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精米5工場を一度に起工、籾殻はイーレックスの発電燃料になる

2026年10月3日の午後、カントー市ドンヒエップ社(xã Đông Hiệp)で精米工場チェーンの起工式があった。施主はGreen CT社(Công ty Cổ phần Green CT)。5工場を並べる計画で、起工したドンヒエップ社の工場は精白米で日夜750トンの能力を持つ。注目したいのはそこから出る副産物のほうだ。フル稼働で日あたり約250トン出る籾殻を、日本のイーレックス(EREX)と組んでバイオマス発電の燃料に回す。日本の電力会社がベトナムの米の殻を燃料として確保しに来ている、という話である。

目次

精白米750トンに対して籾殻250トン、数字は噛み合っている

カントー市の地元紙Báo Cần Thơが伝えた内容は短い。Green CT社の精米チェーンは5工場。そのうちドンヒエップ社の工場が精白米で日夜750トン、フル稼働時の籾殻が約250トン。籾の買い取りから輸出用精米までを自社で持ち、精米後の籾殻をイーレックスとの協力でバイオマス発電の燃料にする。公表されたのはここまでで、総投資額も残り4工場の立地も能力も出ていない。

出ている2つの数字だけでも整合性は確かめられる。精米歩留まりを65%と置くと、精白米750トンを出すのに必要な籾は約1,154トン。籾殻は籾重量のおよそ2割なので約231トンとなり、発表の「約250トン」とほぼ重なる。歩留まりを少し下げれば250トンに届く。副産物の量を盛った数字ではない。なおこの歩留まりと籾殻比率は筆者が置いた一般値で、工場の公表値ではない。

起工式には市人民委員会の常任副主席レ・コン・リー氏(Lê Công Lý)が出席した。氏は事業が市の発展にとって実質的な意義を持つと評価したうえで、新しい生産の組み方が生まれること、米の価値をより引き出すこと、農家の収入を上げること、エネルギー用の原料を安定して供給することに期待すると述べている。市側がGreen CT社に求めたのは5点で、資源の確保、工期どおりで安全な施工、形だけでない原料地域の連携づくり、協力における透明性の約束の遵守、協同組合と農家と環境に対する責任の遂行だった。

イーレックスはすでに籾殻だけで動く発電所を同じ市で回している

イーレックス側の事実関係を、同社が自社サイトに載せている内容で押さえておく。ハウジャンバイオマス発電所は出力2万kW、運転開始は2025年4月、燃料はもみ殻。ベトナムで初の商用バイオマス発電所であり、同社の海外第1号でもある。この発電所が年に使う籾殻の量は約13万トンと報じられている。

所在地の書き方が変わっている点を見落とさないでほしい。イーレックスは発電所の立地を「旧ハウジャン省(現カントー市)」と記している。ハウジャン省は2025年7月1日にカントー市とソクチャン省と統合され、面積6,400.83平方キロメートル、人口400万人超の新しいカントー市になった。今回起工した精米工場も、籾殻を燃やす発電所も、同じ市の中にある。工場と発電所の物理的な距離が縮まったわけではないが、許認可や行政協議の相手が一つの市に収まったことにはなる。市の常任副主席が起工式に出てきて原料地域の連携を注文したのも、燃料の出口が同じ市内にあるからだと読める。

項目 内容
起工した案件 Green CT社の精米工場チェーン(5工場)+バイオマス燃料供給センター
起工日・場所 2026年10月3日/カントー市ドンヒエップ社
ドンヒエップ工場の能力 精白米 日夜750トン
同工場の籾殻発生量 フル稼働時 約250トン/日
ハウジャンバイオマス発電所 出力2万kW、2025年4月運転開始、燃料はもみ殻
同発電所の年間燃料使用量 籾殻 約13万トン(報道ベース)
イエンバイ/トゥエンクアン 各5万kW、燃料は木質残渣、2028年3月運転開始予定(建設中)
トゥエンクアンペレット工場 製造能力15万トン/年、2025年3月運転開始、原料は木材・木質残渣等
石炭火力での混焼 ナズオン発電所、カオガン発電所
新設計画 国家電源開発計画PDP8のバイオマス候補地16地点18件

この表を並べると、燃料の需給がどれくらい埋まるかが見える。日250トンを年300日で回せば7万5,000トン、365日なら9万1,250トンで、ハウジャン発電所が年に使う13万トンの6割から7割にあたる。これは起工した1工場だけの計算だ。残り4工場の能力も立地も公表されていないので、チェーン全体でどれだけ出るかは今の時点では計算できない。ただ、発電所を建てることより燃料を毎日同じ量だけ出し続けることのほうが難しい、という順序は変わらない。イーレックスが精米側と組む理由はここにある。

ベトナムで籾殻に値段がつくと、日本の籾殻の使い道と競合し始める

日本の農業・食品関係者にとって、この案件の読みどころは3つある。

1つめは、籾殻が「処理するもの」から「売るもの」に変わる速度だ。日本では籾殻はくん炭、育苗培土、畜舎の敷料、断熱材やシリカの原料として引き取られてきたが、量が出るわりに単価が低く、産地では処分費を払う例もある。ベトナムでは発電燃料という出口が1カ所で年13万トン規模で現れ、しかも固定価格買取制度で売る電気が裏にある。燃料として引き合いが立った副産物は、他の用途から奪われる側に回りやすい。ベトナム産の籾殻や籾殻由来の資材を買っている日本企業は、価格が動く可能性を織り込んでおいたほうがいい。

2つめは、精米工場の採算の見え方が変わることだ。副産物に固定的な売り先がある工場は、精米本体の利幅が薄くなっても操業を止めにくい。逆に言えば、籾の集荷を切らすと発電所への燃料供給も細るので、農家や協同組合との契約を実質的なものにする動機が働く。市がGreen CT社に「形だけでない原料地域の連携」を求めたのは、この構造を見ているからだろう。日本の米原料(米粉、米菓、包装米飯、飼料用)を現地で調達している側から見ると、副産物の出口を持つ工場は集荷が安定しやすい、という見方ができる。

3つめは、ベトナムの農業副産物に出口が次々できていることだ。すでに稲わらを1ロールから着火剤50箱に加工する事業者が動いているし、関西電力はヤシ殻10万ha規模でJCMの調査に入っている。米、稲わら、ヤシ殻と、これまで畑や工場の脇に積んでいたものに値段がつく局面が並行して進んでいる。日本側の関与が確認できているのは、イーレックスの籾殻と関西電力のヤシ殻の2件である。

JCMで動く案件は、燃料の素性を測って報告する義務が付いてくる

燃料として売られる副産物には、生果や原料と違う条件が付く。イーレックスはベトナム事業を、国家電源開発計画(PDP7・PDP8)と日本の二国間クレジット制度(JCM)の認定を基に展開していると書いている。JCMの設備補助事業は、温室効果ガスの排出削減効果を測定・報告・検証したうえでクレジットを発行する仕組みだ。排出削減を数字で示す以上、燃料がどこから来てどう運ばれたかは記録の対象になる。関西電力のヤシ殻の件でも、買い手が実際に見ていたのは量より台帳だった。

これは米そのものの取引にも返ってくる。籾の集荷先を帳簿で説明できる工場は、EUや日本向けの米の取引でも同じ記録を出せる。カントー市がGreen CT社に「透明性の約束の遵守」を条件として挙げたのは、精米と発電の両方に効く話だということだ。

物流の側も動いている。カントー港には中国発の定期便が入り、復路に米ぬか80コンテナを積む航路が立ち上がった。籾殻、米ぬか、稲わらと、米の副産物が別々の買い手に向かって動き始めている。精米工場は米を売る会社であると同時に、副産物を何方向かに振り分ける会社になりつつある。

照会するなら、聞く順番を決めておく

ベトナムの精米工場や米の原料を調達している日本側が、この動きを自分の仕入れに引き寄せるための確認項目を並べておく。

確認したいこと 誰に聞くか なぜ聞くか
籾殻の売り先が決まっているか 取引先の精米工場 副産物に出口があるかで操業の安定度が変わる
籾の集荷先を台帳で出せるか 同上 燃料と輸出の両方で素性の説明に使われる
精米歩留まりと籾殻の実発生量 同上 公表値と実績が合うかを確かめる
籾殻を培土・シリカ原料で買えるか 既存の籾殻サプライヤー 発電向けと競合して値が動く可能性がある
発電所向け供給契約の期間と量 工場または発電事業者 長期契約だと他用途に回る量が読める

なお、Green CT社の案件は起工したばかりで、稼働時期も総投資額も公表されていない。残り4工場がどこに建つかも分かっていない。契約の話を持ち込むには早い段階である。

まとめ

精白米750トンの工場から日に250トンの籾殻が出て、それが日本の電力会社の発電燃料になる。起工した1工場の年間発生量だけで、イーレックスがハウジャンで使う年13万トンの6割から7割に届く。この規模感を押さえておくと、ベトナムの籾殻がこれから「余るもの」ではなくなることが分かる。

今すぐできることは2つある。1つは、ベトナムから籾殻や籾殻由来の資材を買っている場合に、供給元へ発電向けの契約があるかを聞いておくこと。もう1つは、米の原料を調達している場合に、取引先の精米工場が副産物をどこに売っているかを確認することだ。副産物の売り先は、その工場が籾の集荷にどれだけ本気かを映している。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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