ベトナムのスターアニス産地と世界シェア・薬用需要を解説

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スターアニス(八角)とは?ベトナムが誇る香辛料の正体

「八角」と書いて「はっかく」と読む、あの独特な甘い香りのスパイス。
星形の果実が印象的で、中華料理や台湾スイーツでおなじみですよね。

じつはこのスターアニス、世界流通量の約80〜90%がベトナムと中国の2カ国で生産されています。
そして医薬品・食品の両分野で欠かせない原料として、国際市場でその存在感を増しています。

「なぜ今スターアニスが注目されるのか?」「ベトナム産はどんな特徴があるのか?」
この記事では、産地の実態から世界需要・薬用・食用利用まで、まとめて解説します。

ランソン省が中心地──ベトナム最大のスターアニス産地

ベトナムにおけるスターアニス生産の中心地は、北部のランソン省(Lang Son)です。
中国・広西省と国境を接するこの地域は、山がちで冷涼な気候がスターアニスの栽培に適しています。

標高400〜1,000mの山岳地帯に広がる農地では、樹高5〜15mに育つイリシウム・ベルム(Illicium verum)が列をなして植えられています。
樹木は植えてから5〜6年で初収穫を迎え、その後100年近く実をつけ続けることもあります。

ランソン省のほかにも、カオバン省(Cao Bằng)やバクカン省(Bắc Kạn)でも栽培が行われています。
ただし生産量・品質ともにランソン省が突出しており、「ランソン産」はブランドとして認知されています。

ベトナムの年間生産量

ベトナムのスターアニス生産量は年間によって変動しますが、近年は1万〜1万5,000トン前後で推移しています。
このうち乾燥品として輸出される割合が大きく、日本・EU・米国などが主要な輸出先です。

世界シェアの構造──ベトナムと中国の二極支配

スターアニスの国際市場は、ベトナムと中国がほぼ独占しています。
以下に主要生産国のシェアをまとめます。

推定シェア 主な産地
中国 約50〜60% 広西省、雲南省
ベトナム 約30〜40% ランソン省、カオバン省
その他(ラオス等) 数% 北部山岳地帯

中国産は絶対量では多いものの、近年は労働コストの上昇や産地の高齢化が課題になっています。
一方ベトナム産は品質の安定性と価格競争力で評価が高く、輸出量を着実に伸ばしています。

特にEUや日本の食品メーカーがベトナム産にシフトする動きは顕著で、調達先の多様化という観点からも注目されています。

タミフルの原料として──知られざる薬用需要

スターアニスが医薬品分野で脚光を浴びたのは、2000年代初頭のことです。
抗インフルエンザ薬「タミフル(オセルタミビル)」の主要原料として、その重要性が一気に高まりました。

タミフルの有効成分であるオセルタミビルリン酸塩の合成には、スターアニスに含まれるシキミ酸(shikimic acid)が使われます。
シキミ酸はスターアニスの果実から抽出され、複数の化学反応を経てタミフルになります。

タミフル需要がもたらしたスターアニス価格の急騰

2005〜2006年の鳥インフルエンザ流行時、各国政府がタミフルを大量備蓄しようとしました。
その結果スターアニスの需要が急増し、価格が一時的に数倍〜十数倍に跳ね上がる事態が起きました。

その後タミフルの製造プロセスにはシキミ酸代替合成ルートも開発されましたが、スターアニス由来のシキミ酸は依然として主要な供給源の一つです。
パンデミック対策の観点から、各国の製薬会社はスターアニス産地との関係構築を重視しています。

医薬品以外の生化学的用途

シキミ酸は抗ウイルス薬以外にも、抗がん剤・抗炎症薬の研究分野で注目されています。
またアネトールというエッセンシャルオイル成分には、抗菌・抗真菌作用があることも報告されています。

食用利用──中華から和食、洋菓子まで

薬用需要が大きく取り上げられがちですが、スターアニスの用途は食品分野のほうが圧倒的に広いです。

世界的に見ると、スターアニスは以下のような場面で活用されています。

用途カテゴリ 具体例
中華料理 五香粉、豚の角煮、ルーロー飯
ベトナム料理 フォー(pho)のスープ出汁
洋菓子・リキュール アブサン、パスティス、グリューワイン
インド料理 ビリヤニ、マサラチャイ
日本の加工食品 ラーメンスープ、タレ、惣菜

特にベトナムのフォーには欠かせないスパイスで、「八角なきフォーはフォーにあらず」とも言われます。
フォーのスープを煮込む際に数個加えるだけで、あの独特の甘い香りが生まれます。

日本でも中華食材として長年親しまれてきましたが、近年はクラフトジンやクラフトビールのフレーバー素材としても需要が伸びています。

ベトナム産スターアニスの品質と流通

ベトナムのスターアニスは、乾燥した丸ごとの実(ホール)、砕いたもの(ブロークン)、粉末(パウダー)、精油の4形態で流通しています。

品質評価の主な指標は以下のとおりです。

  • 精油含有率:一般的に6〜8%以上が高品質とされる
  • 水分含有量:乾燥品で12%以下が基準
  • 異物混入率:輸出規格では1%以下
  • 外観:星形が整っており、欠けが少ないものが上級品

ランソン省産は精油含有率が高く、香りの強さで評価されています。
日本の食品輸入業者の間でも「ランソン産」の知名度は高いです。

輸出は主にハノイの加工業者を経由し、乾燥・選別・袋詰め後にコンテナで出荷されます。
近年は有機認証(オーガニック)取得農場も増えており、EU・日本向けの高付加価値輸出にも取り組んでいます。

まとめ

ベトナムのスターアニスは、ランソン省を主産地として世界供給の約30〜40%を担う重要な農産物です。
タミフルの原料シキミ酸の供給源として薬用需要を支えながら、フォーをはじめとした世界各国の食文化にも深く根付いています。

品質面・価格面でのベトナム産の競争力は高く、中国産への依存を分散させたい輸入業者にとっても魅力的な調達先です。
パンデミックへの備えという観点からも、スターアニス産地との安定した関係構築は今後ますます重要になります。

農業政策・気候変動・国際需要のダイナミズムが交差するスターアニス市場から、今後も目が離せませんね。

VN AGRIでは、ベトナム農業の最新情報を発信しています。

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