ベトナム産カシューナッツ:中国が米国を抜いて最大輸出先に——米国関税20%・中東混乱で5億ドル産業が岐路

2025年に過去最高の55億ドルを記録したベトナム産カシューナッツ輸出に、2026年は構造的な転換点が訪れている。10年以上にわたり最大市場の座を占めてきた米国が2位に後退し、中国が初めて首位に立った。さらに2026年4月、米国がベトナム製品に20%の関税を適用する中(90日間の猶予措置あり)、ベトナムカシュー協会(Vinacas)は輸出目標80万トン・約50億ドルの達成に向けてリスク管理を強化している。中東市場の地政学的混乱と原材料高も重なり、業界は市場多様化と付加価値化への加速を余儀なくされている。

目次

数字で見るベトナムカシューナッツの現状

指標数値備考
2025年輸出額55億ドル過去最高
2026年輸出目標約50億ドル80万トン目標
中国向け(2026年1〜2月)約8,000トン・5,500万ドル超量+15.2%・額+23.7%
中東市場シェア(2025年)輸出総額の10%超UAE・トルコ・サウジが主要先
米国向け(2025年1〜7月)83,000トン・5億6,100万ドル量-27.5%・額-11.7%
米国関税率(2026年4月〜)20%90日猶予措置の対象外

なぜ中国が米国を逆転したのか

中国がベトナム産カシューナッツの最大輸出先に浮上した背景には、複数の要因が重なっている。

中国側の需要拡大

中国では都市部を中心に健康志向のスナック消費が急増しており、ナッツ類の市場規模は2020年代に入り年率10%超で拡大している。カシューナッツはアーモンド・クルミとともに「健康スナック御三家」として認知され、電子商取引(EC)プラットフォームを通じた個人消費が輸入増を牽引している。2025年5月の対中輸出は前年比量+44%・額+67%という急拡大ぶりで、2026年1〜2月も旺盛な伸びが続いている。

米国市場でのベトナム産シェア縮小

米国のトランプ政権による関税強化は、ベトナム農産物全般に影響を与えているが、カシューナッツも例外ではない。2025年通年で米国向けは量・額ともに二桁減を記録。2026年4月には20%関税が正式適用され(90日猶予措置はベトナムに対し一定期間継続)、輸出業者の利幅は著しく圧縮された。一方で中国への輸出加速により、業界全体の輸出額は2025年に過去最高を更新しており、短期的な影響は限定的だ。

中東市場の混乱——3つ目のリスク要因

ベトナムのカシューナッツ輸出先の第3グループを形成する中東(UAE・トルコ・サウジアラビア)では、地政学的不安定が深刻な影響を与えている。Vinacasのバック・カン・ニャット副会長によれば、中東向けの伝統的な契約の多くが停滞し、海運コストの週次・日次の変動が価格設定を困難にしている。中東は輸出総額の10%超を占める重要市場であり、この混乱は2026年の目標達成に向けての大きな変数となっている。

業界リーダーたちの戦略

Vinacasのファム・ヴァン・コン会長は「高値の原材料を急いで買わず慎重に進めることが重要」と警鐘を鳴らしつつ、以下の方向性を提示している。

  1. 米国・中国市場での存在感強化:中東リスクを相殺するため、両国市場での顧客基盤を拡充する
  2. 深加工品の開発:ローストカシュー・フレーバー付加・カシューバター・カシューミルクなど付加価値製品の輸出比率向上
  3. 原料調達の安定化:アフリカ(コートジボワール・ガーナ・タンザニア)からの原料輸入における価格交渉力強化

カオ・ファット社CEOのカオ・トゥック・ウイ氏は「米国の0%関税(現行の一部品目)がベトナム輸出業者のモチベーションを高めている」と述べており、品目によって関税状況が異なることへの注意を喚起している。

日本の輸入業者・食品加工業者への示唆

1. 調達先多様化のチャンス

米国・中東向け輸出が不安定化する中、ベトナム輸出業者は安定した取引先を求めている。日本市場向けのカシューナッツ調達において、価格交渉の余地が広がっており、中長期の調達契約を結ぶ好機だ。特に加工食品(製菓・菓子・スナック)向けの原料カシューは、品質規格を明確化した上での安定調達が重要になる。

2. 付加価値カシュー製品のOEM開発余地

日本市場ではカシューナッツを使ったヴィーガン食品(カシューバター・カシュークリーム)や機能性スナックへの需要が拡大中だ。ベトナムの加工施設は急速に高度化しており、日本のOEMメーカーがベトナム工場と連携して製品開発する体制構築が現実的になってきた。

3. 米国関税動向のモニタリング

90日間の関税猶予措置が終了した場合、ベトナム産農産物の米国向け輸出が大幅に縮小し、日本・EU市場への振り向けが加速する可能性がある。この場合、日本向けの供給量増加と価格低下が起こりうるため、市場の動向を注視する必要がある。ベトナム農産物全体のQ1輸出動向については2026年Q1農林水産輸出結果も参照されたい。

ベトナムカシュー産業の競争優位性——世界シェアと今後

ベトナムは現在、カシューナッツカーネル(殻を除いた実)の世界最大の輸出国であり、世界輸出の約30〜40%を占める。ただし原料(殻付き)の大半はアフリカから輸入しており、「加工貿易型」の構造を持つ。

アフリカ産地国(コートジボワール・タンザニア・モザンビーク)が原料の加工・付加価値化を自国内で行おうとする動きが加速しており、長期的にはベトナムへの原料供給が減少するリスクも存在する。この構造的リスクに対応するため、ベトナム国内での栽培拡大(ビンフオック省・ドンナイ省)と新品種開発も進められている。

コーヒー輸出が好調を維持する中(ベトナムコーヒー輸出動向参照)、カシューナッツも農産物輸出の中核を担う産品として、2026年の地政学リスクをいかに乗り越えるかが注目される。

引用・参考元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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