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餌が先に建った、De Heusヴィンロン工場と越の沖合養殖

オランダの飼料大手De Heusが2026年7月22日、ベトナム南部ヴィンロン省タインドゥック坊に、海水魚と冷水魚に特化した飼料工場を落成させた。敷地は29,300平方メートル、初期の生産能力は年84,000トンで、設計上は年168,000トンまで引き上げられるという。式には農業環境省のヴォー・ヴァン・フン次官、ヴィンロン省人民委員会のチャン・チー・クアン主席、在ホーチミン市オランダ総領事のライサ・マルトー氏が並んだ。ナマズとエビで回ってきたベトナムの水産飼料網に、海の魚を対象にした供給線が太く通ったことになる。日本の白身魚調達がベトナムへ寄り始めている以上、餌の側で何が起きたかは産地の実力を測る先行指標になる。

目次

ヴィンロンに建ったのは「海の魚とチョウザメの餌」の工場

工場が置かれたのはヴィンロン省タインドゥック坊ソンドン地区。生産ラインは欧州と米国から導入した自動化設備で構成され、品質管理はISO 22000、ASC Feed、BAPの三つの規格に沿って運用されると各紙が伝えている。生産対象は海水魚と冷水魚、そして経済価値の高い水産種と説明されており、ナマズやエビといったベトナム水産の主力とは別の帯を狙っている。

能力の数字は媒体によって表記が割れる。Báo Chính phủは初期段階が年84,000トン、設計能力が年168,000トンと書き分けており、起点記事のNông nghiệp và Môi trườngとDân Việtは84,000トンを設計能力として報じている。同じBáo Chính phủでも、記事によっては本文で84,000トンを設計能力と書いており、表記は一本化されていない。両者を素直に読むなら、当面は84,000トンで立ち上げ、需要を見ながら倍近くまで伸ばせる箱を先に作った、という構えになる。投資額はいずれの報道にも出ていない。

「ベトナム初の海水魚飼料工場」ではない

この案件は日本語で紹介されるとき「ベトナム初の海水魚専用飼料工場」と要約されやすいが、原文にあたるとその読み方は成立しない。Báo Chính phủは「De Heusがベトナムに持つ工場のうち、海水魚向け飼料を専門に作る初めての工場」と書いており、主語はあくまでDe Heusである。ベトナム全体で初という記述は、確認した政府系・業界系のどの報道にも見当たらなかった。

この違いは調達側にとって実務的な意味を持つ。国内初の設備なら、それまで海水魚用の配合飼料がベトナム国内で調達できなかったことになり、産地の成熟度の評価が大きく変わる。実際には、外資系飼料メーカーとして名の通ったDe Heusが、自社のポートフォリオに海水魚・冷水魚の帯を足した、というのが正確な輪郭だ。ベトナムに進出しておよそ20年、水産飼料としては2011年にヴィンロンで最初の工場を稼働させた同社が、15年かけてたどり着いた品目拡張と読むほうが実態に近い。

飼料8.4万トンに対し、海水魚の生産は4.8万トン

この工場の性格を一番よく示すのは、ベトナムの海面養殖の中身と突き合わせたときの落差だ。2024年の海面養殖の総生産量は約83.2万トンで前年比5.0%増だが、その内訳は貝類が46万トンと過半を占め、海水魚は4.8万トンにとどまる。イセエビは0.4万トンだ。

区分 2024年の生産量 構成比
貝類 46.0万トン 約55%
その他 32.0万トン 約38%
海水魚 4.8万トン 約6%
イセエビ 0.4万トン 約0.5%
合計 83.2万トン 100%

貝類は餌をやらずに育てる。つまりDe Heusの新工場が相手にする市場は、実質的に4.8万トンの海水魚の帯である。そこへ初期能力だけで年84,000トンの飼料が乗る。ここで一つ断っておくと、飼料の重さと魚の重さは1対1ではない。魚を1kg太らせるには1kgを超える餌が要るので、両者を単純に引き算することはできない。それでも、一工場の初期能力だけで国全体の海水魚を養う量に届くという桁感は動かない。需要の伸びに合わせて足した増設ではなく、これから太る帯を先に押さえた設備と読むほうが筋が通る。

項目 2024年実績 2030年目標
海面養殖面積 58,000 ha(貝類の養殖面積) 300,000 ha
生簀容積 約970万m³ 1,200万m³
生産量 83.2万トン 145万トン
輸出額 約9億ドル(約1,470億円) 18〜20億ドル(約2,930〜3,260億円)

円換算は1ドル=約163円、1円=約162VND(2026年7月時点)で算出。2024年のha表示は貝類の養殖面積で、魚類とイセエビは生簀容積で管理される。2030年目標は2021年10月4日承認の海面養殖開発計画による。

2020年から2024年の年平均成長率は8.5%超。この勢いのまま2030年の145万トンに届かせるには、貝類の増産だけでは足りず、単価の高い海水魚を沖合で量産する以外に道がない。飼料工場が先に建つのは、その順番として理にかなっている。

次官・省・総領事が並んだ式典が示す温度

De Heusベトナム・アジア総裁のヨハン・ファン・デン・バン氏は、ヴィンロンへの投資を「ベトナムの海面養殖と冷水魚産業の発展に伴走するというDe Heusの長期戦略の一部」と位置づけた。単発の設備投資ではなく品目戦略だという説明である。

ヴォー・ヴァン・フン次官は、長い海岸線と固有の生態区を持つベトナムにとって海水魚と冷水魚は潜在力の大きい分野だとしたうえで、産業の軸足が量の拡大から品質・付加価値・持続可能性へ移っていると述べた。飼料の供給網、養殖、研究と技術移転、加工、消費を一本につなぐ効果は、記事の地の文で説明されている。行政側が飼料を川上のインフラとして扱っている点が読み取れる。ヴィンロン省のチャン・チー・クアン主席は、この工場が生産能力を底上げし、養殖業者が先進的な栄養ソリューションに手を届かせる助けになると評価したうえで、農業・水産向けの産業投資を呼び込むヴィンロンの役割と、メコンデルタ全域のバリューチェーン形成に触れた。なお、この工場を「水産業の投入財サプライチェーンにおける重要な結節点」と位置づけているのは主席の発言ではなく報道各紙の地の文で、行政の言葉として引くのは正確でない。

在ホーチミン市オランダ総領事のライサ・マルトー氏は、De Heusがベトナムで投資を広げ続けていることを、オランダ企業がベトナムの農業分野で持つ「大きな潜在力」の表れだと述べている。中央省庁の次官、省トップ、投資国の総領事が同じ式に並ぶ構成は、この工場が一企業の生産設備を超えて、国家目標と外資誘致の文脈に置かれていることを示している。

日本の調達が見るべきは「餌の素性」に移る

日本のバイヤーにとって、この工場の意味は生産量ではなく認証の連鎖にある。新工場が掲げるASC FeedとBAPは、飼料そのものに対する規格だ。ASCの制度では、養殖場がASC認証を取得する際に使用する飼料の要件が問われるとされ、認証飼料が国内で手に入るかどうかは、産地が国際認証を取れるかどうかに直結する。海外から認証飼料を運んでいた状態と、国内のヴィンロンで積める状態では、産地側のコスト構造も認証取得のハードルも変わってくる。

この動きは、生簀のハード面と制度面ですでに進んでいた変化と噛み合う。カインホア省では木製の筏をHDPE製の生簀に置き換える取り組みが進み(木製筏を捨てHDPE生簀へ、カインホアが挑む台風に強い海面養殖)、制度の側でも海面養殖に国家規格が定められて保険と融資の道が開かれつつある(ベトナムが海面養殖に初の国家規格、保険と融資の壁を崩す一手)。生簀、規格、飼料という三つの前提が2年ほどの間にそろってきた形だ。日本側が産地を評価するとき、これまでの「どこの海で獲れたか」から「何を食べて育ったか、その餌はどの規格で作られたか」へ、確認項目が一段深くなる。

調達の時間軸で言えば、いま動くべきは買い付けではなく接触である。餌の側が国全体の現在の魚量に見合う規模まで先に用意された以上、それを食べ切るだけの海水魚が市場に出てくるのは早くて数年先だ。量が出てから商談に行けば、条件は先に入った買い手が決めた後になる。生簀と餌の両方をどこが押さえているかを今のうちに把握しておくほうが、後の交渉余地は広い。

冷水魚が同じラインに載った意味

見落とされやすいのは、この工場が海水魚と冷水魚を同居させている点だ。ベトナムの冷水魚はチョウザメとサーモンが中心で、ラムドンやラオカイなど標高の高い内陸で育つ。ダクノン省を流れるクロンノー川流域のように、欧州原産の魚が源流域に定着した産地も出てきた(欧州の魚が源流に棲む、クロンノー川チョウザメ産地の実像)。

この分野の弱点は長く餌にあった。業界誌Thủy sản Việt Namは2021年の時点で、冷水魚養殖では飼料が生産コストの6割超を占め、サーモン養殖用飼料のおよそ半分が輸入だと指摘し、冷水魚を手がける省は25に達していると報じている。数字は5年前のものだが、輸入依存という構造そのものが短期間で解消するとは考えにくい。国内で冷水魚用飼料が量産されれば、効いてくるのはコストの最も重い部分だ。

メコンデルタのヴィンロンから北部山岳やラムドンまでは距離があり、物流費が輸入との差をどこまで埋めるかは実際の価格を見ないと判断できない。ただ、海水魚と冷水魚を一つのラインでまとめた設計自体が、ベトナムの高付加価値養殖はこの二つだというDe Heusの読みを表している。

商談前に押さえておく基礎情報

項目 内容
事業者 De Heus(オランダ資本の飼料メーカー)
所在地 ヴィンロン省タインドゥック坊ソンドン地区
落成日 2026年7月22日
敷地面積 29,300 m²
生産能力 初期 年84,000トン/設計 年168,000トン
生産対象 海水魚、冷水魚、経済価値の高い水産種
取得規格 ISO 22000/ASC Feed/BAP
設備 欧州・米国から導入した自動化ライン
ベトナム進出 約20年(水産飼料は2011年のヴィンロン工場が最初)
投資額 報道では非公表

供給先として想定される海面養殖の重点地域は、カインホア、フーイエン、キエンザン、クアンニンなどが挙げられている。産地を訪ねる順番を組むなら、生簀の更新が進む地域と、この飼料が届く物流圏の重なりを見ておくと無駄が少ない。

まとめ

ヴィンロンの新工場は、ベトナム初の海水魚飼料工場ではなく、De Heusがベトナム事業に海水魚と冷水魚の帯を足した設備である。ただし、一工場の初期能力84,000トンが、現在の海水魚生産4.8万トンを養う餌をほぼ一手に賄える規模だという点は、この投資が今日の需要ではなく2030年の145万トンという国家目標を見て打たれたことを示している。

日本の調達担当が次に取るべき手は三つある。第一に、取引先または候補となるベトナムの海面養殖事業者に、使用飼料の銘柄とASC Feed/BAPの適合状況を確認しておくこと。第二に、カインホアやフーイエンでHDPE生簀への更新を終えた養殖場を、量が出る前の段階でリスト化しておくこと。第三に、冷水魚については国内飼料の量産が価格にどう跳ねるかを、来期の見積もりで実際に確かめること。餌が先に届いた産地では、魚が届くまでの数年が交渉の準備期間になる。

参照元:Nông nghiệp và Môi trườngBáo Chính phủBáo Chính phủNhân DânDân ViệtBáo Tin tứcTuổi TrẻThủy sản Việt Nam

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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