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稲と魚と巻貝で年432万円、クアンチ13ha農園は調達先になるか

ベトナム中部クアンチ省ドンソン坊で、約13haの農園がST25米と魚、食用の巻貝、ココヤシ、牛を一枚の土地に載せ、全経費を引いた後に年7億ドン超(1円=約162VNDで約432万円)を残している。経営するのは1988年に除隊し、そこから12年間職を転々とした元兵士ダン・ヴァン・ルアン氏で、ダンヴィエトが2026年7月27日に伝えた。単収でも輸出額でもなく、常雇15名・季節雇約30名という雇用の厚みで回っているところに、この農園の設計が出ている。ベトナム中部の産地を候補に入れる日本の食品バイヤーが、この一枚の土地から何を読み取れるのかを分解する。

目次

13haに五つの収入源、ダンヴィエトが伝えた農園の中身

記事が描くのは複合経営の農園だ。約13haのうち5ha前後でST25という香り米を有機の作り方で栽培し、同じ水面で魚と食用の巻貝を育てる。田と池の周囲には約1,000本のココヤシと果樹が植わり、家畜の飼養も続いている。土地を1品目に絞らず、水面・その縁・外側の三層で収入源を分けた構造になっている。

全経費を差し引いた後の利益が年7億ドンを超える、というのが見出しになった数字だ。ここに常雇15名と季節雇約30名が乗り、賃金は1人あたり月700万〜800万ドン(約4.3万〜4.9万円)と明記されている。農園は現在、農産物の品質向上への投資と販路連携の拡大を進め、商品を広めるためのデジタル活用にも段階的に手をつけている、と記事は説明している。

公益地8haを手で掘った20年、2019年に設計が入れ替わった

ルアン氏は陸軍の兵士として北部国境の戦闘に加わり、1988年に故郷へ戻った。本人は当時をこう振り返る。「私は陸軍の兵士で、祖国を守るため北部国境の戦争に加わった。1988年に故郷へ帰ってからは、生きるためにあらゆる仕事をした。あの頃は本当に苦しかった」。転機は2000年で、公益地約8haを借りて農園経営に踏み出す。人を雇う資金がなく、家族とともに池を掘り、畦を築き、土地を一区画ずつ直していった。

「土地を借りられた最初の日々は今でもはっきり覚えている。すべて手作業で、農園が約15,000平方メートルの養殖池と牛の放牧区という形になるまで何年もかかった」と本人は語っている。利益が出るたびに全額を再投資へ回し、面積は13ha近くまで広がった。資金と経験の不足で何度も失敗し、妻の体調も優れなかったが、他の成功事例から学びながら続けたと記事は書いている。

作目の設計が入れ替わったのは2019年だ。この年に有機の稲作と水産養殖の組み合わせへ舵を切り、いまの形になった。約20年かけて土地そのものを作り、その上で作目を載せ替えたという順番が、この農園を読むときの起点になる。

数字を円に直すと、7億ドンの正体が変わる

原記事に出てくる数値を、1円=約162VND(2026年7月時点)で並べ直す。金額と人数はすべてダンヴィエトの記載に基づき、円換算のみ本稿で計算した。

項目 原記事の数値 円換算(1円=約162VND)
年間純利益(全経費控除後) 7億ドン超 約432万円超
農園面積 約13ha(2000年の借入時は約8ha)
有機稲作+水産の面積 約5ha
初期に手掘りした養殖池 約15,000㎡
ココヤシ 約1,000本
常時雇用 15名
季節雇用 約30名
賃金 月700万〜800万ドン/人 約4.3万〜4.9万円/月
常雇15名の年間賃金(本稿の単純計算) 約12.6億〜14.4億ドン 約778万〜889万円

並べて目につくのは、常雇15名分の賃金だけで年間の純利益を上回るという一点だ。単純計算で778万〜889万円が賃金として地域に落ち、経営者の手元に残るのが432万円強。この農園は取り分を最大化する設計ではなく、常雇と季節雇を合わせて45人規模の仕事を回しながら経営者の収入を確保する設計になっている。日本側が価格を詰めるとき、この構造は値下げ余地の下限を見積もる材料になる。

本人・農民会・紙面、三つの評価が同じ方向を向く

ルアン氏自身は、失敗の扱い方を経営の軸として語っている。「やり方を変えなければ、いつまでも貧しいままだと私はずっと考えてきた。小さくない損失を出したこともあるが、それを教訓にして続けた」。資金も経験も足りない状態から始めた人物の言葉として、記事はこれを転機の説明に使っている。

本人のもう一つの立場が、技術の外部提供だ。記事によれば、彼は地域の内外を問わず農民会の会員に生産技術を指導している。成功は経済的な成果だけで測るものではなく、多くの農民が同じ土地で生産を伸ばし収入を上げることにもある、というのが本人の考えだと記事は書く。

行政側の評価も出ている。ドンソン坊農民会のホアン・ティ・トゥイ・ハン会長は、ルアン氏を優良生産・経営農民運動の代表例と位置づけたうえでこう述べた。「長年にわたり、ルアン氏は農民会と省人民委員会から表彰状を受け、優良生産・経営農民の称号を得てきた。今後も農民会は、会員が学べるようこのモデルの普及を続け、地元農民の生産効率と収入の向上につなげたい」。

三つ目は、紙面の扱い方そのものだ。ダンヴィエトは中見出しに「あれこれ植え、ごちゃまぜに飼う」という口語表現を当て、関連記事欄にも同じ型の農家を並べた。単品特化ではない経営が、ベトナムの農業紙面で一つの類型として通用している状況が透けて見える。

日本の調達がこの農園に投げるべき三つの質問

買えるのは米ではなく、同じ水面から出る魚と巻貝かもしれない

ST25は長粒の香り米で、The Rice Trader主催のWorld’s Best Riceで2019年と2023年の2度、1位に選ばれた品種として知られる。育成したのはソクチャン省のホー・クアン・クア氏らのグループだ。ただし日本の主食用市場が求める短粒種とは別の商品で、5ha前後の作付面積では日本向けの米調達の枠に乗りにくい。一方、同じ田と池から上がる魚と食用巻貝は受け皿がまだ空いている。ベトナム産の巻貝が輸出商材として実際に動いた例はすでにあり(法学部卒が巻貝で日商118万円、薬草仕立ての貝を韓国へ)、水面と餌の一部を稲作と共有する分、原価の組み立ても米とは違う。問い合わせの入口を米に固定すると、この農園の使いどころを取り逃がす。

「有機」という言葉は、書類に置き換わるまで値段にならない

原記事はルアン氏の稲作を有機と書いているが、認証機関の名前も規格名も出てこない。日本国内で「有機」と表示するには有機JASの格付が必要になる。日本政府が同等性を認めた国で生産された有機農産物は、その国の政府機関等が発行する証明書を添えれば有機JASマークを貼れるが、同等性が認められている国にベトナムは含まれていない。つまり現地の生産者が、農林水産省に登録された登録外国認定機関、または海外で認定を行う日本の登録認定機関に申請して有機JASの認証を受けるのが実務上の道筋になる。商談の一問目は価格ではなく、認証の有無と対象となる圃場の範囲だ。ここを詰めずに「有機だから高い」という前提で見積もりを進めると、日本国内の表示段階で言葉を落とすことになる。

単独の供給元ではなく、束ね役として見る

5ha前後の稲作と、それに付随する養殖池が生む量では、コンテナ単位の継続供給には届かない。ここで効いてくるのが、ルアン氏が地域内外の農民に技術を教えているという事実と、農民会がこのモデルを広げる方針を示している点だ。日本側から見た価値は、この農園そのものよりも、同じ作り方をする周辺農家を束ねられる核が地域に立っていることのほうにある。ドンナイ省の退役軍人が営む循環型農園でも似た構図が出ており(隻手の傷痍軍人が育てる矮性ヤシ、ドンナイ循環農園は調達候補になるか)、個人の成功が産地化の起点になるかどうかで、調達側の見積もりは変わる。

省が合併した年、産地の住所が書き換わった

2025年7月1日、クアンビン省とクアンチ省が統合され、新しいクアンチ省になった。行政の中心はドンホイに置かれている。ルアン氏の農園がある「クアンチ省ドンソン坊」は、旧クアンビン省ドンホイ市の域内にあたる。ダンヴィエトの見出しが「クアンビン省の、いまはクアンチ省の一人の農民」というまだるっこしい表現になっているのも、この合併があったからだ。

この書き換えは調達実務に直接跳ね返る。過去に交わした原産地証明、栽培地の登録情報、名刺やカタログの住所表記が、現行の行政区画と一致しなくなる。ベトナム側は産地コードやQRによる追跡の整備を進めており(ドリアンをQRで追う越の全国制度、日本の産地確認はこう変わる)、旧住所のまま残った書類は照合の手間として戻ってくる。加えて中部の産地はメコンデルタや紅河デルタに比べ日本語での情報が薄く、住所を見ただけでは位置関係を掴めない場面が増えている。合併から1年が過ぎたいま、既存の取引先ぶんも含めて住所表記を洗い替えるだけの理由はある。

商談前に押さえておく基礎情報

項目 内容
所在地 クアンチ省ドンソン坊(旧クアンビン省ドンホイ市域)
経営形態 個人農家(ダン・ヴァン・ルアン氏)
面積 約13ha(うち有機稲作+水産が約5ha)
主な産品 ST25米、魚、食用巻貝、ココヤシ(約1,000本)、果樹、家畜
認証 原記事に記載なし。有機JASを含む第三者認証の言及は確認できない
雇用 常雇15名/季節雇約30名、月700万〜800万ドン(約4.3万〜4.9万円)
公的な接点 ドンソン坊農民会(会長:ホアン・ティ・トゥイ・ハン氏)
行政区画 2025年7月1日にクアンビン省と統合、新クアンチ省。中心はドンホイ
出典 ダンヴィエト(記者:チャン・アイン)2026年7月27日付

この表にない項目、たとえば年間の出荷可能量、選別・一次加工の設備、輸出実績、契約の最小単位は原記事に出てこない。問い合わせの初回でここを埋めないと、産地としての評価が進まない。

まとめ

ルアン氏の農園から取り出せるのは、13haという面積でも7億ドンという利益でもなく、20年かけて土地を作ってから作目を載せ替えた順番と、利益を上回る賃金を回している構造のほうだ。中部の内陸に、記録が残り、地元農民会が窓口として名前を出している生産者がいる。この2点だけでも、日本語の情報が薄いこの地域では入口として使える。

次に動かすなら、以下の順で手をつけると空振りが減る。

  • ドンソン坊農民会に、同じ作り方をしている農家が地域に何戸あるかを照会する
  • 認証の有無と、取得するとしたらどの規格を狙うかを最初の往復で確定させる
  • 米ではなく魚と食用巻貝で数量と単価の見積もりを取り、稲作は副次的な材料として扱う
  • 既存のベトナム中部取引先も含め、住所表記を合併後の行政区画に洗い替える

単品を大量に出す産地とは別のルートが、複合経営の農園の側に開いている。量が足りないという理由で候補から外す前に、束ねられる核かどうかを一度確かめておきたい。

参照元:Dân ViệtBáo Pháp Luật Việt NamNhân Dânジェトロ

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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