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元党書記がボア種ヤギで再起、自家飼料で年200頭を回す稼ぎ方

ベトナム北部トゥエンクアン省ソンズオン県フールオン社で、元党委書記のライ・テ・トゥエン氏(1966年生まれ)が、定年を待たずに退職してヤギ舎の主になった。2025年、行政機構の再編に伴う早期退職制度(政令178号)を使って役職を離れ、南アフリカ原産のボア種を軸にした肉ヤギ養殖へ転じた人物だ。肥育と繁殖を合わせて常時50頭以上を回し、年に200頭超を出荷して、税・経費を差し引いた手取りで年1億ドン(約60万円、1万VND≒60円で換算)を超える。役人からヤギ飼いへという転身譚は、電気工がカエル養殖で再起したゲアン省の小規模畜産と同じく、山間部で小さく始める畜産設計の実物見本になっている。日本の食肉バイヤーにとっては、ベトナムのヤギ肉供給がどんな担い手から生まれているかを知る手がかりになる話だ。

目次

元党書記が退職金でなくヤギ舎を選んだ

トゥエン氏はフールオン社の党委書記を務めた地元の顔役だった。2025年、機構再編の対象となった幹部に早期退職と一時金を認める政令178号が施行され、氏はこれに応じて職を退いている。退いた先に選んだのが、庭先の斜面を使ったヤギ養殖だった。

報道によると、氏はボア種と在来種を組み合わせ、肥育用の30〜40頭と繁殖用の雌ヤギ約10頭を柱に群れを構成する。餌やりから出荷までの肥育期間は1頭あたり2〜3か月と短く、年に4回の出荷サイクルを回して200頭超を売り切る。要職を離れた人物が、退職後の生計を補助金頼みにせず、回転の速い畜産で自立してみせた点が地元で話題になった。

なぜボア種か——肉ヤギに選ばれる理由

ボア種は南アフリカ原産の肉用ヤギで、ベトナムでも肉質と増体の良さから肥育向けに広がってきた品種だ。畜産専門メディアの解説によれば、生後6〜8か月で体重40〜50kgに達し、枝肉歩留まりは52%を超える。肉は締まって柔らかく、脂の少ない赤身が多いのが特徴とされる。

飼育のしやすさもボア種が選ばれる理由になっている。草や木の葉、いも類など身近な植物で育ち、環境適応力と病気への抵抗力が高い。ベトナムでは純粋種のほか、在来のバックタオ種と掛け合わせた肉用交雑種も普及しており、トゥエン氏の「ボア種+在来種」という組み合わせは、増体の速さと土地への強さを両取りする定番の設計だ。

数字で見る「回転飼育」の中身

トゥエン氏の養殖を数字で並べると、規模の小ささと回転の速さが同居していることが見えてくる。

項目 内容
飼育構成 肥育用30〜40頭+繁殖雌ヤギ約10頭(常時50頭以上)
肥育期間 1頭あたり2〜3か月
年間出荷 年4サイクルで200頭超
食肉用の出荷価格(生体) 1kgあたり18万〜20万ドン(約1,080〜1,200円)
種ヤギ価格(生体) 1kgあたり20万〜25万ドン(約1,200〜1,500円)
年間手取り 1億ドン超(約60万円、税・経費控除後)
飼料畑 約3サオ(約0.3ヘクタール)

肝は飼料を買わずに自前で賄う点にある。青刈りトウモロコシ、バナナ、アカシアの葉、在来の木の葉などを1,000平方メートルほどの畑で育て、購入飼料への依存を抑えている。餌代が固定費として重くのしかからないため、2〜3か月で仕上げて売るという短サイクルが、そのまま手取りに直結する構造だ。

ヤギ肉需要と、産地から食卓までの流通

この稼ぎ方を支えているのが、国内のヤギ肉需要だ。ベトナムではヤギ鍋(ラウ・ゼー)をはじめ外食でのヤギ肉消費が伸び、生体のまま買い付ける商人が飼育農家を回る。畜産バリューチェーンの調査からは、外食店の仕入れ構造が浮かび上がる。

  • 飲食店が扱うヤギの供給源は、国内養殖が78.5%、ラオスからの生体輸入が20.7%、その他が0.8%。国産が主役だが、生体輸入も2割を占める
  • 飲食店の仕入れ先は仲買人経由が67.2%で最多、農家からの直接調達が19.6%、食肉処理場が13.2%。多くの店が仲買人に主導権を握られている
  • 不足分はオーストラリア、アルゼンチン、ニュージーランドからの冷凍ヤギ肉輸入で補われている

仲買人依存という構図は畜産全般に共通する課題で、飼料大手が豚のオンライン取引で仲買人依存を崩そうとしている動きとも重なる。トゥエン氏のように農家が飲食店や種ヤギ需要と直接つながれば、農家側の取り分は大きくなる。

日本の調達・農業関係者が読み取るべき点

この事例から、日本の食肉・農産物バイヤーが持ち帰れる論点は3つある。

第一に、自家飼料による低コストの回転肥育という産地化モデルだ。山間部の斜面で飼料作物を育て、買い餌をほぼ使わずに2〜3か月で仕上げる。土地と労力はかかるが原料費が軽く、相場変動に強い。ベトナムの山地畜産がどんな原価構造で回っているかを把握しておけば、生体・冷凍のヤギ肉を仕入れる際の価格交渉の土台になる。

第二に、外食需要という出口の太さだ。ヤギ肉は鍋料理を中心に国内消費が安定し、国産だけでは足りず生体・冷凍の輸入で補われている。裏を返せば供給が需要に追いついていない品目であり、産地化が進めば輸出余力も生まれる。日本側にとっては、主要な輸入元がまだ豪州・NZ・アルゼンチンに偏るなかで、ベトナム産という選択肢が育ちつつある段階だと押さえておきたい。

第三に、担い手の質の変化だ。今回の主役は行政の要職を務めた人物で、制度や資金の使い方に明るい。早期退職の一時金と地縁を元手に、補助金頼みでない事業を短期間で立ち上げた。ベトナムの畜産の担い手は、素朴な小農だけでなく、こうした経営感覚を持つ層へ広がっている。産地の交渉相手として侮れない書き手が増えている、という現実がここにある。

事例の基本情報

項目 内容
生産者 ライ・テ・トゥエン氏(1966年生まれ、元フールオン社党委書記)
所在地 トゥエンクアン省ソンズオン県フールオン社タイソン集落
主な品種 ボア種+在来種
飼育規模 常時50頭以上(肥育30〜40+繁殖雌約10)
年間出荷 200頭超(年4サイクル)
年間手取り 1億ドン超(約60万円)
転身の契機 2025年、政令178号による早期退職

まとめ——ヤギ肉「産地化」の芽をどう追うか

元党委書記が退職後に選んだのは、身近な草木を飼料に変え、2〜3か月で仕上げるヤギの回転飼育だった。小さな群れでも、自家飼料と外食需要という二つの条件がそろえば、年1億ドン超の手取りが成り立つ。ここから日本の関係者が追うべきは3点だ。まず、ヤギ肉の国内消費と生体・冷凍輸入の比率が今後どう動くか。次に、トゥエンクアン省のような山間部で、こうした小規模モデルが集落単位のまとまった供給へ育つかどうか。そして、ベトナムのヤギ・羊がハラール市場を狙ってカインホア省で国内最大級の畜産へ動き出した流れと、この北部の草の根がいずれつながるかだ。まずは取引のある産地商社に、ヤギの生体相場と出荷サイクルを一度確かめてみてほしい。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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