ベトナム唐辛子価格が90%暴落――クアンガイ省の農家が赤字に直面、中国需要の減退が直撃

ベトナム中部クアンガイ省で、唐辛子の農家価格が前年同期比約90%下落し、1kgあたり5,000〜7,000VND(約30〜42円)にまで急落している。最大の輸出先である中国からの需要が大幅に減退したことに加え、輸送コストの高騰とコンテナ不足が重なり、国内市場は深刻な供給過剰に陥った。クアンガイ省だけで1,000ヘクタール以上の栽培面積を抱える唐辛子農家は、肥料代すら回収できない状態だ。

目次

クアンガイ省で何が起きているのか

クアンガイ省はベトナム最大級の唐辛子産地で、冬春作の栽培面積は1,000ヘクタールを超える。2026年4月時点で約765ヘクタールが収穫期に入り、平均収量は1ヘクタールあたり82キンタル(約8.2トン)。しかし、農家の手取り価格は1kgあたりわずか5,000〜6,500VNDで、2025年同時期の50,000〜70,000VND/kgと比べると90%以上の下落幅だ。

アンフー社だけでも約700世帯が合計56ヘクタール以上で唐辛子を栽培している。畑では赤く熟した唐辛子が買い手を見つけられずに放置され、一部はそのまま腐敗している。ビンソン郡のチュオンサ通り沿いでは、農家が少しでも高値を狙うために約2kmにわたって唐辛子を天日干しする光景が広がっている。

価格暴落の背景――中国市場の変調と物流コスト上昇

ベトナム産唐辛子の輸出先は中国が圧倒的に大きく、全輸出量の約88%を占める。中国は四川火鍋をはじめとする辛味文化で大量の唐辛子を消費し、以前はインドから調達していた分をベトナム産に切り替えてきた経緯がある。

しかし2026年に入り、中国国内の景気減速に伴い調達量が減少。加えて、中東情勢の緊迫化による海上輸送コストの急騰(従来比3〜4倍)が、コンテナの流動性を大幅に下げた。輸出用のコンテナ確保が困難になり、仲買業者は買い付け価格を大幅に引き下げざるを得なくなった。

こうした外的要因に加え、ベトナム国内では「計画なき栽培拡大」の問題も指摘されている。前年の高値を見て栽培面積を拡大した農家が多く、産地間の需給調整が機能しないまま供給過剰に陥った構図だ。

データで見るベトナム唐辛子市場

指標数値備考
クアンガイ省 栽培面積1,000ha以上冬春作、省東部の各社に集中
2025年同期の農家価格50,000〜70,000 VND/kg約300〜420円/kg
2026年4月の農家価格5,000〜7,000 VND/kg約30〜42円/kg(▲90%)
ベトナム全体の主要産地面積メコンデルタ 7,000ha以上 / 中部高原 4,000〜5,000ha年間生産量 約16万トン
中国向け輸出シェア約88%ラオス向け約10%
2024年 輸出額2,220万USD(9,274トン)前年比 数量+5.3%、金額+31.8%
2023年 輸出額2,000万USD(10,173トン)前年比+107%

現地の声――農家・仲買業者・行政

農家 Nguyen Thi Hien氏(アンフー社)

「この価格では種代と肥料代すら賄えない。家族で収穫作業をしているが、人を雇う余裕は全くない」。Hien氏は約1,000平方メートルの畑で1作あたり約300kgを収穫するが、5,000〜6,500VND/kgでは売上がわずか15万〜20万円程度。投入コストを下回る水準だ。

大規模農家 Nguyen Duy Phuoc氏(ビンソン郡)

「毎日2.5トンを収穫しているが、5,000VND/kgでは収入が投資コスト、肥料代、労務費をまったくカバーできない」。Phuoc氏のような大規模生産者ほど、固定費の負担が重くのしかかる。

輸出向け買い付け・梱包施設の担当者

「シーズン開始以来、需要は弱いまま推移している。1日10トン以上の買い付けは続けているが、輸送コストの上昇と輸出の鈍化で、価格を上げる余地がない」。仲買業者もまた、利益を確保できない厳しい状況にある。

アンフー社 行政

自治体は農家に対し、経済効率の高い他の作物への転換を奨励する取り組みを強化している。ただし、唐辛子栽培が地域経済に深く根付いているため、急速な転換は容易ではない。

日本の農業関係者・食品バイヤーへの影響

ベトナム産唐辛子は日本市場でも一味唐辛子、七味唐辛子の原料や、加工食品向けチリパウダーとして一定の流通がある。今回の価格急落は、日本側の調達環境にいくつかの変化をもたらす可能性がある。

短期的には、ベトナム産唐辛子の仕入れ価格が大幅に低下する好機だ。特に乾燥唐辛子は農家が天日干しで在庫を積み上げているため、加工用途向けの調達には追い風となる。一方で、Decree 46の食品安全規制見直しが進む中、安価な原料の品質管理にはこれまで以上の注意が求められる。

中長期的には、中国需要の回復次第でベトナム産唐辛子の国際価格が再び急騰するリスクがある。安定調達を重視するバイヤーは、価格が底値圏にある今のうちに長期契約を検討する価値がある。また、カシューナッツと同様、単一市場への依存度が高い品目はボラティリティが大きい点に留意すべきだ。

業界への波及――唐辛子に限らない「前年高値→翌年暴落」の構図

ベトナム農業では、ある作物が高値を付けると翌年に栽培面積が急拡大し、供給過剰で価格が崩れるサイクルが繰り返されている。コーヒーからドリアンへの転作ブームもその一例だ。唐辛子の場合、産地ごとの作付け計画が不在で、農家が個別に市況を見て判断するため、結果として全体の需給バランスが崩壊する。

クアンガイ省の農業局は2026年の農業普及活動に82億VND(約5,000万円)の予算を計上しているが、作付け面積の調整や輸出先の多角化にどこまで効果を発揮できるかは未知数だ。ベトナム全体では、香辛料(胡椒・唐辛子)の輸出先を中国一辺倒から米国・中東・日本へと分散させる動きが出始めているが、唐辛子についてはまだ道半ばだ。

実用情報

項目詳細
主要産地クアンガイ省(中部)、メコンデルタ(ドンタップ省ほか)、中部高原(ラムドン省ほか)
主な品種チーティエン(鷹の爪型)、ソンホン(大型種)
収穫シーズン冬春作: 3〜5月、夏秋作: 8〜10月
中国向け輸出の主な形態生鮮、乾燥、冷凍
日本への輸出ルート乾燥唐辛子・チリパウダーが中心。韓国・日本向け冷凍品も拡大傾向
関連規制中国向け: 植物検疫証明書必須 / EU向け: 残留農薬基準(MRL)への適合が課題
参考価格(2026年4月)農家出荷: 5,000〜7,000 VND/kg / 2025年同期: 50,000〜70,000 VND/kg

まとめ

ベトナム・クアンガイ省の唐辛子農家は、中国需要の減退・物流コスト高騰・国内供給過剰の三重苦に直面し、農家価格が前年比90%下落するという異常事態に追い込まれている。700世帯以上が赤字覚悟で収穫を続けるか、畑に放置するかの二択を迫られている状況だ。

日本の食品バイヤーにとっては、短期的な調達コスト低下のチャンスである一方、品質管理の徹底と中長期の価格リバウンドリスクへの備えが必要になる。ベトナム農業が抱える「単一市場依存」と「作付け計画不在」の構造的課題は、唐辛子に限らず多くの品目に共通するテーマだ。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

目次