ベトナム食品輸出に「グリーンパスポート」必須の時代:62億ドル規模の農産物輸出を守る環境認証戦略

2026年4月10日、ホーチミン市で開催されたセミナーで、ベトナムの食品・飲料(F&B)企業が世界市場へのアクセスを維持するには「グリーンパスポート」=環境基準の取得が不可欠との認識が共有された。農産物輸出額が2024年に62億ドルを突破したベトナムにとって、この「見えない壁」への対応は、輸出競争力の核心テーマとなっている。

目次

セミナーの概要:誰が、何を訴えたのか

主催はホーチミン市投資・貿易振興センター(ITPC)とグローバル知的ビジネス協会(GIBA)。ITPC副センター長のホー・ティ・クエン氏は、サプライヤー選定に環境基準を組み込むEU・米国の大手小売業者の動向を紹介し、ベトナム企業が「価格競争」から「価値競争」へ転換する必要性を強調した。

GIBA会長でホーチミン市経済大学講師のホアン・ヴァン・ヴィエット氏は「世界の消費者の70%以上がエコフレンドリー製品に割増価格を払う意向を持つ」と指摘。AllMadeViet CEO・ライニー・ワイシャッペル氏は、国際バイヤーが求めるサプライチェーンの透明性と社会的責任対応を具体的に解説した。

数字で読む「環境基準」の重要性

指標 数値
ベトナムの農産物輸出額(2020年) 410億ドル
ベトナムの農産物輸出額(2024年) 620億ドル以上
世界のヘルシーフード市場規模(2026年見込み) 8,600億ドル超(年率10%以上成長)
エコフレンドリー製品に割増払いする消費者比率 70%超

3つの圧力:何が企業を追い詰めているのか

セミナーで整理された課題は3層構造だ。

1. 消費者の変化

健康・栄養・安全性・トレーサビリティを重視する消費者が増加。単なる「安さ」では通用しない市場になっている。EUのデジタル製品パスポート(DPP)規制が2027年以降に順次義務化される見通しで、輸出先での規制強化も予想される。

2. 流通業者の選定基準変化

欧米の大手スーパーマーケット・小売チェーンが、サプライヤー登録の条件として環境基準の証明書を求めるようになっている。認証がなければ棚に並ばない時代が到来しつつある。

3. 規制の義務化

トレーサビリティ・ラベリング・排出規制が各市場で法的義務として強化されている。EUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)は農産物へ拡大する可能性があり、対応が遅れれば関税面でも不利になるリスクがある。

農業バイヤー・商社への示唆

日本の農業バイヤーや商社がベトナム農産物を調達・販売する際には、サプライヤーの「グリーンパスポート」保有状況を確認することがリスク管理の基本になる。以下の4点を供給者選定の評価軸に加えることを推奨する。

  1. 品質保証体制(HACCP・ISO22000・Global G.A.P. 等):取得状況と更新年度を確認
  2. トレーサビリティ:産地→収穫→加工→輸送の全工程が文書化・デジタル化されているか
  3. 環境管理:農薬・化学肥料の使用記録、残留農薬検査の頻度と結果
  4. 社会的責任(CSR):労働条件・賃金水準・外国人技能実習生対応状況

特にEU向け輸出品を扱うバイヤーには、2026年中に供給者のDPP対応ロードマップを確認しておくことを強く推奨する。

ベトナム企業の現在地と課題

ベトナムの農産物輸出は量的には急成長しているが、付加価値加工品の割合はまだ低い。今回のセミナーで示された「価値型パートナーシップ」への移行は、日本側バイヤーにとっても好機だ。環境基準を共に整備し、欧米市場向けブランド米・有機野菜・認証コーヒー等を協業開発する取り組みは、中長期的な競争優位につながる。

既に動き出している事例として、ベトナム産カシューナッツの対中輸出拡大ドリアンのグリーンレーン認証輸出は、環境・品質基準への対応が新規市場開拓を可能にした好例として注目される。

今後のアクション:何から着手すべきか

  • 2026年中:主要サプライヤーのGlobal G.A.P. / FSSC22000 取得状況を棚卸し
  • 2026〜2027年:EUのDPP対応に向けたトレーサビリティシステム構築の協議開始
  • 2027年以降:CBAM拡大に備えたカーボンフットプリント計測の導入

まとめ

ベトナムの農産物輸出は2024年に62億ドルを超えた。しかし、環境・品質認証への対応が遅れれば、EU・米国市場での市場アクセスが物理的に閉じられるリスクがある。「グリーンパスポート」は今や輸出ビジネスの入場券だ。日本の商社・バイヤーは今こそサプライヤーの認証体制を精査し、共同で基準整備を進める絶好のタイミングにある。


引用元
Vietnam News (2026年4月10日): “Green passport” seen as key to global market access for Việt Nam’s F&B firms

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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