タイ系大手CPグループのベトナム法人CPベトナムが、エビ養殖の中心地カマウ省で水産飼料の新工場を稼働させた。2026年8月7日に竣工した同工場は年産12万4,800トンの設計能力を持ち、国内4カ所目の水産飼料拠点となる。エビ飼料の生産が主力産地の近くに来る意味は小さくない。日本はベトナム産エビの主要な買い手であり、原料である飼料がどこで作られるかは、価格だけでなく品質や履歴の追いやすさにも関わる。産地の中で飼料が増える意味を、日本の調達の視点で確かめたい。
カマウのカーニャン工業団地に4カ所目の飼料工場
新工場はカマウ省カーニャン(Khánh An)工業団地に立地し、敷地は約18ヘクタール。エビ用飼料を主力に、CPが展開するBlanca、Hi-Po、Hi-Groなどのブランドを生産する。CPベトナムにとってベトナム国内で4番目の水産飼料工場で、これによりグループの国内水産飼料能力は年65万トンを超える規模に達したと業界メディアが伝えている。
総投資額は1兆7,250億ドン(約6,620万米ドル、約100億円)とされる。竣工式にはカマウ省人民委員会のレ・ヴァン・スー副知事や、CPベトナム水産部門の幹部が出席した。カマウはメコンデルタの最南端に位置し、ブラックタイガーやバナメイの一大養殖地帯を抱える。飼料をその中心に置くことで、代理店や養殖業者への配送距離を縮め、供給の即応性を高める狙いだ。
産地に飼料が近づくと何が変わるのか
飼料はエビ養殖の生産コストの大きな部分を占める。工場が養殖地帯の中にあれば、輸送費と納品リードタイムを抑えやすく、需要変動への対応もしやすくなる。ベトナムのエビは飼料コストの高さが競争力の弱点とされてきた。産地内での増産がその改善にどこまで効くかは、原料の搬入費や工場の稼働率にもよるが、コスト構造を見直す一歩ではある。
品質管理の面でも含意がある。エビ輸入では、抗生物質の残留や品質のばらつきを避けるために、飼料の配合や使用履歴まで確認したい買い手が多い。CPは飼料・養殖・加工を手がける統合型の事業で知られ、飼料をどこでどう作るかを自社で把握しやすい立場にある。今回の工場だけで一貫した供給網が完成するわけではないが、産地の近くで飼料が作られること自体は、供給網の見通しをよくする一材料になり得る。
数字で見るCPカマウ工場
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 稼働日 | 2026年8月7日 |
| 立地 | カマウ省カーニャン工業団地 |
| 敷地面積 | 約18ha |
| 年産能力 | 12万4,800トン |
| 総投資額 | 1兆7,250億ドン(約6,620万米ドル・約100億円) |
| 主力製品 | エビ用飼料(Blanca/Hi-Po/Hi-Gro ほか) |
| 位置づけ | CPベトナム国内4カ所目・国内合計65万トン超へ |
評価が分かれる三つの論点
この稼働は、三つの角度から評価できる。ひとつは、メコンデルタでの飼料増産そのものだ。産地内供給が進めば、養殖農家は飼料の入手と価格の面で安定を得やすくなる。ふたつめは、大手による統合が進むことの両面性である。効率と履歴の追いやすさは上がる一方、中小の飼料業者や独立系養殖農家がどう位置を保つかという論点は残る。
みっつめは、輸出市場を意識したコスト競争力だ。ベトナムのエビは対米関税や他産地との価格競争にさらされており、飼料コストの改善は輸出全体の底上げにつながり得る。飼料という川上の一手が、加工・輸出という川下の交渉力にどう波及するかは、今後の稼働実績で見えてくる。
日本のエビ調達担当への示唆
日本の水産バイヤーにとって、この工場は直接の取引先ではなくても、産地の供給体質を読む手がかりになる。エビを仕入れる際に確認したいのは、加工工場の認証だけでなく、その背後にある飼料の出所と使用履歴だ。飼料から加工まで一貫して追える供給網を持つ産地は、品質のばらつきを抑えやすく、問題が起きたときの追跡もしやすい。
実務では、カマウのように飼料・養殖・加工が地理的に集まった産地を、調達候補の一つとして押さえておく価値がある。とくにASCなどの認証養殖に、原料や製造工程まで追える飼料が組み合わされば、日本の小売や外食が求めるトレーサビリティに応えやすい。産地内に飼料工場があることは、その追跡を進めやすくする条件の一つだ。関連して、カマウのエビ養殖組合がASC認証を取得した動きや、ダムゾイの721haに及ぶASCブラックタイガーは、同じ産地圏で供給網が整いつつあることを示す。
市場への波及
飼料能力の増強は、ベトナムのエビ輸出戦略の川上を固める動きだ。対米市場が関税で揺れるなか、ベトナムは韓国・オーストラリア・日本といった市場への分散を進めている。主要5市場でのエビ輸出の並び替えが進むなかで、コスト競争力を底支えする飼料の産地内供給は、価格交渉の余地を広げる要素になり得る。日本の買い手は、こうした川上の整備が数量と価格の安定に効く時間軸を見ておきたい。
まとめ:飼料の出所まで調達の評価軸に入れる
CPカマウ工場の稼働は、ベトナム産エビの供給網が「産地内で完結する」方向へ一歩進んだ合図だ。日本の調達担当が次に取れるのは、取引候補のエビ産地について、飼料の出所・養殖認証・加工能力を一枚のシートで並べて比較することだ。価格表だけを見比べるのではなく、飼料から加工までの一貫性を評価軸に加えれば、安定調達の相手を選ぶ精度が上がる。