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経理をやめた彼女が配る種苗と販路、ハティン産タウナギの稼ぎ方

企業の経理を辞めて帰郷した女性ホアン・ティ・イエン氏が、ハティン省カムビン社でコンポジット槽15基から始めた無泥タウナギ養殖を約300平方メートル規模へ広げた、とダンヴィエット紙が2026年7月24日に報じた。商品用が約10万尾、種苗が約15万尾、年12〜15トンを1キロ10万〜12万ドン(1円=約162VND換算で約617〜741円)で出す。同じ2026年、メコンデルタでは同じ魚が生産原価を下回る3万5,000ドン台まで沈み、カントー市には約4,000トンが売れ残った。日本の水産バイヤーが読むべきは尾数ではなく、彼女が周辺の養殖世帯に種苗・技術・買取をひとまとめで出している点にある。

目次

経理職を降りた女性が、2年で15基から50基へ増やした

ダンヴィエット紙によれば、イエン氏は企業で長年、経理を担当したのち帰郷して農業に転じた。最初に選んだのは養豚で、規模は1回あたり約100頭。ただ環境汚染の問題が付きまとい、別の道を探すことになった。

切り替え先が無泥タウナギ養殖だった。同紙は彼女の見立てとして、投資額が手頃で環境への負荷が小さく、市場の需要が安定している点に潜在力があると判断した、と伝えている。2024年初めに知人と試験飼育を始め、2025年初めに自前の施設を建てた。据えたのは1基5〜6平方メートルのコンポジット槽15基、敷地は約100平方メートル。1年後に約200平方メートルを追加し、商品用のコンクリート槽15基と種苗槽20基を並べた。

現在の飼養は商品用が約10万尾、種苗が約15万尾。尾数の6割が種苗側に振られているのがこの農場の特徴で、単なる肥育農場ではないことが数字に出ている。年間の出荷は12〜15トン、単価は10万〜12万ドンなので、売上は単純計算で12億〜18億ドン(約741万〜1,111万円)。利益は同紙が年間数億ドンとするのみで、正確な額は公表されていない(1億ドンが約62万円)。

無泥槽が省内に広がった2年と、養豚から降りた判断

ハティン省は無泥タウナギ養殖の後発地ではない。省の農村新報が2024年9月に出した集計では、省内の無泥養殖施設は32か所あり、ホンリン町の7か所を筆頭に9つの地域へ散っていた。同じ集計で2024年の商品タウナギ生産量は30トン超、出荷サイズは8〜10か月で1キロあたり4〜5尾とされる。イエン氏が試験飼育を始めた2024年初めは、省内で無泥槽がまとまった数に達しつつあった時期にあたる。

彼女が養豚を降りた理由が価格ではなく環境負荷だった点も見ておきたい。水を張った槽だけで完結し、糞泥の処理が読める無泥養殖は、その撤退先として理屈が通る。設備投資で戦わずに出口を先に押さえる転身は他省にもあり、整備工から契約ティラピア養殖へ移った例が近い(整備工を辞めた34歳、タインホアで全量買取の契約ティラピア養殖へ)。

技術面について同紙が書いているのは4点だけで、良質な種苗の選択、pHの適正な清浄水の確保、成長段階ごとの飼育技術の習得、そして健康状態を日常的に観察して発病を早期に見つけること。水温や給餌回数、換水の頻度といった運転条件は記事に出てこない。

メコンは原価割れ、ハティンは1キロ617円という2026年の断層

この農場の数字が効いてくるのは、2026年のタウナギ相場を並べたときだ。水産専門メディアのTepbacが2026年4月24日に伝えたところでは、1級品(1キロあたり4〜5尾)の価格は3万5,000〜4万2,000ドンまで下がり、平均生産原価は5万〜6万5,000ドン。1キロ売るごとに1万5,000〜2万5,000ドンの赤字という水準である。VOVが同月22日に報じたカントー市では、市の農民会会長グエン・ヴァン・スー氏が、市全体で約4,000トンが出荷適期を過ぎた状態で滞留していると説明し、市が買い取り先との調整に入るよう求めた。市内の養殖世帯は約1,900、面積は18ヘクタール超とされる。

地域・時点 商品タウナギ単価(1キロ) 円換算 付随データ
ハティン省カムビン社/イエン氏農場(2026年7月) 10万〜12万ドン 約617〜741円 年12〜15トン出荷、商品用10万尾・種苗15万尾
ハティン省全体(2024年9月・省農村新報) 15万〜16万ドン 約926〜988円 無泥施設32か所、2024年生産量30トン超
メコンデルタ1級品(2026年4月・Tepbac) 3万5,000〜4万2,000ドン 約216〜259円 平均生産原価5万〜6万5,000ドン(約309〜401円)
カントー市(2026年4月・VOV) 3万8,000〜4万ドン 約235〜247円 滞留約4,000トン、養殖世帯約1,900、18ヘクタール超

ハティンの単価はメコンの3倍近い。もっとも省内も無傷ではなく、2024年9月の15万〜16万ドンに対しイエン氏の単価は10万〜12万ドンで、2年で3割前後下がった。崩れ方の速度が地域で違う、というのが2026年のこの魚の実像に近い。

省内の先行者が値付けしているのは、肉ではなく種苗だった

イエン氏の周りには、同じ構図で先に走った経営がいくつもある。バオハティン紙が2026年1月に伝えたファム・ゴック・ズン氏(1990年生まれ)は、3か所に計100基のコンポジット槽を持ち、年60〜70トンを1キロ約10万ドンで売って総売上は年約66億ドン(約4,074万円)、利益率は約4割と見積もられている。ただし同紙が並べて書くのは、彼が年約300万尾の種苗を供給し、ゲアン省とハティン省の50世帯超に種苗と技術を直接移転しているという事実のほうだ。

同紙が2026年5月に伝えた種苗専業の例も同じ方向を向く。チュオンルウ社のグエン・ヴァン・チュオン氏は約300平方メートルに27基の槽を置き、年平均で肉7トンと種苗約60万尾を供給して売上10億ドン超(約617万円超)。ティンファット種苗場のダン・ヴァン・クオン氏は100基超の槽を持ち、親個体をヴィンロン省で選抜してハティンへ運び、孵化から育成まで自前で回す。種苗生産技術を自社に取り込むことが要点だ、というのが同紙の整理である。

イエン氏がやっているのも、規模こそ小さいが同じことだ。ダンヴィエット紙は、彼女が年間数十万尾の種苗を供給し、技術支援と製品の買い取りによる連携を、省内の多くの養殖世帯に対して行っていると記している。見学の団体が頻繁に訪れているのも、肉ではなく種苗と運転手順を見に来ていると読むほうが自然だろう。技術を囲い込まず周辺へ配って産地を太らせるやり方は、カントーのドリアン農家が実演した型と重なる(技術は囲い込まない──カントーのドリアン農家が築いた「億万農家クラブ」)。

日本の買い手が座るべき席は、槽の前ではなく種苗を出す側の隣

ここからが調達側の話になる。ハティン省の無泥タウナギは1軒あたりの規模が小さい。イエン氏で年12〜15トン、省内で突出したズン氏でも60〜70トン。日本の輸入商社が普段扱うロットからすると、1軒と契約しても数量が埋まらない。

それでも産地として見る価値があるとすれば、根拠は種苗と技術の出所が一本化されていることだ。イエン氏やズン氏のような供給者からまとまった数の世帯が種苗を受け、同じ手順で育て、買い取りまで同じ相手に戻している。分散した小規模養殖から均質なロットを作るとき、最大の障害は数量ではなく手順の不揃いだが、この産地はその障害を種苗供給者が肩代わりしている。

実務に落とすと、当たるべき相手は槽を持つ末端の世帯ではなく、種苗を出して買い取りも握っている側になる。聞くべきは1回あたりの数量ではない。連携世帯が何戸で、そのうち何戸が同じ手順に乗っているのか。種苗の親個体をどこから引いているのか(ヴィンロン省から運んでいるなら産地は南部と繋がっている)。8〜10か月で1キロ4〜5尾という省内の出荷サイズの目安が、連携世帯でどこまで揃うのか。末端に聞いても答えは返ってこない。

この農場が加工へ向かおうとしている点も押さえたい。イエン氏は規模拡大と並行して、タウナギを使った加工品を研究し自社ブランドを立てる計画を持つとダンヴィエット紙は書いている。生鮮のタウナギは日本側の受け入れハードルが高く、商談の場は加工形態になる。この魚がどういう形で日本へ入っているかは別稿で整理した(土用の丑の蒲焼きとは別物、越産タウナギ輸出と無泥タンクの実像)。

増設が速すぎる産地で、買い取り連携が防波堤になり始めた

2026年のメコンの下落について、Tepbacは、価格が高かった時期に無泥養殖への転換が計画性なく進み、供給が需要を大きく超えたことを主因に挙げている。抱えきれない在庫の投げ売りがさらに値を押し下げた、という順序も同誌は書く。無泥槽は参入障壁が低い。低いということは、価格が良い局面では誰でも入れて、悪い局面では誰も逃げられないという意味でもある。

この文脈で、イエン氏やズン氏が種苗と技術に加えて買い取りまでセットで出していることの意味が変わる。種苗を出した相手の生産量は把握できるので、産地全体の供給を読んで種苗の出荷量を調整できる。末端の世帯から見れば、価格が崩れた局面でも引き取り手がいる。カントーで4,000トンが行き場を失ったのは、この機能を担う主体が産地になかったからだ、とも説明できる。

ハティンの単価が2年で3割下がってもメコンの3倍近くを保っている理由の一部が、この連携構造にあるかもしれない。ただし産地別の取引データは公表されておらず、連携の規模もズン氏の50世帯超以外に数字が出ていない。商談に入るなら、ここを最初に確認したい。

ハティン産タウナギに当たるときの確認事項

項目 内容
経営者・立地 ホアン・ティ・イエン氏(元・企業の経理担当)/ハティン省カムビン社
施設 コンポジット槽15基(1基5〜6平方メートル・約100平方メートル)+増設約200平方メートルにコンクリート槽15基・種苗槽20基
飼養尾数 商品用 約10万尾/種苗 約15万尾
出荷量・単価 年12〜15トン/1キロ10万〜12万ドン(約617〜741円)
利益 年間で数億ドン(1億ドン=約62万円)。幅は公表されていない
周辺世帯への提供 種苗 年間数十万尾、技術支援、買い取りによる連携
今後の計画 規模拡大と、タウナギ加工品の研究による自社ブランド化
省内の出荷サイズ目安 8〜10か月で1キロあたり4〜5尾(2024年9月・省農村新報)
連絡先・取引窓口 公表されていない

数値は報道時点のもので、単価は月単位で動く。商談の前に省内相場とメコン相場を両方押さえておくと、提示価格の妥当性を判断しやすい。

まとめ

ハティン省カムビン社の一農場を、年12〜15トンの生産者として見ると小さい。種苗を年数十万尾出し、技術を渡し、買い取りまで受ける供給者として見ると位置づけが変わる。2026年にメコンで4,000トンが滞留し原価割れで売られている一方、ハティンが1キロ10万ドン台を保っているのは、こうしたハブ的な担い手が産地に何人もいることと無関係ではないはずだ。

次の一手は、ハティン省内で種苗を出している経営を数社洗い出し、連携世帯数と手順の統一度、そして加工品の有無を聞き取ることだ。生鮮での対日輸出は障壁が高く、話が成立するとすれば加工形態になる。イエン氏のように自社ブランドの加工品を研究段階に置く経営は、いま接触を始めておく相手として理にかなう。

参照元:Dân ViệtBáo Hà TĩnhBáo Hà TĩnhNông thôn mới Hà TĩnhTepbacVOV

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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