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メロンに卵を飲ませる男——木工職人が挑むバクニンの発酵鶏卵栽培

ベトナム北部バクニン省で、メロンに発酵させた鶏卵を「飲ませて」育てる農家が完売続きだと、現地紙ダンベト(Dân Việt)が2026年7月5日に報じました。主人公は、約10年間ノミとカンナを握った木工職人から転身したヴー・チー・ドゥック氏。日本基準をうたうネットメロンを、発酵鶏卵液の点滴灌漑という独自手法で育てています。ベトナム産メロンの品質向上を測る定点として、また異業種からの農業参入がどこまで通用するかの実例として、日本の食品バイヤーや農業関係者が押さえておきたい一件です。

目次

ノミを置いて4年、11,000平方メートルの「卵メロン」農園ができるまで

ドゥック氏の農園は、バクニン省タンアン坊ホンソン地区にあります。2012年から10年近く木工業を営んでいましたが、家具市場の競争が激しくなる一方で、クリーン農産物とハイテク農業への需要が伸びていることに目を付け、転身を決めました。

2022年に最初のネットハウス7,000平方メートルを建て、2025年にはさらに4,000平方メートルを増設。現在は3棟・合計11,000平方メートル超の施設で栽培しています。柱となる品目は、日本基準をうたうオレンジ肉・緑肉のネットメロンで、ほかにキュウリ、輸入高級品種の「イチバ」や黄皮のハミウリ系メロンも手掛けます。収量は1,000平方メートルあたり1作で3〜5トン。販路はスーパーとクリーン農産物専門店が中心で、一部は海外にも出ており、収穫期には「チャイハン(完売)」状態が続くと報じられています。

項目 内容(報道ベース)
経営者 ヴー・チー・ドゥック氏(元木工職人)
所在地 バクニン省タンアン坊ホンソン地区
木工業の期間 2012年から約10年
施設 2022年に7,000平方メートル、2025年に4,000平方メートル増設(計3棟・11,000平方メートル超)
主要品目 ネットメロン(オレンジ肉・緑肉)、イチバ、ハミウリ系、キュウリ
収量 1,000平方メートルあたり1作3〜5トン
販路 スーパー、クリーン農産物店、一部輸出

発酵鶏卵の点滴灌漑——「有機」と「精密」を一本のチューブで両立させる

この農園の看板技術が、発酵させた鶏卵を養液として点滴灌漑に流し込む手法です。ドゥック氏は、鶏卵にはメロンの生育に必要なタンパク質やアミノ酸、カルシウムなどの養分が含まれていると説明し、微生物資材と組み合わせて樹を健全に育てることで、糖度が高く外観と品質のそろった果実になり、病害虫も抑えられると語っています(いずれも本人の説明で、配合レシピや施用量は記事では明かされていません)。

興味深いのは、「発酵動物性資材」という伝統的な有機農業の発想と、点滴灌漑・スマート機器による環境制御という精密農業の道具立てを、ためらいなく同居させている点です。日本でも魚かすや骨粉を液肥化して果菜類に使う生産者はいますが、詰まりやすい有機質液肥を点滴チューブで安定運用するには、発酵管理とろ過の技術が要ります。ハウス3棟をこの方式で回し続けていること自体が、一定の運用ノウハウの証拠と読めます。

本人の言葉に見る、転身の設計図

記事中のドゥック氏の言葉には、異業種参入者ならではの緊張感がにじみます。

  • 「木工から農業への転身は、非常に難しい決断だった」
  • 「勤勉なだけでは足りない。今の時代の農家は、新しい知識を学び続けなければならない」
  • 「国や農民会の支援が、私たちの負担を軽くしてくれた」
  • 「デジタルプラットフォーム上での商品PRを、もっと支援してほしい」

職人時代に品質で顧客をつかんだ経験を、そのまま農業に持ち込んだ格好です。畜産や先進的な農業モデルを調べるところから独学で始めたという経緯も記事は伝えており、行政と農民会の支援制度を使い倒しながら、次はデジタル販促という具体的な要望まで口にしている点に、経営者としての現在地が表れています。

日本の高糖度メロン戦略が「移植」され始めている

日本の読者にとってこのニュースの核心は、「日本基準」を掲げるメロンが、独自の物語付きでベトナム国内市場に定着しつつあることです。示唆は三つあります。

第一に、付加価値戦略の型が新興国に移っている点です。高糖度・外観均一・贈答適性という日本メロンの価値基準を目標に置き、そこへ「卵で育てた」という誰にでも伝わる技術の物語を重ねる。静岡の一茎一果栽培が長年やってきたブランディングの文法を、ベトナムの個人農家が自前の資材で再現し始めたと見るべきです。同じベトナムではハティン省の「韓国メロン」農家が500平方メートル単位の高回転経営を築いており、メロンという品目がベトナム各地で「小面積・高付加価値」の受け皿になりつつあります。

第二に、異業種転身組が施設園芸の担い手として層を成してきた点です。当サイトでは電気工からカエル養殖に転じたゲアン省の事例も取り上げましたが、共通するのは「前職で培った段取り力と設備感覚を、初期投資の大きい集約型農業に振り向ける」という型です。ベトナムの産地形成が、世襲農家の拡大ではなく参入者の設備投資で進んでいることは、現地パートナーを探す日本企業にとって、提携候補のプロファイルが変わることを意味します。

第三に、調達の現実です。この農園は国内スーパー向けで完売が続いており、対日輸出の玉が今すぐ出てくる状況ではありません。ただし品種構成が日本市場に親和的で、輸出拡大とOCOP(一村一品)ブランド化を明言している以上、数年後の候補産地リストには載せておく価値があります。一方で、発酵鶏卵という資材は輸出時の残留・衛生基準の説明責任を問われる可能性があり、商談時には施用方法の開示を求めるべきでしょう。

北部施設園芸の広がりと、バクニンという立地

バクニン省はサムスンの拠点で知られる北部有数の工業地帯で、農業には都市近郊型の高付加価値路線しか残されていません。ハウス栽培への集中は必然で、北部ではフート省のドラゴンフルーツがスマート化で単価4倍を実現した事例もあり、施設園芸×スマート管理×物語性という組み合わせが北部の勝ち筋として固まりつつあります。工業賃金と競争しながら人を雇う地域だけに、点滴灌漑と環境制御で省力化する方向は今後も強まるはずです。OCOP認定を取れば省の観光・流通支援にも乗るため、ドゥック氏の農園が北部メロンの旗艦になる可能性は十分あります。

実用情報とまとめ——「卵メロン」をどう追うか

項目 内容
産地 ベトナム・バクニン省タンアン坊(ハノイ中心部から東へ車で約1時間圏の工業省)
品目 ネットメロン、イチバ、ハミウリ系、キュウリ
現状の仕向け先 国内スーパー・専門店中心、一部輸出
今後の動き 規模拡大、輸出比率引き上げ、OCOPブランド化を計画
確認すべき点 発酵鶏卵資材の施用実態、認証取得状況、輸出実績の有無

木工職人が10年の技を捨てて4年で築いた「卵メロン」農園は、ベトナム施設園芸の成熟度を測る良いサンプルです。青果バイヤーであれば、バクニン省のOCOP認定情報とこの農園の輸出動向を半年単位でウォッチする。農業関係者であれば、有機質液肥の点滴運用という技術課題を自園で検証してみる。どちらの立場でも、「新興国のメロンはまだ先」という前提を一度外して現地を見る時期に来ています。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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