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20年かけて人工繁殖を確立した親子、月50万尾の壁は餌にある

ベトナムの水産専門メディアtepbacが2026年10月3日、マーブルゴビー(cá bống tượng、学名 Oxyeleotris marmorata)の種苗生産を20年以上追ってきた親子の話を載せた。父のタム・ティウ氏(Tám Tiếu)が旧ティエンザン省ミトー(2025年7月の再編で現在はドンタップ省)の自家養殖場で人工繁殖を手の内に入れ、息子のグエン・クオック・ダット氏(Nguyễn Quốc Đạt)がワムシ給餌で稚魚の生残率を50〜60%まで引き上げた。今は月20万〜30万尾を出荷し、月50万尾を目指している。それでも高級魚のままで、大規模な養殖対象になっていない。理由は餌にある。日本の種苗生産が抱えている壁と、ほぼ同じ場所で止まっている。

目次

卵からかえらせるところまでは、父の代で終わっていた

マーブルゴビーはカワアナゴ科で最大の魚で、東南アジア一帯に自然分布する。身の値が高く、市場も受け入れる。中国南部では1980年代に導入されて以降、人工繁殖から種苗育成まで技術が積み上がり、高付加価値の養殖魚として定着した。ベトナム、マレーシア、タイでは貯水池や河川の生け簀、あるいは池で養殖されている。素地は揃っている魚だ。

それでもメコンデルタの養殖者にとって、この魚は長いあいだ天然種苗に結びついていた。値は付くが、入ってくる量が読めない。いちばん大事な入り口が自然任せでは、規模の大きい養殖にならない。タム・ティウ氏が種苗の仕事に入ったのはこの状況下だった。何年もかけて繁殖を自分で回せるようにし、家族の養殖場でマーブルゴビーの生産工程を組み上げた。ミトーでの種苗生産と観賞魚の分野で功績のあった人物だ、とtepbacは書いている。

ところがここで逆説が出た。たくさんかえすことはできるのに、種苗のサイズまで生き残る数は別の話だった。

生き死にが決まるのは、魚がいちばん小さい数日間だ

ふ化直後のマーブルゴビーは非常に小さく、餌を捕る力が弱く、環境の変動に敏感だ。この時期に餌が合わないか水が急に悪くなると、斃死率が跳ね上がる。tepbacによれば、これは一軒の種苗場の問題ではなく、この魚の研究が長く指摘してきた要点だという。仔魚の高い死亡率と、種苗の成長の遅さ。この2つが大規模な種苗生産を阻んできた。5グラムから50グラムまで育てるのに1年近くかかると記録した研究もある。

ダット氏はホーチミン市農林大学で水産養殖を学び、動物薬・水産用薬の製造と販売に携わった。各地の養殖地を回るうちに、解決策が出てくるのはいつも魚が病気になってから、環境が悪くなってから、損害が出始めてからだと気づく。家族の養殖場に戻った氏は、その前の段階、特に魚がまだ非常に小さい時期に関心を向けた。

変更点の核がワムシ(luân trùng)の導入だった。ワムシは体が小さく、動きが遅く、初期の仔魚の捕食能力に合う。tepbacが引いた研究では、ワムシとアルテミアを使う育成工程で、収容密度15尾/リットル・30日後の生残率42%という記録がある。ダット氏の養殖場でのワムシ使用時の生残率は、現在およそ50〜60%だ。

項目 内容
対象魚 マーブルゴビー(cá bống tượng/Oxyeleotris marmorata)
場所 旧ティエンザン省ミトー(現ドンタップ省)の家族経営の種苗場
仔魚の生残率 約50〜60%(ワムシ給餌時)
参考値(研究) ワムシ+アルテミア、15尾/L、30日後の生残率42%
現在の生産量 月20万〜30万尾
目標 月50万尾
出荷サイズ(現行) 3〜4cm、4〜5cm、5〜6cm
出荷サイズ(追加予定) 6〜7cm、8〜10cm、10〜12cm
未解決の課題 生餌から配合飼料への切り替え

生残率の数字が効くのは、見栄えのいい成績が出るからではない。生き残る割合が上がって安定すると、市場に出せる種苗の数の上限が動く。tepbacは生残率の改善と、現在の月20万〜30万尾という生産量を続けて書いているが、生産量がワムシだけで決まったとは書いていない。親魚の数も、施設の規模も、人手も同じだけ効く。

種苗を大きくして売るほど、種苗場がリスクを引き受ける

現在の出荷サイズは3〜4cm、4〜5cm、5〜6cmの3段階で、今後は6〜7cm、8〜10cm、10〜12cmを加える予定だという。数センチ伸ばすだけの品揃えの話に見えるが、中身は損益の付け替えだ。

種苗が小さいほど、残ったリスクは養殖者側に移る。買った側が中間育成をし、サイズ分けをし、水を管理し、魚が十分に大きくなるまで斃死を引き受ける。種苗場が長く手元に置いて大きいサイズで売れば、そのリスクは育成設備の整った側に残る。養殖者は大きい魚を受け取れるが、種苗場は餌代と面積と時間と斃死の危険を追加で背負う。

そしてここで、この魚の古い弱点が戻ってくる。餌である。

高い魚なのに、毎日生き餌を追いかけている

マーブルゴビーは捕食魚だ。自然界での主な餌は小エビ、小魚、底生生物で、ベトナムのチアン湖(hồ Trị An)での研究では小型の淡水エビが最も重要な餌成分として記録されている。自然の餌が豊富な環境では長所になるが、大量生産に持ち込むと足かせになる。

池が数面なら、養殖者は餌用の魚やエビを調達できる。だが尾数が数十万になると、問いは「魚が食べるか」ではなく「その餌を毎日、同じ品質と価格で揃えられるか」に変わる。生き餌にはもう一つ厄介な点がある。魚が実際どれだけ食べたか掴みにくいことだ。投入した重量を記録すれば計算自体はできるが、生き餌は水分も食べ残しも一定ではないので、飼料要求率(FCR)は出しにくい。1キロの魚を作るのに餌がどれだけかかったのかが曖昧なままだと、前の作と次の作を同じ物差しで比べられない。

ダット氏は配合飼料への餌付けを試し始めた。ここが次の段階を決める。マーブルゴビーは生餌から配合飼料への切り替えが難しいことで知られ、国際的な研究もこの移行期をこの魚の主要な障害の一つと見ている。魚はペレットを拒否しがちで、切り替え中に死亡率が上がる。

だから問題は、タンパク質の十分なペレットを作ることではない。魚にそれを食べさせることだ。誘引する匂い、硬さ、粒の大きさ、切り替える時期、捕食の習性が、すべて試すべき変数になる。先に受け入れる個体もいれば、生き餌を待ち続ける個体もいる。急げば食べなくなり、生き餌を長く引っ張れば元の制約がそのまま残る。

完全養殖シラスウナギは年1万尾、この魚は月20万尾、どちらも餌の設計で規模が決まる

日本の読者にとっての読みどころは、この話がウナギとほぼ同じ構造だということにある。

水産研究・教育機構は2026年5月20日、山田水産、マリノフォーラム21と連名で、完全養殖ウナギの蒲焼の試験販売を発表した。完全養殖ウナギの蒲焼としては世界初の事例だという。山田水産は令和6年以降、2年続けて水研機構と同等の効率で、年間1万尾以上の完全養殖シラスウナギの生産に成功している。ウナギで長年の壁になってきたのも、仔魚期の餌と生残率だった。

数の桁は大きく違う。ベトナムの家族経営の種苗場が月20万〜30万尾を出し、日本の国家プロジェクトと企業が年1万尾である。もちろん魚種も難易度もまるで違う。同じなのは、どちらも「どんな餌をいつ与えるか」で生残率が決まり、その生残率が事業の規模を直接決めている点だ。ワムシは日本の種苗生産でも初期餌料の定番で、ベトナムの種苗場が辿り着いたのも同じ道具だった。

もう一つ、日本側が実務で使える見方がある。ベトナムの養殖魚を買うときに「種苗は人工か天然か」「配合飼料で育てているか」の2つを聞いておくと、供給の読みやすさを測る材料になる。種苗が天然依存なら量が年で振れるし、生き餌中心なら原価の根拠が出にくい。対日輸出が8ヶ月で77%伸びたティラピアやパンガシウスは、この2つが揃っている魚種にあたる。もっとも、量が出る理由はこれだけではない。病害の抑え込み、加工場の体制、輸送、需要側の引きも同じだけ効く。

飼料工場の認証が整っても、その飼料を食べない魚は残る

ベトナムの養殖用飼料の川上は、この数年でかなり整った。ASC飼料認証の取得工場数でベトナムは世界最多の15になり、カマウではCPの飼料工場が稼働した。認証も設備も整ってきている。それでもマーブルゴビーはその飼料に乗っていない。どの魚にも合う汎用ペレットという発想ではこの魚は動かず、専用に設計された飼料が存在しないことが研究でも指摘され続けてきた。飼料産業の成熟と、個別魚種の規模化は別の時計で進む。

価格の振れも実在する。tepbacには「Cà Mau: Giá cá bống tượng giảm, người nuôi mất hàng chục tỷ đồng」(カマウ:マーブルゴビーの値が下がり、養殖者が数十 tỷ ドン=数百億ドンの損失)という見出しの記事も並んでいる。高級魚だから安泰ということはない。なお同サイトの種苗販売欄には、5〜6cmの種苗が1尾3,000ドン(約18円)で出ている。月30万尾なら9億ドン(約549万円)の売上規模になる。

20年以上かけて、天然種苗から人工繁殖へ、仔魚の大量斃死からワムシでの生残率50〜60%へ、小型種苗から大型種苗へと段階が進んできた。tepbacの記事は「20年以上の旅だが、まだ終着点に至っていない」という言い方で締めている。月30万尾から50万尾への1歩で、工程の弱点は拡大される。生残率が10%違えば、その時点で数万尾の差になる。育成期間が数週間延びることは、餌と面積と手間と危険が同じだけ増えることを意味する。

買う側が聞くべきことを並べておく

確認したいこと なぜ聞くか
種苗は人工か天然か 天然依存なら年ごとに量が振れる
仔魚期の初期餌料は何か ワムシ等が入っていれば生残率が安定しやすい
配合飼料で育てているか 生き餌だけだとFCRも原価も出ない
FCRの実績値を出せるか 数字が出ない相手は価格交渉の根拠も出せない
出荷サイズの刻み 大きいサイズを買えるほど自社の斃死リスクが減る
過去2年の単価の振れ幅 高級魚ほど下げ局面が大きい

まとめ

マーブルゴビーの種苗生産は、父の代が「どうやって子を作るか」を解き、息子の代が「どうやって繰り返して増やすか」に進んだ。ワムシで生残率が50〜60%になり、月20万〜30万尾が出るようになった。次に控えているのが配合飼料への餌付けで、これが通れば給餌量が測れ、成長速度が分かり、FCRが出て、原価が比較できる。ただしtepbac自身は、FCRをいくつに置くのが妥当か、養殖期間をどこまで短縮できるか、1キロあたりの原価をどこまで下げられるか、どの規模なら本当に効率的なのかという問いが、そのあとにまた並ぶと書いている。

日本の水産関係者がすぐできることは1つ。ベトナムから魚を買っている、あるいは買おうとしているなら、その魚種について「種苗は人工か」「配合飼料で育つか」を聞いてみることだ。この2つに両方「はい」が返る魚種は、価格も量も読める。片方でも「いいえ」なら、その魚はまだ高級魚の棚から降りてこない。

本文の円換算は1円=164ドン(2026年10月6日時点の実勢)で計算した。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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