場実演を経て月収が約290〜415米ドル水準に倍増したと報告されています。

FAVRI(ベトナム果樹野菜研究所)は本プロジェクトの現地パートナーとして、作物別・生育段階別の養液設計、デジタル気象センサー、点滴灌水、マルハナバチによる受粉、防虫・遮光ネット、養液栽培モデルなどのパッケージを技術指導しています。低コスト機材と科学的栽培管理を組み合わせる「現場で使える」スマート農業のひな型です。

5. 日本のアグリ業界・OEMバイヤーへの示唆

日本のアグリ業界・食品OEMバイヤーから見ると、本件は2つの観点で意味があります。1点目は、ベトナム北部高地が冷涼地野菜・パプリカの新たな調達先候補として浮上していることです。日本のパプリカは韓国産の輸入比率が高い構造ですが、モクチャウ産パプリカが品質・規格・価格で実力を伸ばせば、調達ポートフォリオの分散先として検討余地が出てきます。

2点目は、ハイテク温室の「最適化版」というアプローチです。日本でも中山間地の小規模法人が参考にできる発想で、フェンロー型の数千万円投資ではなく、防虫ネット・遮光カーテン・温湿度センサー・点滴灌水という基本機材だけで130〜150%の収量増を狙う設計思想は、地方自治体やJAの補助メニューづくりにも応用できそうです。

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6. 業界波及:低コスト・スマートのモデルケース

「次世代のためのスマートファーミング」が注目される最大の理由は、最先端の高額施設ではなく、ベトナム農家が自分で維持・拡張できるレベルの機材で成果を出している点です。FAOが目指すのは、技術移転後も支援終了とともに使われなくなる「ホワイトエレファント温室」を生まないことです。点滴灌水の水使用量削減、養液設計による化学肥料の最適化、マルハナバチ受粉による農薬削減は、いずれも持続可能性とコストダウンを両立させる処方箋になります。

韓国政府がベトナム高地で農業ODAを展開する背景には、自国のスマートファーム機材・技術の輸出促進という側面もあります。日本もJICAや地方自治体を通じて同様の枠組みを持っていますが、5年で410万ドルという比較的小規模な予算を1郡に集中投下し、34世帯の収量を倍以上に押し上げる「集中型支援」の効果は参考になります。

7. プロジェクト概要

項目 内容
プロジェクト名 Smart Farming for the Future Generation(次世代のためのスマートファーミング)
主導機関 FAO(国連食糧農業機関)
資金提供 大韓民国政府(韓国国際協力団系拠出)
共同実施 ベトナム農業農村開発省、FAVRI(果樹野菜研究所)
総予算 410万米ドル
期間 5年
対象地域 ソンラ省モクチャウ郡
対象世帯 34世帯
主要作物 トマト、メロン、キュウリ、スイカ、パプリカ
協同組合 Tan Lap High-Tech Cooperative(8世帯)

8. まとめ

モクチャウ高原のパプリカ温室は、ベトナム北部高地が「コーヒーと茶の産地」から「冷涼地野菜と高付加価値園芸の産地」へと多角化していく流れを象徴する案件です。35歳のヒエウ氏が単発の成功にとどまらず、近隣8世帯を巻き込み協同組合化に踏み切った点は、日本の中山間地モデルにも示唆を与えます。今後は2棟目のトマトの収益性、Eコマースとアグリツーリズムへの展開、5年プロジェクト終了後の自立運営が論点になりそうです。

情報源

  • FAO Newsroom「A young farmer’s high-tech dream bears fruit… and vegetables」
  • FAO Viet Nam「Smart Farming in Viet Nam」公式ストーリー
  • HortiDaily「Vietnam: A young grower’s high-tech dream bears fruit… and vegetables」
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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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