農業・環境分野の専門紙 Nông nghiệp và Môi trường が2026年10月13日のベトナム企業家の日に合わせて載せたインタビューで、鶏卵メーカー TAFA Group の CEO チュー・ティ・ホン・トゥイ氏が、ベトナム人1人あたりの年間卵消費を約185個、日本を約340個、メキシコを約400個と挙げた。そのうえで「週に3個増やせば日本の水準」という言い方を重ねている。卵産業の話なのに、輸出で稼ぐ話としてではなく国内で食べる量を増やす話として組み立てられているのが、この記事のいちばん変わったところだ。越産の卵加工品を探している側からすると、相手が輸出より国内を先に置いている以上、条件を詰める順番が変わる。
週3個の上積みで185個が341個になる計算はCEOの言うとおりだった
先に算数を合わせておく。185個に週3個を52週分足すと156個増え、合計は341個になる。記事が挙げる日本の約340個とほぼ一致する。つまり「週に3個」は感覚で出した数字ではなく、日本の水準から逆算して置かれた数字だ。発言としての整合性は取れている。
ただし185個・340個・400個の3つは、記事がCEOの発言として示しているもので、統計の出典機関は本文に書かれていない。本稿でもそれ以上の裏は取っていないので、TAFA Group のCEOによる数字として扱う。
この数字を人口に掛け直すと、話の大きさが変わる。記事はTAFA Group が「約1億人のベトナム国内」に集中していると書いている。1億人×185個で年およそ185億個、341個まで動けば年およそ341億個になり、差は年156億個ぶんだ。輸出の商談を1件ずつ積むより、国内の1人あたり消費が週3個動くほうが量としては大きい。TAFA Group が国内を先に取ると言っているのは、この桁の比較から見れば筋が通っている。
卵1個に143項目の管理基準と追跡番号を付ける一方で記事には産地も法人名も出てこない
CEOが自社の中身として挙げたのは3つだ。欧州の技術、143項目の品質管理基準、そして1個ごとの追跡番号。品質を売る会社の説明としては過不足がない。
一方で記事は、法人の正式名称も、農場の所在する省も、1日あたりの出荷個数も書いていない。日本の調達が最初に聞く項目がそろって欠けている。143項目という数字も、日本側から見れば「そのうち第三者監査が入るのは何項目で、監査主体はどこか」まで分からないと使えない。項目数は自社基準の総数でもありうるし、外部認証に紐づく数でもありうる。記事のなかにその区別はない。
手がかりはある。同じ TAFA の名で、ホーチミン市・ダラット・ドゥックリン(ビントゥアン)に拠点を置く畜産法人が、欧州基準の全自動・クローズド飼育と30年超の経歴を会社概要として公開している。記事のほうもCEOの家業が30年以上の畜産歴だと書いており、年数は重なる。ただし記事中の TAFA Group と同じ法人かどうかは本文から確認できないので、ここでは重ねずに置く。
「9年で20倍」という伸びについても同じ注意が要る。2017年にCEOが家業に入ってからの9年で20倍なら、年率は約39〜40%にあたる。相当な速さだが、記事は倍率の分母を書いていない。売上なのか出荷量なのか羽数なのかで意味が変わるし、出発点が小さければ20倍でも絶対量は小さい。倍率は規模の代わりにならない。羽数と人数まで出ていた6万羽を8人で回すドンタップ省の空調鶏舎のような書き方と比べると、このインタビューは数量の情報が薄い。
30億ドル(約4,760億円)を掲げる卵産業でTAFAが先に取るのは国内1億人だ
記事の問いのひとつが「ベトナムの卵産業を30億ドル規模へ持っていくには何が必要か」で、CEOはそれを3点で答えている。国内と輸出の両方で市場を広げること、生産性と加工での付加価値を上げること、そして「ベトナム産」という共通の信用を作ること。換算しておくと、1ドル=158.54円(2026年10月12日時点のレート)で30億ドルは約4,760億円になる。なお記事は、この30億ドルが何年までの目標なのか、誰が置いた目標なのかを書いていない。
注目したいのは、産業全体の答えと自社の優先順位がずれているところだ。産業としては輸出も含めて答えているのに、TAFA Group 自身の重点は国内市場と加工品だと明言している。ここは製品構成が説明してくれる。記事が挙げる品目は、生卵、30日もつ焼き卵、そのまま食べられる卵の3本だ。殻付きの生卵は動物衛生の条件と日持ちの両方で国境を越えにくい。だから越えやすい形、つまり日持ちを伸ばした加工品へ重心を移している。輸出を正面から狙わずに加工を厚くする動きは、品目の性質から出てきた順序に見える。
伸び率と手残りが別物だという点も、ベトナムの畜産では繰り返し出てくる。年商280億ドンでも手元に5%しか残らないホーチミン市の養豚のように、回転は大きいのに利益率が薄い構造は卵でも起こりうる。1個が数千ドン(3,000ドンなら約18円、1万ドン=約61円で換算)の商品で、143項目の管理基準と個別の追跡番号を回すコストをどこで取るのか。CEOが持続可能性を「飼料・水・エネルギー・廃棄物の無駄を削ること」と言い換え、それがコスト削減でもあると説明しているのは、この問いへの答えになっている。
加工は原料の標準化より後だという順序を種鶏から包装までの垂直統合で説明している
CEOの主張のうち、日本側が読み落としやすいのが順序の話だ。加工に行くのは原料の供給が標準化された後、という順番を彼女は崩さない。小規模分散のままでは疾病管理も品質の揃いも効かないので、先に生産を標準化する。その手段として、種鶏と飼料から群の管理、選別、包装までを自社で抱える垂直統合を置いている。
この順序は、要求の厳しい市場に入るための条件としてCEOが並べた4点とも噛み合う。バイオセキュリティと食品安全、追跡のように検証できる情報、時間を通じた品質の一貫性、そして価格以外で選ばれるブランド。どれも原料が揃っていないと成立しない。
ここで誤読を1つ外しておく。記事に出てくる「24カ国」はCEOが訪れた国の数で、販売先ではない。世界鶏卵機構(WEO)についても、彼女は「WEOや海外企業とつながってきた経験から」と述べ、WEOで最も印象に残ったのは規模や機械ではなく学ぶ姿勢だったと語っている。記事はTAFA Group がWEOの会員だとは書いていない。輸出先の国名も輸出量も本文には出てこない。要約だけ読んで「24カ国に輸出している会社」と受け取ると、相手の実態を取り違える。
日本側が缶から袋に替えた殻むきゆで卵が越産卵のいちばん現実的な入口になる
日本の輸入業者・食品メーカーの側から見ると、ベトナム産の卵で動いている取引はすでに加工品の側にある。味付け卵の次に殻むきゆで卵を求め、缶から袋への切り替えを要請した日本の取引先の例は、TAFA Group が挙げる「そのまま食べられる卵」「30日もつ焼き卵」と同じ棚の話だ。つまり相手の製品構成と、日本側がいま欲しい形は近い。
そのうえで、このインタビューの情報だけでは商談に入れない。聞くべきは、法人名と農場の所在する省、1日あたりの出荷個数とロットの最小単位、143項目のうち外部監査が入る項目とその監査主体、30日という日持ちを出した試験条件(保存温度と包装形態)、原料卵の鶏舎形式、そして輸出向けの施設登録の有無だ。殻付き卵と加工卵では求められる条件が違うので、どちらの話をしているかを最初に合わせておく必要がある。
もう1つ、時間の読み方がある。国内消費が185個から341個の方向へ動く局面では、国内価格が先に上がって輸出に回る余力が細る順序もありうる。TAFA Group が国内1億人を先に取ると言っているのは、日本側から見れば「後からでは順番が回ってこないかもしれない」という合図でもある。加工卵の引き合いを持っているなら、相手が国内で手一杯になる前に条件を詰めておく価値がある。
記事が最後まで出さなかったのは、産地と1日の出荷個数だった。商談はそこを聞くところから始まる。