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フンイエン省の農民が浮き草の裁断機を農機7系列30機種超に広げて年商300億ドン

10月12日夜、ハノイのベトソ友好労働文化宮で「ドイモイ40年の優秀ベトナム農民」96人が表彰された。その1人、フンイエン省ナムトゥイアイン社ヴォーホイドン村のグエン・ニュ・リン(Nguyễn Như Lĩnh、1964年生まれ)氏は、水田の浮き草を手で刈って刻み、手が裂けるような痛みを繰り返した経験から浮き草の裁断機を作り、いまは7系列・30機種を超える小型農機を国内とラオス・カンボジアに出している。Dân Việtは年商を推定約300億ドンと伝えた。本記事の円換算は1万ドン=約61円(2026年10月13日の仲値)を前提とし、300億ドンは約1億8,300万円にあたる。日本の輸入業者や食品メーカーにこの話が関係するのは、ベトナムの産地で原料を刻み、粉砕し、脱穀している機械の多くが、この価格帯の国産機だからだ。

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初号機は浮き草を潰し、作り直した2000年半ばの機械が1時間に200〜300kg刻んだ

リン氏は1983年に高校を出て入隊し、北部国境で従軍した。1986年に除隊して旧タイビン省タイトゥイ県トゥイタイン社に戻り、農業に就いた。機械や電気の正式な教育は受けていないとDân Việtは書いている。

設計の動機は作業そのものだった。約30年前、家畜と家禽の餌にするため水面の浮き草を刈り、手で刻む工程で手の皮膚がひどく荒れた。1999年から試作に入り、1年以上かけて最初の裁断機を仕上げている。最初に組んだ機械は1タ(1 tạ=100kg)近くあって浮き草を潰してしまい、分解して作り直した。小型化を重ねて2000年半ばに完成した機械は、1時間あたり2〜3タ、つまり200〜300kgを処理した。浮き草という水分の多い柔らかい材料を、刃を詰まらせずに連続投入できる形にしたのが最初の到達点だった。

2012年には根菜・果物の裁断機を加え、その後は草の裁断機、粉砕機、トウモロコシの脱粒機、バナナの幹を刻む機械、薬用植物の裁断機、落花生の脱莢機、わらの裁断機、水ポンプまで広がった。Dân Việtによると現在は主力7系列で30機種を超え、最も売れているのは野菜と浮き草を兼用で刻む裁断機だという。

2000年末に1,800万ドンで始めた工房が2004年には5,000平米の工場になった

2000年末、リン氏は1,800万ドン(約11万円)で最初の作業場を開いた。2004年に約2億ドン(約120万円)を投じて民営企業ディエンコー・ティエントゥアン(Doanh nghiệp tư nhân Điện cơ Thiên Thuận)を設立し、敷地は約5,000平方メートル。現在は既存工場の隣に約2万平方メートルの新工場を広げている段階で、常時雇用は約30人。生産設備にはロボット溶接アームとレーザー切断機が入っている。

価格帯は幅が広い。安い裁断機は100万ドン(約6,100円)未満、薬用植物の裁断機のように用途が限られる機種は1,000万ドン(約6.1万円)以上になる。浮き草裁断機は2006年にベトナム農業ゴールドブランド杯を受け、2012年には商工省の北部地域の代表的農村工業製品に選ばれた。2014〜2015年の全国科学技術創造コンクールでは根菜裁断機の発明で奨励賞、旧タイビン省内では2位。2018年に独学者を対象とする「ニャンタイ・ダットベト」賞、2020年に「農家の科学者」賞も受けている。

住所の表記も変わった。旧タイビン省タイトゥイ県トゥイタイン社は、省の再編を経て現在はフンイエン省ナムトゥイアイン社ヴォーホイドン村になる。認証書類に旧住所が残る取引先を照合するときは、省名が違うだけで別の相手に見える点に注意したい。

年商300億ドンと「毎年数十万台」は同じ年の数字として噛み合わない

Dân Việtは、同社が毎年、国内市場とラオス・カンボジアに小型農機を数十万台(hàng chục vạn máy)供給していると書いている。同じ記事は年商を、ある箇所で「数百億ドン規模」(hàng chục tỷ đồng)、別の箇所で「推定約300億ドン」(30 tỷ đồng)と書いている。300億ドンは数百億ドンの幅に収まるので、この2つは食い違っていない。

合わないのは台数のほうだ。年商300億ドンを、記事が挙げたいちばん安い価格帯である100万ドンで割っても、年3万台が上限になる。数十万台、つまり20万台以上を同じ年に出すなら平均単価は15万ドン(約900円)以下になり、記事自身が書く価格帯と矛盾する。台数は創業以来の累計か、刃や部品を含めた出荷点数と読むのが素直で、年産台数として引用するのは危ない。ベトナムの農機メーカーに引き合いを出すときは、台数の定義を「完成機の年産」で揃えてから聞くほうが早い。

規模感も押さえておきたい。今年の96人は、全国から上がった127件の推薦を選考委員会が4分野の基準で絞ったもので、名簿は10月8日に公表された。売上が最も大きいのはハイフォンで家禽の種の生産販売を手がけるファム・ヴァン・ルオン氏で、2024年に2,060億ドン(約12億6,000万円)。リン氏の300億ドンは96人の中で突出した数字ではなく、評価されたのは売上より、機械が30年近く農家の手元に残り続けた点にある。

国産が機械需要の3割しか埋められない市場で100万ドン未満の機械が売れている

リン氏の商売が成立する土台は、ベトナムの農機供給の構造そのものだ。ベトナム農業機械協会の常務副会長で事務総長のグエン・ゴック・ビン氏と、協同組合経済・農村開発局副局長のヴー・ヴァン・ティエン氏は、国内の生産能力が機械需要の約30%しか満たせず、農業部門の機械投資は実需の約60%にとどまると説明している(サイゴンタイムズ、2026年4月15日)。同じ記事では、2025年の中国からの農機輸入額が約4億5,100万ドルで前年比約36%増、中国製機器が輸入総量の約60〜70%を占めるとされる。

農業環境省の協同組合経済・農村開発総局で機電部長を務めるホー・フィ・トゥアン氏も、ベトナムの機械化が中国・日本・タイからの輸入機に大きく依存していると述べている(サイゴンタイムズ、2026年5月13日)。輸入機が7割超を押さえる市場で、国産の町工場が残れる場所は限られる。リン氏の機械は輸入品の半値程度で、しかも浮き草やバナナの幹、わらといった現地の材料に合わせて刃と投入口を作り替えている。壊れたときに同じ省内で直せることも含めて、価格と修理のしやすさで棚を取っている。

この層の機械が農家の採算に直結する例は、飼料をどう作るかで利益が決まる畜産に出ている。年商280億ドンでも手元に5%しか残らないホーチミン市の養豚農家のように、粗飼料や副産物をどこまで自前で刻んで混ぜられるかが収支を動かす場面では、6,000円台の裁断機が投資回収の計算に乗る。

乾燥野菜と香辛料を買う側は規格書より先に産地の刃を見る

日本の輸入業者や食品メーカーが受け取る影響は、はっきりしている。ベトナムの産地で一次加工に使われている機械の多くが、この100万ドン級から1,000万ドン級の国産機だということだ。カタログ上の処理能力は書いてあるが、刃の材質、研磨の頻度、投入部の構造は機種ごとに違う。刃の摩耗が進めば切り幅がばらつき、乾燥後の仕上がり水分がロット間で動く。炭素鋼の刃が主流の帯域では、欠けた刃先の混入をどこで止めるかが品質管理の実務になる。

だから規格書に「厚み何ミリ±何ミリ」と書き込む前に、産地が何で切っているかを見に行く価値がある。切り幅のばらつきを縮める手は、現場では刃の交換頻度、篩い分けの網目、金属検出のどれを強化するかに落ちる。原料を同じ品目でも複数の形状で買い分ける方法は、胡椒を6形態に割り分けるバウマイ協同組合の組み立てが具体的で、カット形状を産地側の工程として設計する発想が読み取れる。副産物を刻んで別の用途に売る動きも、稲わら1ロールを着火剤50箱に変える加工のように、わら裁断機のような機械が前提になっている。

薬用植物の裁断機が1,000万ドン以上で売れている点も見逃せない。ベトナム協同組合連盟会長のカオ・スアン・トゥー・ヴァン氏によると、ベトナムには約5,000種の薬用植物があり、そのうち500種が広く使われ、GACP-WHO基準を満たす栽培地域は60か所超・面積500ヘクタール超、国内で流通する薬用原料は年10万トン超、金額で約4億ドルとされる(2025年8月時点)。香草や薬用原料は乾燥前のカットで品位が決まる工程が多く、刃の仕様を確かめずに厚み指定だけを渡すと、受け入れ検査でロット差が出る。

ラオスとカンボジアへの出荷についてDân Việtは「供給」と書き、通関や輸出額には触れていない。工場を訪ねるなら、拡張中の2万平方メートルがいつ立ち上がるか、常時雇用30人のうち何人を溶接とレーザー切断に充てているかを聞くのが、年産台数の実態に近い。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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