ダナン市ディエンバン・タイ社ノンソン1村の500m²の蓮田で、日本の古代蓮「大賀ハス」(ベトナム語で sen Oga)が最初の一輪をつけた。ベトナムの農業環境紙 Nong nghiep va Moi truong が10月10日に報じた。植え付けは2021年3月で、開花までに5年を要している。在ダナン日本国総領事館の代表団が畑に入り、社の人民委員会はこの500m²を原種の保存拠点として残す方針を示した。
取引が動く話ではない。500m²は原料畑の規模ではないし、大賀ハスは食用品種として流通してきた系統でもない。それでも、外来の栄養体を熱帯モンスーンの産地に持ち込んで定着させる工程として読むと、ベトナムへ品種や苗を持ち込む日本側の調達・商品開発が同じ順番で詰まる論点がそろっている。
2021年3月に植えた500m²が5年かけて一輪をつけた
保存・増殖の試験は2021年3月、ノンソン1村のMai Chi Cong氏の世帯が持つ500m²で始まった。農業環境紙によると、この5年で株は安定して育ち、再生力も強く、試験条件下では地元の在来種より冠水に強かった。一方で開花は遅く、記事は株数も花数も示していない。普及の可能性はこれから検証するという結び方で、開花が遅れた原因も特定されていない。視察は在ダナン日本国総領事館の代表団で、Mori Takero総領事が団長を務めた。
社の人民委員会が決めたのは3つある。ノンソン村の蓮田を原種の保存拠点として維持すること、栽培・植物保護の支局に水管理・施肥・植栽密度・土壌改良・開花促進の指導を求めること、経済課と社の公共サービス供給センターが農家と一緒に生育日誌を作ることだ。指導を求めた項目が水と土と密度に寄っているのは、開花の遅れを気候のせいにしていないという意思表示でもある。
この5年で動いたのは蓮ではなく住所のほうだった。植えた2021年の時点で、ここはクアンナム省ディエンバン市だった。2025年の行政再編でクアンナム省はダナン市と統合され、ディエンバン市の区域は社に再編されてディエンバン・タイ社になった。日本から鉢を受け取った行政単位と、これから生育日誌を作る行政単位は同じではない。
蓮を運んだのは日本政府ではなく和歌山県紀の川市だった
元記事は、大賀ハスが2020年に日本政府からベトナム政府へ贈られ、鉢がディエンバン市に移されたと書いている。ただ、その鉢が畑に入った日の記録はもう少し具体的だ。サイゴン・ザイフォン紙は2020年1月11日午前、クアンナム省ディエンバン市で大賀ハスの植樹式が行われ、苗を日本から運んだのは紀の川市(和歌山県)の市長だったと伝えている。クアンナム省が紀の川市と友好協力関係を正式に結んだのは、その翌日の1月12日である。
同紙は紀の川市を果物の町として紹介し、ベトナムの蓮を育てている土地でもあると書いている。2019年6月30日には、グエン・スアン・フック首相夫妻が紀の川市での日越の蓮の催しに出席していた。国と国の農業協力の枠ではなく、市と省の友好提携に付いてきた蓮だったことになる。
この違いは、費用と担当者がどこにいるかに関わる。原種を維持する手間は社の経済課と一世帯が負っていて、日本側の相手は紀の川市のまま変わっていない。変わったのはベトナム側の行政単位だけで、引き継ぎの責任は再編された側に残った。
1951年に検見川で採れた3粒のうち発芽したのは1粒だけ
鳥取県農業試験場の資料によると、大賀ハスは1951年春、千葉県検見川遺跡の地下約7メートルの青泥層から採られた3粒の種子に始まる。発芽したのは1粒だけだった。採ったのは蓮の権威だった大賀一郎博士(元東京農工大学教授)で、種子はシカゴ大学の研究所での放射性炭素年代測定により2000年以上前のものと推定された。ベトナム側の元記事は大賀博士が古代の蓮の種子を発芽させたと書くだけで、発掘の年には触れていない。日本側の公的資料と報道はいずれも1951年春で一致している。
千葉日報は、1954年に千葉県の天然記念物に指定され、1993年に千葉市の花に制定され、その後国内と海外の約200カ所に分根されたと書いている。最初に分根されたのは3カ所だった。大賀ハスは種をまいて広がった品種ではなく、1粒から発芽した1株を株分けでつないできた系統だ。ダナンの500m²に入っているのも、その系統の先端にあたる。
ここが調達目線での線引きになる。食用の蓮根や蓮の実を買う話とは別で、この畑の値は遺伝資源と交流の側にある。社は蓮田を日越友好の拠点と位置づけ、文化交流、観光客の誘致、とくに学生が日本文化に触れる場として使う構想を持っている。
鳥取県では池にヘドロが溜まって枯死寸前になり1972年に試験場へ移した
株分けでつなぐ系統は、1カ所で止まると系統ごと消える。鳥取県の記録がそれを示している。1957年、旧林業試験場の西尾茂氏が大賀博士の講演をきっかけに株を譲り受けた。ところが周辺の市街化で池にヘドロが溜まり、株は枯死寸前になった。1972年に農業試験場へ移され、そこから繁殖が進んだ。贈られてから移されるまでに15年かかっている。枯らしかけた原因は蓮の側ではなく水の側にあった。
ディエンバン・タイ社が「一部の株を土壌と微気候の条件が合う地域に移し、生育と開花を比較する」としているのは、この型のリスクを一度で回避する判断だ。ベトナムでも同じ発想の分散は動いている。ラオカイでタイ系バンレイシの苗2,300本を4戸に配った試験は、2haを1戸に集めず複数の世帯に割っている。試験の目的が「売れるか」ではなく「残るか」のとき、配った先の数がそのまま保険になる。
株数を数えていない5年は分散保存の比較対象にならない
分散して比べるには、比べる数字が要る。元記事が公表しているのは500m²と5年の2つで、植えた株のうち何株が残り、どの年に何輪咲いたかは出ていない。生育日誌を作るのはこれからなので、最初の5年は数量化されないまま残る。記録は6年目の一行目から始まることになる。
「在来種より冠水に強い」「開花が遅い」という評価も、同じ500m²で同じ水管理をした在来種の対照区があって初めて比較になる。現状は観察に基づく所見で、元記事もそう書いている。ベトナムの試験圃場で日本側が最初につまずくのはここで、主張のほうが記録より早く届く。
記録まで持っていった例もある。タインホアでは韓国の有機ブドウを5年近くかけて立ち上げ、キロ1,840円という単価まで出している。かかった年数はダナンの蓮とほぼ同じだが、出口に価格が置かれている点が違う。保存目的の圃場に価格は要らないが、残存株数と開花日の2つは要る。
ドンタップの1兆9,000億ドンと冷凍レンコン15トンが日本側の入り口
蓮を原料として買うなら、見る先はメコンデルタだ。ザ・サイゴン・タイムズが6月18〜21日の蓮祭りを2026年6月2日に予告した記事では、ドンタップの蓮は栽培面積が約1,800ha、生産額は年1兆9,000億ドン(1,900 ty dong、約116億円)を超え、蓮由来の食品・化粧品は100品目を上回り、そのうち約60品がOCOPの3〜4つ星認定を受けている。面積と品目数はベトナム通信社の数字が出所として挙げられている。以下、為替は1万ドン=約61円(2026年10月13日)で換算した。
対日の実績はレンコンで付いている。サイゴン・ザイフォン紙によると、2024年5月、ドンタップ省タップムオイ県の蓮祭りで、同省の蓮産業協会がSen Dai Viet社による日本向け正規輸出を発表した。数量は約15トン、IQFでマイナス25度に凍結し、40フィートコンテナ1本、金額は約10億ドン(1 ty dong、約610万円)。カットライ港から東京港へ送っている。2024年の見込みは約8コンテナ、受注総額は70億ドン弱(約4,300万円)だった。栽培から収穫までは約4.5カ月で、原料はドンタップとメコンデルタ周辺の省から集めている。公表された2つの数字を割ると1kgあたり約6.7万ドン(約410円)になるが、単価そのものは記事に書かれていない。
この構図から日本側が聞くべきことは絞れる。4.5カ月の作期なら1社から年2回の生産窓が取れるが、原料が複数省から集まる以上、1社の背後に産地が何県分あるかは別に確認が必要だ。栽培地コードを省ごとに出してもらい、その発給年も聞いておく。省と社の名称は2025年の再編で動いていて、ダナンの蓮田の住所が2度変わったのと同じ事情が、書類の側にも及んでいる。
花を原料として買う形も、ベトナムには先例がある。ハノイ近郊のジャスミンを協会が畑で全量買い取る仕組みは、花の鮮度が落ちる前に集荷を終える段取りで回っている。蓮の花を使う茶の原料でも、同じ段取りが要る。ダナンの500m²がその供給元になることはないが、ベトナムで花を原料に回すときの集荷の形は、この畑の外にすでにある。
鳥取では贈られた株が試験場に移るまでに15年かかった。ノンソン1村の生育日誌は、6年目の一行目から始まる。
Sources
- Nong nghiep va Moi truong「Trien vong bao ton, phat trien giong sen co Oga Nhat Ban tai Da Nang」
- Sai Gon Giai Phong「Le trong hoa sen Oga tai Quang Nam」
- Sai Gon Giai Phong「Dong Thap: Xuat 15 tan cu sen cap dong sang Nhat Ban」
- The Saigon Times「Dong Thap mo hoi sen, quang ba nganh hang hon 1.900 ti dong/nam」
- 鳥取県農業試験場「ハスたより」
- 千葉日報「世界最古の花・大賀ハス 弥生時代に想像広がる」