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越のヤシ10万haで関西電力がJCM調査、買い手が見るのは台帳だ

ベトナム・ヴィンロン省が、ヤシ約10万haを対象にした炭素クレジットの研究提案を日本企業から受けた。会合は2026年9月17日、説明したのはJizoku Inc.と関西電力。仕組みは日越の二国間クレジット制度(JCM)で、研究の柱は肥料の適正使用と、副産物をバイオ炭に変えて土に戻すことだ。農業環境紙 Nong nghiep va Moi truong が9月20日に報じた。

先に押さえたいのは、これが決まった事業ではないことだ。記事は「提案は研究段階にあり、承認された事業ではない」と明示している。日本の食品原料バイヤーにとっての意味は、クレジットより、この提案が要求する測定・報告・検証(MRV)の記録が対日輸出の書類とほぼ重なる点にある。

目次

ヤシ10万haの調査を持ち込んだのは電力会社と大学発の新興企業

9月17日の会合で示されたのは研究で、承認された事業ではない

ヴィンロン省人民委員会との会合で、両社が約10万haのヤシを対象に低排出化と炭素クレジット開発を研究する提案を説明した。Jizoku Inc.のカタオカ・ケイイチロウ社長は省の原料規模と加工企業の層の厚さを評価し、副産物の回収・再利用の実態や加工場から原料を集約できるかを調べたいと述べている。ベトナム・ラオス市場担当のゴ・タン・ダット副社長は、土壌サンプルの採取と評価、衛星データ、AIによる排出モニタリングを国内機関と組む案を出した。同社を一橋大学発とするのは記事の記述で、独自に確認できていない。

省側は慎重だ。グエン・クイン・ティエン副委員長は提案を受け止めつつ、法令遵守と透明性、国・住民・協同組合・企業の利益の調和を条件に挙げた。そのうえで省農業環境局を窓口に総合的な検討を指示し、企業側に方法論と法的根拠の提出を求めた。現在地は書類審査の入口だ。

関西電力の削減目標は2030年度に4,370万トン、基準年は2013年度

関西電力の代表として出席したマツオカ氏は、「ゼロカーボンビジョン2050」に沿って2030年に排出を50%、年約4,400万トン削減する目標があるとし、ベトナムで生まれるクレジットを全量引き取る立場だと発言した、と記事は伝える。出席と引き取り表明はこの報道が唯一の出所で、関電側の発表は確認できていない。

数字は同社の公表資料で裏が取れる。ゼロカーボンロードマップ(2024年4月改定)は、Scope1,2,3を2013年度の8,740万トンから2030年度に4,370万トンへ50%削減するとしている。削減幅も4,370万トンで、記事の「約4,400万トン」とほぼ一致する。ただし記事の発言には基準年も対象範囲もない。同ロードマップはScope1,2を4,710万トンから1,400万トンへ70%削減とし、GXリーグの排出量取引制度に自主目標を提出済みとも記す。50%はScope1,2,3、70%はScope1,2で対象が違う。

ヴィンロン省12.2万haはベンチェとチャビンを合併した後の数字

有機認証3万708haと中国向けコード187件が下地にある

提案の受け皿になっている省の実数は、省農業環境局の集計として記事に並んでいる。

項目 数値(省農業環境局の集計)
ヤシ栽培面積 122,870ha(全国1位、全国面積の5割超)
有機認証済み面積 30,708.3ha/約3億3,780万個・年
中国向け生果の栽培地コード 187件・19,439.79ha
2025年の加工生産額 8兆1,500億ドン(前年比5.84%増/約494億円)
2025年の製品輸出額 約6億ドル(約945億円)
面積・生産量の目標 2030年 約132,000ha・約172万トン/2045年 約140,000ha・約200万トン

円換算は2026年9月26日時点の1米ドル=25,965.70ドン・157.54円による。

もう一点ある。この12.2万haは、2025年の行政区画再編でベンチェ省とチャビン省を統合した後の姿だ。省の公式ポータルは合併前のベンチェ地域の案件を自省の会議で扱い、チャビンの風力案件を自省の投資案件として掲載する。長く「ベンチェ産ココナッツ」で商流を組んできた日本側には、産地表記と行政区画がずれ始めた実務の話だ。

2026年に有機を4万4,077haへ、その区画が先に埋まる

省は2026年に有機原料地を13,369ha増やし44,077haにする計画だ。有機認証と低排出は同じ区画に重ねやすく、JCMの研究が入るなら狙われるのは認証と台帳が既にある区画だろう。有機ヤシを引きたいなら押さえは早いほうがいい。対日供給枠が欧米向けで埋まりやすい構図は、週5〜10コンテナが欧米のみに割り当てられていた配分の実例で見た通りだ。

面積はクレジットにならない、越のJCM承認済み方法論15本の中身

承認済み15本の分野はエネルギー需要11本と廃棄物1本ほか

記事自身が「栽培面積はそのままクレジットに換算できない」と断っている。JCM公式サイトの方法論データを見ると制約はより具体的だ。ベトナム向けの承認済み方法論は15本で、分野はエネルギー需要11本、エネルギー産業・配電・輸送・廃棄物が各1本。農地や土壌炭素は含まれていない。パートナー国全体の承認済み109本でも、分野「15. Agriculture」はフィリピンの水田水管理1本だけだ。

ヤシのバイオ炭でクレジットを出すには、方法論を新しく起こして合同委員会に通す作業が先に来る。省が方法論の提出を求めた理由もここにある。

発行済み1万6,675トンと関電の目標を並べると桁が合わない

項目 数値
ベトナム向け承認済み方法論 15本(審査中9本)
その分野内訳 エネルギー需要11/エネルギー産業1/配電1/輸送1/廃棄物1
ベトナムの登録済みプロジェクト 14件(全パートナー国で95件)
ベトナム分の発行済みクレジット累計 16,675t-CO2(全体で977,846t-CO2)
承認済み109本のうち農業分野 1本(フィリピンの水田水管理)
関電GHG目標 Scope1,2,3 2030年度4,370万トン(2013年度8,740万トン比50%減)
関電GHG目標 Scope1,2 2030年度1,400万トン(2013年度4,710万トン比70%減)

並べると、ベトナム分の発行累計16,675トンは関西電力1社が2030年度に減らすとする4,370万トンの0.04%にあたる(両方の公表値からこちらで割った数字)。登録件数では14件と全体95件の1割超なのに、クレジット量では全体の1.7%しかない。ベトナムのJCMは案件数が先に立ち、発行が後を追う形だ。10万haという面積が出ても、発行までの距離はこの桁の差が示している。

肥料とバイオ炭を動かすと日本に来るヤシ原料の何が変わるか

殻を炭にする側と、繊維・ピートで売る側が同じ副産物を取り合う

省内には約151社のヤシ加工企業があり、製品は活性炭、ヤシ繊維、ココピートまで広い。副産物はすでに売り物だ。省農業環境局のレ・バン・ズン副局長は、土壌改良と保水・養分・炭素貯留を狙って副産物からバイオ炭を作る試験を検討中だと述べている。バイオ炭の需要が乗れば、殻・繊維・ピートの取り合いになる。ココピートや活性炭を越から引く日本側は、価格の建て方が動く点を頭に置きたい。比べるときは畑先渡し・加工場渡し・輸出FOBのどの段階かを揃える。段階の違う値で倍率を出すと見誤る。

MRVの記録は輸出書類の台帳とほぼ同じものを要求する

土壌サンプル、衛星データ、排出量の測定・報告・検証。どれも区画単位で誰が何をしたかを残す作業だ。区画台帳を作る動きは他の品目でも進み、コーヒー3万6千haを3区分して期限付きで台帳を整えるソンラ省の作業と性格が重なる。日本側が求めるトレーサビリティも、EUの規制対応も、JCMのMRVも、要求する記録は近い。一度台帳ができた区画はどの用途にも出しやすくなる。メコンのヤシで動いている寄生蜂3万匹を増殖して6拠点12haで農薬を減らす取り組みの記録も、残留基準にも低排出にも効く同じ台帳に乗る。

日本の食品バイヤーが先にやれるのは産地名の読み替えと台帳の確認

「ベンチェ産」表記は行政区画としてはヴィンロン省になった

ベンチェの名前が入る仕様書や原産地証明は、行政区画としてはヴィンロン省を指す。社内の産地マスタが旧名のままだと、同じ農園を別産地として二重に管理しかねない。ブランド名としてのベンチェを使うかは商品側の判断だが、行政区画の欄は読み替えたい。

契約書に足しておきたい2行はクレジットの帰属と副産物の権利

記事は利益配分の仕組みを論点に挙げる。低排出の作業を実際にするのは農家と協同組合で、権利と義務を誰が持つかは未決だ。日本側が長期契約を結ぶなら、その区画で将来生まれる炭素クレジットが誰に帰属するか、副産物を炭化に回す権利が誰にあるか、この2点を先に書いておくと後で揉めない。クレジットの国際移転はベトナム国内法と国別貢献(NDC)に従い、二重計上を避ける必要があるとも記事は書いている。

次の一手として現実的なのは、取引先のヤシ加工場に「区画コードと有機認証の有無、副産物の販売先」を一枚で出してもらうことだ。省内の中国向け生果には187件・19,439.79haの栽培地コードがある。自社の原料がどれに紐づくかが分かれば、JCMの研究が動いても動かなくても対日出荷の書類は先に固まる。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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