ダナン市フートゥアン社(旧クアンナム省ダイロック県)の丘陵地で、痩せた土地を捨てずに稼ぐ農家が増えている。パイナップルの間作に、タケネズミや鳩の特用畜産を重ね、一戸で年数億ドンを回す。仕入れ担当者や複合経営に関心のある生産者に向けて、この「条件不利地×多角化」の収益構造を分解し、日本の中山間地に何を持ち込めるかを読み解く。
もとになったのは、地元紙ダンヴィエット(2026年8月6日)が伝えたフートゥアン社の三戸の実例だ。共通するのは、平地の優良農地ではなく、乾いた丘や条件の悪い区画を舞台に選んでいる点にある。
フートゥアンの丘で起きた三つの転換
フートゥアン社は、旧ダイロック県のダイタン・ダイチャイン・ダイタインを含む四つの村が合併してできた行政区で、平地と丘陵の両方を抱える。合併で行政の器は大きくなったが、農民会長のレ・ティ・アイン氏は「合併は新しい発展の余地を開く一方、生産をより効率的に組み直すことを迫る」と語る。器の再編に、現場の作物・畜種の組み替えが並走した格好だ。
タインタン村のグエン・クアン・ヴィン氏は、収益性の低かった畑を果樹園に切り替えた先駆けの一人だ。多年生の果樹が実をつけるまでの数年間、収入の空白を埋めるためにパイナップルを間作している。「この一帯は土が痩せ、気候も乾く。それがパイナップルにはよく合う」。サトウキビと同じで、痩せた土で育てたパイナップルはかえって甘い、というのが本人の読みだ。1シーズンのパイナップルで7,000〜8,000万ドンを手にする。
畑からそう遠くないタインフー村では、トー・ヴァン・ビン氏がタケネズミの養殖に踏み込んだ。当時としては珍しい家畜で、青年団・社会政策銀行・農民支援基金の資金を後ろ盾に投資した。いま常時300〜500匹を飼い、餌は地元の竹・草・サトウキビ・トウモロコシで賄う。同じタインフー村のグエン・ヴァン・ライ氏は、2013年からフランス交雑種の鳩を閉鎖式で育て、約200平方メートルに約2,400羽を回している。
痩せ地をあえて選ぶという逆説
三戸に通じるのは、優良地との競合を避け、条件の悪い土地の性質を逆手に取る発想だ。乾いた痩せ地はコメや葉物には向かないが、糖度が乗るパイナップルや、屋内で育てる特用畜産にとっては不利にならない。土地の弱点を作物・畜種の側で吸収してしまえば、地代や造成の負担が軽い区画をそのまま収益源に変えられる。
特用畜産を選ぶ理由もはっきりしている。タケネズミは餌代が安く、竹や草といった土地にある資源で足りる。鳩は狭い面積に高密度で収容でき、200平方メートルで2,400羽が成り立つ。広い優良農地を持たない農家ほど、面積あたりの粗利が高い畜種に寄せる合理性がある。ドンナイ省でエサ代1日12円のヤマアラシで年純益300万円を叩き出す農家と、発想の骨格は重なる。
三つのモデルの収益構造を分解する
数字を並べると、それぞれの稼ぎ方の違いが見える。パイナップルは肥料をほぼ使わず、除草と灌水の労力が主なコストになる。タケネズミは年商に対して餌代が1割で収まる低コスト型だ。鳩は羽数×単価で売上が積み上がる回転型で、月ごとに現金が入る。
| モデル | 担い手・場所 | 規模 | 稼ぎ(ドン) | 円換算(概算) |
|---|---|---|---|---|
| パイナップル間作 | グエン・クアン・ヴィン氏/タインタン村 | 痩せた丘陵地 | 1シーズン7,000〜8,000万ドン | 約41〜47万円 |
| タケネズミ養殖 | トー・ヴァン・ビン氏/タインフー村 | 常時300〜500匹 | 年商1.2〜1.5億ドン(餌代約1,500万ドン) | 年商約71〜88万円(餌代約8.8万円) |
| フランス交雑鳩 | グエン・ヴァン・ライ氏/タインフー村 | 約2,400羽・200㎡ | 純益年2億ドン超(月1,000〜1,100羽・1羽5万5,000ドン) | 純益約118万円超(1羽約320円) |
為替は1円≒170ドン、1ドル≒150円で計算した概算。数値はダンヴィエット2026年8月6日の記事に基づく。
鳩の売上を分解すると、月1,000〜1,100羽を1羽5万5,000ドンで出荷し、月商はおよそ5,500〜6,000万ドンになる。年商換算で6.6〜7.3億ドン、そこから餌や設備を引いて純益が年2億ドン超という配分だ。粗利率ではタケネズミが際立つが、鳩は毎月現金が入る点で経営を安定させる。性格の異なる収入を一つの経営に同居させているのが、この村の強みになっている。
複合経営がリスクを分散する仕組み
ヴィン氏のパイナップルは、果樹が育つまでの「つなぎ」として組み込まれている。単作なら果樹の初期投資が丸ごと重荷になるところを、間作の現金収入が支える。畜産側も、餌が安く回転の速いタケネズミと、月次で売れる鳩を組み合わせれば、飼料相場や病害で片方が崩れてももう片方が残る。作物と畜産、長期と短期を編み込むことで、単一品目に賭けるより下振れが浅くなる。
もう一つの鍵は、支援制度と地域の担い手が絡んでいる点だ。ビン氏は青年団や政策金融の資金で立ち上げ、いまは畜産協同組合のグループ長として技術指導と出口づくりを担い、周囲にタケネズミの集約産地を広げつつある。個人の成功を村の面へ拡張する回路が働いている。低収益の水田を蓮と観光に切り替えた同じダナンのダイアン地区の産地づくりも、行政・組織・住民が噛み合って動いた例だ。
日本の中山間地・複合経営への示唆
耕作条件の悪い斜面や小区画を多く抱えるという点で、フートゥアンの丘は日本の中山間地と地理の悩みが近い。平地の大規模化で勝負しにくい土地こそ、痩せ地の性質を活かす作物と、面積あたりの粗利が高い畜種の組み合わせが効く。ここには三つの持ち帰りがある。
- 弱点を前提に品目を選ぶ:乾く・痩せる・狭いを欠点として矯正するのではなく、糖度が乗る果実や屋内型の畜産に振り向ける。
- 長短の収入を同居させる:初期投資の重い本命(果樹・多年生作物)を、回転の速い間作や畜産の現金で支える。
- 個から面へ広げる担い手を置く:技術指導と販路を束ねるグループ長のような役割が、点の成功を産地に変える。
特用畜種の選び方も日本と接続する。国境の痩せ地からスイートコーンを企業が全量買い取る事例のように、土地の制約を逆手に取り、買い手を先に決めてから作る設計は、獣害や高齢化で守勢に回りがちな日本の産地にも移植できる。
調達・連携で見るべき実務ポイント
この種の複合産地を取引相手として見るとき、押さえたい点は次の通りだ。
- 供給の安定性:タケネズミや鳩は生体出荷が中心で、加工・冷蔵の体制が薄い。日本向けに動かすなら加工と物流の設計が前提になる。
- ロットと季節:パイナップルはシーズン集中、鳩は月次と、品目で供給リズムが違う。年間を通した引き取りには複数品目の束ね方が要る。
- 制度資金の背景:政策金融や基金が立ち上げを支えている産地は、行政や組合が窓口になりやすい。個別農家より組織を入口にする方が話が早い。
- 産地の一体感:合併後の社として、伝統のライスペーパー(バインチャン)づくりを核に量販店流通を狙う方針も出ている。産地ブランドとして束ねる余地が残る。
痩せ地の使い方が、産地の実力を分ける
フートゥアンの三戸が示したのは、良い土地がないから稼げない、という前提が崩れる現場だった。痩せた丘がパイナップルの甘さを生み、狭い区画に鳩を高密度で収め、安い餌でタケネズミの粗利を確保する。品目の選び方と長短の組み合わせ次第で、条件不利地は収益源に化ける。日本側の一手は、こうした産地を単品の仕入れ先として値踏みするのではなく、複合経営ごと調達設計に取り込み、加工と物流の欠けたピースを補って年間の供給に組み替えることにある。次に訪ねるべきは、優良農地ではなく、誰も欲しがらなかった斜面かもしれない。