ベトナム北部の山岳地帯で、樹齢を重ねた在来種の茶が「安い量産茶」の対極として売られはじめている。トゥエンクアン省ヴィントゥイ社タンラップ集落の加工所が手がけるシャンツェット(Shan Tuyet)雪茶は、キロ600万ドンという価格帯で少量流通し、加工の透明性そのものを商品価値に変えようとしている。標高と樹齢が値段を決める茶が、どこまで海外の棚に届くのか。日本の茶・健康食材バイヤーの視点で読み解く。
起点となった雪茶ブランドの中身
報じられたのは、ファン・テ・ドー氏が営む「ドークォア(Do Khoa)」というシャンツェット加工所の事例だ。茶園は2ヘクタール強、農薬・化学肥料を使わない栽培で、仕上げ茶の年産は1.5トンほど。そのうち最上級の「貴(quy)」ラインは年50〜60キロしか取れず、キロ600万ドンで売られる。摘採は「1トム1葉」、つまり芯芽1本に葉1枚だけを晴天時に摘む厳選で、萎凋・釜炒り・揉捻・乾燥を手作業主体で仕上げる。2024年には省レベルの「農村工業優秀製品」に認定された。
注目すべきは販路の作り方だ。現時点で正式な輸出契約は結んでおらず、個人のつながりとSNSのライブ配信を通じて国内外の顧客に直接届けている。加工工程を隠さず見せることで信頼を積み、口コミで海外在住者にも渡っているという段階にある。輸出先や輸出量の公的な裏付けはないため、本稿では「非公式ルートでの少量流通」として扱う。
ベトナムの古茶樹と雪茶文化という背景
シャンツェットは、標高1,000メートルを超える山岳に自生・半野生で育つ在来大葉種の茶を指す。芽に白い産毛が密生し、乾かすと雪をかぶったように見えることから「雪茶」と呼ばれる。イエンバイのスオイザン、旧ハザン一帯、ソンラのターシュアなどが産地として知られ、樹齢数百年の一本立ちの古木も少なくない。古茶樹は根が深く、寒暖差の大きい高地でゆっくり育つため、平地の量産茶とは香味の厚みが違うとされる。
行政の再編で、古茶樹の一大産地だった旧ハザン地域はトゥエンクアン省の版図に入った。つまりトゥエンクアンは、今回の加工所のような新興ブランドと、歴史ある高地古茶樹産地の両方を抱える茶の省へと性格を変えつつある。少数民族が山の斜面で守ってきた茶樹を、加工とブランドで「原料」から「銘柄」に引き上げられるかが、この地域の共通テーマになっている。
雪茶が高値で取引される理由は、栽培の手間だけではない。標高が高いほど生育は遅く、単位面積あたりの収量は落ちる。加えて古木からの摘採は機械化になじまず、熟練者の手作業に頼らざるを得ない。この「量が伸びにくい構造」こそが希少性の源泉であり、平地の量産茶と価格帯を分ける根本要因になっている。生産者が量産に走らないのは信念だけでなく、地形と樹齢がそもそも大量生産を許さないという事情も大きい。
データで見る雪茶の位置づけ
| 項目 | ドークォアの雪茶 | 一般的な平地量産緑茶 |
|---|---|---|
| 茶樹のタイプ | 高地在来大葉種・古茶樹 | 改良品種の栽培茶 |
| 栽培標高の目安 | 1,000m超の山岳 | 丘陵〜平地 |
| 摘採基準 | 1トム1葉・晴天時のみ | 機械摘み中心 |
| 年産(仕上げ茶) | 約1.5トン | 規模により大量 |
| 最上級ラインの価格 | キロ600万ドン(年50〜60kg) | 大衆価格帯 |
| 販路 | SNS直販・個人networkの非公式流通 | 卸・小売の既存流通 |
数値はいずれも起点記事で確認できた範囲に限った。輸出先国・輸出量は公的な裏取りがないため表には含めていない。
現地・業界の反応
第一に、生産者側は「安売り競争から降りる」姿勢を鮮明にしている。年60キロしか作らない最上級ラインを軸に据えるのは、量ではなく希少性と物語で値決めするという選択だ。この考え方は、トゲバンレイシの葉茶で豪州と複数年契約に漕ぎ着けた事例とも重なる。婦人会幹部を辞めた女性が、トゲバンレイシの茶で豪州と3年契約のように、素材の物語性を軸に海外の棚を取りにいく動きが北部の山岳部で広がっている。
第二に、高地・少数民族産品を「観光と物語」で高単価化する流れが後押しになっている。標高1,600メートルの霧をブランドに変えた標高1600mの霧を売る、ザオ族が地生ランで貧困から抜けた日の事例は、雪茶と同じ「高地であること自体が付加価値」という論理に立つ。産地の標高や在来性を隠さず前面に出す売り方が、山岳部の共通戦術になりつつある。
第三に、自然資源を伐らずに稼ぐ持続性の視点だ。森を残したまま林床の薬用植物で収入を得る森を伐らずに砂仁で稼ぐ、ランソンの縮砂産地が動くと同様、古木を切らずに摘採で長く稼ぐ雪茶は、山の生態系と生産を両立させる原料として語りやすい。
日本の茶・健康食材バイヤーへの示唆
日本のバイヤーにとって、この種の雪茶は「安い代替緑茶」ではなく、差別化原料の候補として見るべきだ。国内の茶市場が価格競争と需要縮小に直面するなか、高地在来種・古茶樹・農薬不使用・手摘みという要素は、ギフト茶や専門店向けのストーリー商材として訴求点になる。特に、産地標高や樹齢を明示できる原料は、健康志向のブレンド茶や機能性を語らないプレミアム茶の素材として棚に載せやすい。
一方で、現状の販路がSNS直販と個人ネットワーク中心である点は、そのまま輸入商談のリスクになる。年産1.5トン・最上級ライン60キロという規模では、日本の小売チェーンが求めるロット安定供給には届かない。バイヤーが動くなら、まずは少量の専門流通やEC限定で試し、加工所の透明性(工程開示)を検品・トレーサビリティの裏取りに使うのが現実的だ。輸出実績が公的に裏付けられていない以上、輸出先の実績数値を鵜呑みにせず、自社で残留農薬や規格を確認する前提で臨む必要がある。
業界への波及
この動きは、ベトナム北部の茶産地全体に「量産から銘柄化へ」の圧力をかける。旧ハザンを取り込んだトゥエンクアンが古茶樹を看板に押し出せば、周辺省の在来茶も同じ土俵で語られる。加工所単位のブランドが乱立すれば、産地名だけでは差別化できなくなり、樹齢・標高・摘採基準といった検証可能な指標で選別される時代に入る。日本側にとっては、産地表示の裏を取れる原料ほど価値が上がるということだ。買い付けの現場では、ブランドの物語よりも、その物語を裏付ける数値と工程開示の有無が判断材料になる。
実用情報
雪茶の調達を検討する場合、確認すべきは次の点だ。まず茶樹の在来性と標高、樹齢の裏付け。次に栽培方法(農薬・肥料の使用可否)と第三者検査の有無。そして年産量と最上級ラインの供給可能量、価格の階層。加工所がSNSで工程を公開している場合は、萎凋から乾燥までの一貫性を確認材料にできる。輸出契約や輸出先の実績を提示された際は、通関書類や取引先の裏取りができるまで数値を確定情報として扱わないことが、後のトラブルを避ける。少量からの試験輸入と、供給拡大時の安定性を切り分けて交渉するのが賢明だ。産地名が行政再編で変わった直後という点も、書類上の産地表記と実際の栽培地が食い違いやすい時期であり、原産地の確認は通常以上に丁寧に行う価値がある。
まとめ
トゥエンクアンのシャンツェット雪茶は、高地在来種の古茶樹という素材を、加工の透明性とブランドで「原料」から「銘柄」に引き上げようとする典型例だ。キロ600万ドンの最上級ラインは、量ではなく希少性で値決めする戦略を体現している。日本の茶・健康食材バイヤーにとっては、差別化原料の候補として魅力がある一方、供給規模と販路の未成熟がそのまま調達リスクになる。標高・樹齢・栽培方法という検証可能な指標を裏取りしながら、少量から関係を築くのが現実的な入口になる。
参照元
- Trang Trại Việt(Dân Việt)「Tra Shan Tuyet Do Khoa o Tuyen Quang vuon xa ra the gioi」https://trangtraiviet.danviet.vn/tra-shan-tuyet-do-khoa-o-tuyen-quang-vuon-xa-ra-the-gioi-d1444892.html