2026年第1四半期(1〜3月)、ベトナムのコメ輸出量は前年比0.2%増の230万トンと安定を維持した一方、輸出額は前年比7.8%減の11億ドルに落ち込んだ。農業環境副大臣フン・ドゥク・ティエン氏が4月に公表した統計によると、平均輸出価格はトン当たり480ドルで前年比8%下落。グローバルな供給過剰とインド・タイによる価格引き下げが主因とされる。主要輸出先はフィリピン・中国・アフリカ諸国(ガーナ・コートジボワール)で、3月単月の出荷量は100万トン・輸出額5億1,650万ドルに達した。
Q1コメ輸出の詳細データ
| 指標 | 2026年Q1 | 前年比 |
|---|---|---|
| 輸出量 | 230万トン | +0.2% |
| 輸出額 | 11億ドル | -7.8% |
| 平均輸出価格 | 480ドル/トン | -8% |
| 3月輸出量 | 100万トン | — |
| 3月輸出額 | 5億1,650万ドル | — |
数量ベースでは堅調を維持しているものの、単価の下落が収益を直撃している。ベトナム米の強みである「高品質・安定供給」が価格面では必ずしも報われていない状況だ。
インド・タイとの価格競争——何が起きているのか
価格下落の最大の要因は、インドとタイによる輸出価格の引き下げだ。
インドの動向
インドは2023年にコメ輸出規制を実施していたが、2025年以降に規制を緩和・撤廃し、低価格帯の非バスマティ米を大量に市場投入した。インド産コメはアフリカ・中東・東南アジア市場でベトナム産の直接競合となっており、価格競争力では依然としてインドが優位に立つ。
タイの動向
タイは為替(バーツ安)を背景に輸出価格を引き下げ、フィリピンや中国向けで積極的な価格競争を展開している。かつてベトナムと並ぶ高品質米の産地として差別化されていたタイ米だが、主食用米でも価格優先の戦略にシフトしている。
アフリカ市場での構造的問題
ガーナ・コートジボワールなどアフリカ向け輸出では、長距離輸送コストの上昇(燃料費・海上運賃の高止まり)が利益率を圧迫している。ベトナムからアフリカへの輸送距離はインドから比べて長く、コスト構造で不利な状況が続いている。
ベトナム政府・業界の対応戦略
農業環境副大臣フン・ドゥク・ティエン氏は、「量から質への転換」を改めて強調した。具体的な方向性は以下の3点だ。
- 高品質品種への集中:ST25(世界最優秀米2度受賞)をはじめとする高付加価値品種の生産・輸出比率を引き上げ、価格競争から脱却する
- 加工度の向上:白米から米粉・パックご飯・有機米など付加価値加工品への転換を加速する
- 市場多様化:フィリピン・中国依存からEU・日本・中東など高価格帯市場への拡大を推進する
メコンデルタを中心とした稲作農家にとって、今回の価格下落は収入直撃の問題だ。政府は農家組合と連携した「持続可能な稲作プログラム(1億ヘクタール計画)」を通じ、コスト削減と品質向上を同時に進める方針を掲げている。また、ビンロン省のハイテク稲作・有機ヤシ油生産プロジェクトなど、地方レベルでの農業高度化も進んでいる。
日本企業・輸入業者への示唆
1. 調達価格の好機——今が交渉の好タイミング
トン当たり480ドルという価格水準は、2022〜2023年の高騰期(600ドル超)と比較して大幅に低い。日本の食品メーカーや商社にとって、ベトナム産コメ(米粉・加工米含む)の中長期調達契約を見直す好機だ。特にST25やJasmine品種など高品質品種は、低価格帯の競争とは一定距離を置いており、品質重視の調達戦略で優位性を確保できる。
2. 米粉市場への注目
日本国内でグルテンフリー需要が拡大する中、ベトナム産米粉は価格競争力と品質の両立が可能な素材として注目されている。白米輸出が価格競争に晒される一方、米粉・ライスヌードルなど加工品の需要は堅調に推移しており、原料調達先としてのベトナムへの関心は高まっている。
3. 輸出価格の先行きを読む視点
インドのコメ輸出規制の再発動リスク、タイ・バーツの為替動向、アフリカの食料安全保障政策変化など、コメ国際価格を動かす要因は複数存在する。2026年後半にかけてベトナム産コメの輸出価格が回復する可能性もあり、中長期の価格見通しを複数シナリオで検討することが重要だ。Q1実績の詳細は2026年Q1農林水産輸出全体レポートやコメ輸出価格下落の詳細分析も参照されたい。
構造的課題——「価格ではなく価値」への転換は可能か
ベトナムのコメ輸出は長年「量・安さ」で市場を確保してきたが、インドとタイの攻勢を受けてその戦略の限界が顕在化している。農業環境省が掲げる「価格から価値へ」の転換は、生産農家・輸出業者・政府が一体となって取り組む長期課題だ。
一方で、ベトナムのコメ生産技術と品種改良は着実に進歩しており、ST25の国際評価や有機米の欧米輸出拡大など、「ベトナム高品質米ブランド」構築の芽は育ちつつある。Q2以降の輸出動向が、この戦略転換の試金石となるだろう。